第411話 破壊神の使徒

「ああ、そのことであるか。破壊神の使徒が存在することはアルラも知っているだろう?」

「そういえば、そうだったな」


 死神の使徒、死王チェルノボクがどこにいるのかを探したとき。

 地図に淡く黄色く光っている場所があった。

 それをティミショアラは破壊神の使徒だと言っていた。


「確か光が弱くて、なりかけという話だったと思うが……」

「そうだ。だが、最近光が徐々に強くなっている」

「つまり日々成長しているということだな?」

「アルラの言うとおりである」


 破壊神の使徒、つまり破王は文明を破壊すると言い伝えられていたりもする。

 そして破壊神は一般的に邪神ともいわれている。


 話を聞いていたベルダが言う。


「破壊神の使徒……。邪神の使徒だな。警戒せねばなるまい」

「いや、一概にはそうは言えない」

「そうなのでございますか? アルラさま」

「神は、人の善悪、聖邪を超越した存在だ」

 そして俺は一般的に邪神とも呼ばれる死神の使徒チェルノボクを優しく撫でる。


「ぴぃぎ」

「とはいえ、強力な存在なのは間違いないから、お話はしたいな」

「会いに行きましょう、アルラさん!」


 クルスは目を輝かせている。そんなクルスにティミが言う。


「その必要はないかもしれぬぞ?」

「どういうこと?」

「報告というのはこっちが本命なのだが、徐々にこっちに近づいておる」

「破壊神の使徒が?」

「そうだ。王都からエルケーに真っすぐ近づいてきているのだ」

「いまどのあたり?」

「エルケーから徒歩で三日ぐらいだな」

「じゃあ、待っていればいいかな。どう思いますか? アルラさん」

「忙しいし、来るのを待てばいいだろう」

「アルラさまがそうおっしゃるなら、それが一番でございましょう」


 ベルダも賛成してくれたので、破壊神の使徒のことは待つことに決まった。


 その時ルカが言う。


「なにはともあれ、今は破壊神の使徒よりもダンジョンの探索に向かった方がいいわね」

 確かにそちらの方を急いだほうがいいのかもしれない。


「封じなおすにしてもなんにしても、中を確認しないことには判断できないのだわ」

「そうだな。一度見てみたいな」


 魔人の不死者とやらが、どのような状態なのか確認する必要がある。

 特に封印にほころびがないかは確かめなければならない。


 不死者の王ノーライフ・キングたちの計画の完遂は未然に防いだ。

 だが、相手は強力無比な魔物である不死者の王と魔人だ。

 秘密裏に徐々に計画を進めていた可能性も捨てきれない。

 封印に少しずつ亀裂を入れられていたかもしれないのだ。


 そんなことを、俺はルカとユリーナ以外に説明する。

 真面目に聞いていたクルスがうなずいた。


「ふむー。そうですねー。いつ封印が破れるかわからないとなると、怖いですね」

「勇者伯のいうとおりだな。アルラさま。お願いできますでしょうか?」

「ああ、すぐにでも転移魔法陣を通って内部を見てこよう」

「ぼくも行きますよ!」「ぴぎっ!」


 封印されているのは不死者の魔人なのだ。

 聖王クルスと死王チェルノボクが同行してくれるのならば心強い。


「ちょっと待つのだわ」

「む?」

「もう今日は遅いと思うのだわ」

「それもそうね。明日にしましょう」


 俺はすぐに向かおうと考えていたのだが、ユリーナとルカからストップがかかった。


「どうせ日の光の入らないダンジョンなんだ。ならば時間は関係ないだろう?」

「ダンジョン環境的には関係ないけど、中に入る人間には関係あるわ」

「それはそうだが……」


 俺は起きたばかりだ。休息を充分とっている。

 フェム、チェルノボク、モーフィも俺と一緒に寝ていた。

 だが、クルスたちがどうしたのかは聞いていなかった。


「もしかして、クルスもルカもユリーナもあれから働きづめなのか?」

「いえ? ぼくはちゃんと寝ましたよ?」


 そういって、クルスは首をかしげている。

 その横でルカがため息をついた。


「クルスが寝たといっても、一時間程度よ」

「クルスもルカも私も明け方に一時間だけ寝て、それから起きているのだわ」

「そうか……。俺だけ眠らせてもらったのか。すまない」


 俺が頭を下げると、ヴィヴィが言う。


「アルは歳だから仕方ないのじゃ」

「ヴィヴィはちゃんと眠ったのか?」

「クルスたちよりは寝たのじゃ」


 ということは、充分には眠っていないのだろう。


「もっも」「ぴぎぃ」

 俺と一緒に寝ていたモーフィとチェルノボクも申し訳なさそうにしている。


「ベルダも?」

「私は責任者でございますれば」

 どうやら、ベルダもほとんど寝ていなかったようだ。


「そうか……」

「アルラは魔力使いすぎていたし、ひざが痛くなったら困るし。眠ってくれてよかったのだわ」

 ユリーナは笑顔でそう言った。


「アルラ。ひざは大丈夫? 悪化はしていない?」

 以前、魔力を使いすぎてひざが痛くなったことがあった。

 だから心配してくれているのだろう。


「ユリーナもルカも気づかいありがとう。大丈夫だ」

 俺がそういうと、ユリーナとルカはやさしく微笑んだ。

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