第407話 お昼ご飯を作った人

 モーフィは早く食堂に一緒に行こうと誘っているのだろう。


「お腹減ったのか?」

「もぅ!」「ぴぎ!」「りゃっりゃ!」


 モーフィとチェルノボクとシギショアラが同時に鳴いた。

 シギはティミに抱かれたまま、羽をバタバタさせている。どうやらお腹がすいたらしい。


 シギには俺が眠る前にご飯を食べさせてはいる。

 だが、シギは赤ちゃんだからお腹がすくのが早いのだ。


「ティミ、報告はシギたちにご飯を食べさせてからでいいか?」

「まあ、構わぬ。大した急ぎでもないしな」

「そうか、それならご飯にしよう。もう昼過ぎだし、なにか適当に買ってきて食べるか」

「も!」『たべる!』「りゃあ」


 黙っているが、フェムの尻尾も揺れている。フェムもお腹がすいているのかもしれない。

 だからみんなで、部屋を出た。ティミはシギを抱いたままついてくる。


「あ、アルさん、おはよう!」

 トムがすぐに気づいて走ってきた。


「おはよう。トムはご飯食べたか?」

「うん、朝ご飯は食べたよ!」

「お昼ご飯は?」

「これからなんだ!」

「そうか。俺たちもお腹がすいているから、ご飯を買ってこよう。一緒に行くか?」

「大丈夫! 実はお昼ご飯はもう準備してあるんだ!」


 そう嬉しそうに言うと、トムは俺の手を引っ張って食堂に向かう。


「あ、おっしゃん! おはよ!」

「「「おはようございます!」」」


 ケィが真っ先に俺に気づいて走ってくる。

 その後ろでは、孤児の子供たちが元気に挨拶している。


「みんな、おはよう」

「おっしゃん、いっしょに、お昼ご飯たべよう!」

 そういいながら、ケィは俺の腕にしがみつく。


「ありがとう。じゃあ、みんなも一緒にご飯を食べようか」

「うん!」


 テーブルの上を見てみると、おいしそうな料理が並んでいた。


 それを見て、ティミに抱かれたシギも羽をバタバタさせて、尻尾を揺らす。

「りゃ、りゃ」


 シギはテーブルの上のおいしそうな料理を見て、食べたくなったのだろう。


「それにしても、おいしそうだな。こんな料理を売っているお店ってこの辺りにあったかな?」

「つくったんだよー。ケィも手伝ったんだよ!」

 ケィが自慢げに胸を張る。


「ケィ、すごいじゃないか」

 そういって、俺はケィの頭を撫でてやる。


 ケィだけで作れる料理のレベルではない。メインの料理人はミレットだろうか。

 ムルグ村から子供たちを送ってくるついでに昼ごはんも作ってくれたのかもしれない。

 もしそうなら、あとでちゃんとお礼を言わねばならないだろう。


「あたしも手伝った!」「ぼくも!」「ぼくも手伝った!」

 エルケーの子供たちも集まって来る。順番に頭を撫でてやる。


「みんな偉いな。すごく、おいしそうじゃないか」

「おれも手伝ったぞ!」

「タントも偉いな」

「えへへー」


 タントも最近は随分と元気になった。ほほえましい限りだ。

 ケィが俺の腕にしがみつきながら言う。


「でしょでしょー。そろそろおっしゃんが起きてくると思って待ってたんだよー」

「こんなにおいしそうな料理作るの大変だっただろう。ミレットに手伝ってもらったのか?」

「ちがうよー、ベルダさんに手伝ってもらったんだー」

「え? ベルダ?」


 代官ベルダが料理しに来るとは思えない。何かの間違いではなかろうか。

 同名の別人のベルダがいるのだろうか。

 そう思ったその時、キッチンの方から代官ベルダの声がした。


「おーい、子供たち。最後のパイが焼きあがったぞ。運ぶのを手伝ってくれ」

「「「はーい」」」


 子供たちがキッチンの方に走っていく。俺も一緒についていくことにした。


 キッチンにつくとベルダの後ろ姿が目に入った。

 ピンク色のエプロンをつけて、白い頭巾をかぶっている。

 ベルダの横には、クルスとヴィヴィがいた。クルスもヴィヴィも仮面をかぶっていない。

 もう、正体がばれているからだ。


 クルスは勇者だとばれた。だが、俺はアルフレッドとはばれていない、……はずだ。

 だから、俺は慌てて魔法の鞄から狼の仮面を取り出して素早くかぶる。


「おう、子供たち。来てくれたか。熱いから気を付けろ」

「あ、アルラさん、おはようございます」

「遅いのじゃ! まあ、昨日は朝まで働いていたから、仕方ないのかもしれぬのじゃが」

「ア、アルラさま! 起きられたのですね」


 クルスとヴィヴィの声で、ベルダは俺の存在に気が付いて慌てた様子で挨拶してくれる。


「おはようございます。代官閣下。一体どうなされたのですか?」

「えっと……」

 ベルダは頬を赤らめる。


「昨夜の事件について改めて詳しい説明をお聞きしようと、参ったのですが……」


 どうやら、ベルダは緊張しているようだ。たどたどしく、説明してくれる。 


 ベルダは昨日の説明を聞くために、お昼ごろトムの宿屋にやってきたのだ。

 そして、俺が寝ていることと、子供たちがまだお昼ご飯を食べていないことを知った。

 適当に干し肉とか食べようとしている子供たちを見て、料理を始めたらしい。


「子供たちのために、ありがとうございます」

「いえ! エルケーの大切な子供たちゆえ!」

「それに、ご説明でしたら、こちらからお伺いいたしますのに」

「何をおっしゃいますか! アルラさまにそのような面倒をおかけするわけにはまいりませぬ!」


 俺が疲れていることに配慮してくれたのかもしれない。

 ありがたいが代官は忙しい。昨日のような騒動があればなおさらだ。不安になる。


「代官閣下は、お忙しいでしょう……。こちらに来ても大丈夫なのですか?」

「はい。今日のうちにできる仕事は全て済ませてありますゆえ……」


 ベルダはすべての指示を出してきた。それゆえなにか想定外のことがなければ仕事はない。

 そういう状況にしてきたのだろう。

 昨日の今日で、そのような体制を整えられるとは、ベルダはとても優秀だ。

 ベルダだけでなく、その部下も優秀に違いない。


「おっしゃん、早くはこぼう! ケィお腹すいたよ!」

「ぼくもお腹すいた!」

「そうじゃ、何はともあれ、腹ごしらえからじゃ!」


 みんなで協力してパイを運ぶ。

 食堂に到着すると、ルカとユリーナ、ミリアとステフがいた。

 どうやら四人は狼商会でいろいろしていたらしい。それをトムが急いで呼びに行ったようだ。

 狼商会はトムの宿屋のすぐ隣だ。呼びに行けばすぐである。

 最後のパイという言葉で、トムは昼食が出来上がったと判断したのだろう。


「トム、いい判断だ」

「そ、そんな大したことじゃないよ!」

 照れるトムの頭を撫でてやる。


 それから、皆でお昼ご飯を食べることになった。

 ベルダと子供たちは緊張した面持ちでこっちをみている。

 注目されていると食べにくい。だが、料理を作ったものとしての気持ちはわかる。


 俺は焼いて味付けされた肉を口に運ぶ。


「おっしゃん、おいしい?」

「ああ、おいしいぞ。すごくおいしい」

「うん、おいしいです!」


 クルスも笑顔でそういった。

 すると、ベルダと子供たちはほっとしたようだった。

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