11章

第406話 エルケーのお昼。起床

 エルケーでの不死者の王ノーライフキングの騒動を解決した日。

 明け方トムの宿屋で眠りについた俺は、昼過ぎに目を覚ました。


「うおっ」

 俺の顔を覗き込むようにしているティミショアラが目に入った。


「アルラ。やっと起きたか」

「ティミ。来てたのか」


 ティミが部屋に入ってきた気配で、俺は目を覚ましたのかもしれない。

 ティミはシギショアラを抱いて、やさしく撫でていた。


「報告せねばならぬことがあってな」

「ふむ? その報告とは一体……」


 俺が尋ねかけたときに、

「りゃあ!」

 シギは羽をばたつかせて、俺の顔めがけて飛んできた。

 顔にしがみいて、俺の頭をぱしぱし叩く。


「……シギもおはよう」

「りゃあ」


 俺が戦っている間、シギはずっと眠っていた。だから、俺より早く起きたのだろう。

 俺は上体を起こすとシギを顔からとりはずして、胸の前で抱く。


 そしてシギを優しく撫でていると、ふと違和感を覚えた。

「シギ。もしかして立派になったか?」

「りゃぁ!」


 シギは自分はいつも立派だとアピールしている。

 だが、昨日とは雰囲気が違う気がする。


「ふむ? ティミどう思う?」

「なるほど。確かにアルラの言うとおりである。シギショアラはいつにもまして立派で神々しい」

「だよなー」

「うむ。フェムもそう思うだろう?」

「わーーふぅ」


 今まで寝ていたフェムはベッドから床に降りると、伸びをする。

 その振動で、モーフィとチェルノボクも目を覚ます。


「もーーぅ」「ぴぎぃ」


 モーフィもフェムと同じく床に降りると、伸びをしている。

 チェルノボクは俺の枕の横にいた。その場でプルプルして縦に伸びた。


 トムの宿屋のベッドは小さくないが、大きくない。

 ムルグ村の衛兵小屋の俺の部屋にあるベッドでするように全員乗ると狭くなる。

 フェムもモーフィもギリギリベッドに乗っているかんじだった。


 だから不自然な体勢で眠っていたのだろう。

 フェムたちはいつもより入念に伸びをしていた。


 しばらく伸びをした後、フェムたちはシギの匂いを嗅ぎにくる。


「りゃっりゃぁ」

『わふぅ……。シギはいつも通りなのだ』

『しぎ! かわいい』


 フェムとモーフィはいつも通りだと言う。だが、チェルノボクは

『りっぱになった!』

「さすが、チェル。見る目があるな」

「ぴぃぎぃ」

『気のせいなのだ』

「フェム。いつもシギは立派だが、今日は特別立派に見えると思わんか?」

「そうだそうだ。アルラの言うとおりだ」

『……おやばかなのだ』


 フェムがぼそっと言って、シギのことをぺろぺろ舐めた。

 シギは毎日成長している。


 その変化に気づけた俺とティミとチェルノボク。

 気づけなかったフェムとモーフィと言ったところだろう。

 日々の変化はごくわずかだ。気付けなくても仕方がない。

 いや、気づけた俺とティミ、そしてチェルの愛情が凄いと言うべきなのかもしれない。


「ところで、フェム、モーフィ、チェル疲れはとれたか? ベッドは狭かったが」

『余裕なのだ。フェムは今すぐ敵と戦うこともできるぐらい元気なのだ』

「も!」「ぴぎぃ」


 チェルはともかく、フェムとモーフィは体を縮めて寝ていた。

 俺が疲れていそうだから気を使ってくれたのかもしれない。


「すまんな。苦労をかける」


 俺はフェム、モーフィ、チェルノボクを順番に撫でていく。

 するとティミがベッドに腰かけて、俺の手からシギを受け取った。


「アルラよ。昨日はいろいろあったらしいではないか。なぜ我を呼ばないのだ?」

「ティミに来てもらうほどの敵ではなかったからな」「りゃあ」

「むう」


 正直に説明したのだが、ティミは不満気だ。

 きっと朝、ムルグ村に行って、シギがまだ帰ってきていないことを知ったのだろう。


 昨夜、エルケーの子供たちとミリアには、そのままムルグ村に泊まってもらった。

 何かあったときのためだ。


 不死者の王を倒して平和になったことは、ミレットには伝えてある。

 だから、ティミはミレットから聞いたのだろう。


「石像が動いたそうではないか! 面白そうなことだ。ゴーレムとは違うのだな?」

「ゴーレムとは違うな」

「興味深い」

「いやいや、そんな面白いものではないぞ?」

「そうなのか?」

「うむ。動く石像とか、動く粘土とか……」

「動く粘土とな!」「りゃっりゃ!」

 ティミの目が輝く。

 ティミの興奮が伝わったのか、シギまで嬉しそうに元気に尻尾を揺らしている。


「そう、動く粘土もいたが、結局のところ、敵は不死者の王と魔人だ。面白くはない」

「むうう」


 ティミもシギの宮殿に呼びに行くほどの大事ではないことは理解しているだろう。

 それでも、ティミは不満げなままだった。


「りゃあ?」

 シギがそんなティミの肩に上ると、頭を撫でる。


「やさしいシギショアラ。叔母さんを元気づけてくれるのだな」

「りゃ!」


 シギは立派なだけでなく優しい。

 いい子に育っている。それがとても嬉しかった。


 シギショアラに撫でられて、元気になったティミが言う。


「で、アルラよ。改めて詳しい話を聞こうではないか」

「あとでまとめて説明するよ。クルスたちにもまだしっかりとは説明していないんだ」

「そうなのか」

「代官も聞きたいだろうしな。何度も説明するのは面倒だからまとめてな」

「それもそうであるな」

「もっも」

「それよりも、ティミ。俺に報告したいことってなんだ?」

「それはだな。破壊神の使徒についてなのだが――」

「もぅ! もぅ!」


 モーフィが俺の服の袖を咥えて引っ張った。

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