第400話

 ルカは速度をゆるめずに走りながら、説明してくれる。


「エルケーにはミスリル鉱山があるでしょう?」

「そうだな、そう聞いた」


 ミスリル鉱山が、いまのエルケーの主要な産業だ。

 その鉱山も枯れかけているので、ミリアやヴィヴィが農業を試そうとしているのだが。


「冒険者ギルドに来た最初の依頼って、ミスリル鉱山にでた魔物退治だったのよね」

「ほう?」

「討伐難度自体はそんなに高くなかったのだけど……」

「魔物ランクはいくつだったんだ?」

「Bランク魔物よ」


 ルカはそんなに高くはないとは言うが、Bランク魔物は一般的に危険な部類に入る。

 しかも、エルケーの街には冒険者が少ない。最高ランクがBのレオとレアの兄妹だ。

 レオとレアだけでBランク魔物の討伐に向かわせるのは危険すぎる。

 だからといって、ほかの冒険者を同行させるわけにもいかない。

 レオとレア以外のエルケーの冒険者は新人のFランクが数名だけなのだ。

 Bランク魔物の討伐にレオとレアとFランク冒険者だけで派遣できない。確実に死者が出る。

 Fランク冒険者をかばって、レオとレアの死ぬ確率も高くなるだろう。


「しかも魔物の数が一体ではないって聞いて、念のためにあたしも行くことにしたの」

「それがいいだろうな。Bランク魔物の群れの討伐ならばAランクパーティーに任せたい」

「うん。それで鉱山にレアたちと一緒に向かったのだけど……」 


 ルカたちは坑道に入り込んでいたBランク魔物五体はあっさりと片付けた。

 ルカの実力を考えれば当然だ。レオとレアの兄妹も弱くはない。


「そして、鉱山から街に帰ろうとしたのだけど……。魔獣がわらわらわいて来たのよ」

「ほう?」


 それも明らかに鉱山をめざして魔獣が突っ込んできたのだという。

 自然状態の魔物が鉱山を狙うとは考えにくい。


「ゾンビか?」

「ゾンビではなかったわね」

「そうか。ゾンビではないとは珍しいな」

「別に珍しくはないでしょう?」


 ルカの言う通りではある。だが、最近操られた魔物と言えばゾンビだった。

 いつもとは手口が違うのかもしれない。


「それでレアたちと力を合わせて、一晩迎撃し続けていたのだけど」

「それはきついな」

「きついけど、離れたら鉱山の設備を壊されちゃうでしょ?」

 そうなれば、エルケーの街への経済的な打撃は非常に大きなものとなる。


「そうだな。それで鉱山は守りきれたのか?」

「うん。何とかね。レアたちも頑張ってくれたし」


 それでレアたちは疲労困憊していたのだろう。

 何時間も戦い続けて、まだ元気を見せているルカが異常なだけだ。


「鉱山に向かってきた魔物たちを狩りつくして、エルケーに帰還しようとしたら……」

「例の粘土に襲われたってことか」

「そういうこと。粘土の塊は明らかにエルケーに向かっていたし」


 粘土の塊の移動速度は意外と速いらしい。

 バラバラにすれば、いったん止まる。だがすぐに復活する。


 だから、バラバラにして足止めしつつ、レアたちに応援を呼ばせようとしたときに

「上空から石像が降ってくるのが見えたってわけ」

「なるほどな」

「あんな魔法使えるのアルしかいないでしょう?」


 そういって、ルカは笑った。


 そんなことを話している間に、エルケーの街に到着する。

 俺たちはエルケーの門のところで足を止めた。

 エルケーの街全体が、淡い白色の障壁のようなものに包まれていた。


「りゃあ?」

 シギショアラは障壁を見て首を傾げた。


「アル。これなにかしら? つっ。なんかバチってなったわね」

 ルカが障壁に手を触れて、弾かれる。フェムも障壁に爪をたてた。


 ――ガキン

『フェムの爪もはじかれたのだ!』


 中にはクルスもユリーナもいる。ヴィヴィもステフもレオ、レアもいる。

 おそらく大丈夫だろうが、不安にはなる。


「アル、任せるわ、力づくで壊して、何かあったら困るし」

「そうだな。任せろ」


 俺は魔人を入れた鉄の箱を地面におろす。

 力づくで壊すのなら簡単だが、それはルカでもできること。

 俺はフェムの背に乗ったまま、慎重に障壁の魔力の流れを解析する。


「中心は……あの謎の金属像のあたりか……」

「あの三角錐状の気持ち悪いやつ?」

「そうそう。ということは壊さない方向でいくか」


 あの気持ちの悪い像のことをクルスとケィはかっこいいと表現した。

 ケィはともかく、クルスの直感は侮れない。

 クルスがかっこいいと感じたのなら、あの像は悪いものではない可能性が高い。

 そう考えて、俺は障壁の魔力の流れを解析して、無理やり穴をあける。

 その瞬間、エルケーの方向へと、大きな魔力が流れるのを感じた。


「ルカ、今のうちに中に入ってくれ」

「わかったわ」

 ルカは魔人の入った金属の箱を持ったまま、中へと入る。


「フェム。頼む」

「わふ」

 フェムと一緒に街の中へと入ると、俺は障壁にあけた穴を閉じる。


「とりあえず、クルスたちと合流しよう」

「そうね。レアたちはちゃんとクルスと合流できたかしら」

「障壁のできたタイミング次第だな」


 俺たちはエルケーの街を走りはじめた。

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