第390話
ヴィヴィは少し考えて、付け足すように言う。
「もっとも、わらわはエルケーの街にさほど詳しくはないのじゃ。知らない何かがあってもおかしくないと思うのじゃぞ」
「それもそうだな」
そのとき、フェムとモーフィ、チェルノボクが俺の近くに来た。
俺は獣たちをやさしく撫でた。
「そもそも、何か、下水への通路などがあるならフェム、モーフィ、チェルが調べた時点でわかるはずだ」
「それはそうじゃな」
「ということは、どういうことなのだろうか?」
「魔法的ななにかがあってもおかしくない」
「ふむ?」
そして、改めて俺はヴィヴィとティミショアラに言う。
「とりあえず魔法探査をしてから考えよう」
「まずはそれからじゃな」
「わかったのである」
「ぴぎっ!」
ヴィヴィとティミと一緒にチェルノボクも返事をする。
一応チェルノボクに聞いておく。
「チェルは、怪しい臭いだけじゃなく、死者の気配も調べてくれたのか?」
『しらべたー! というかしらべなくてもわかるー』
「そういうものなのか。心強いな」
チェルノボクはかわいいスライムだが死王でもある。
聖王クルスと同様、神から与えられた権能を使えるのだ。
意識しなくとも、死者が近くにいればわかるのだろう。
「ぴぎっぴぎっ」
心強いと言われたことが嬉しいのだろう。チェルノボクは全身をふるふるさせた。
俺はシギを懐に入れて、チェルノボクを抱きかかえて肩の上にのせた。
「シギも見ておきなさい」
「りゃあ」
そして、俺は魔法での探知を開始する。ごくごくわずかな反応を感じた。
ヴィヴィやティミも魔法探知を開始する。
「むう? 特に何もないのじゃ」
「そうであるな……。いや、待つのだ」
ティミが真剣な表情でこちらを見る。
「アルラ、あのあたりに何か感じぬか?」
「かすかな反応があるな」
「やはり」
ティミはうなずく。反応を探知できなかったヴィヴィは悔しそうな表情を浮かべる。
「むむう? どのあたりかや?」
「あの辺りだ」
「………………なるほど、確かに感じるのじゃ」
注意さえ払えば、ヴィヴィも気づけたようだ。
逆に言えば優秀な魔導士ヴィヴィが注意を払わなければわからない程度の反応だ。
「ここまで微弱すぎると、逆に怪しく感じるな」
「大昔に壊れて廃棄された魔導具の残骸とかが、似たような反応になるのであるぞ」
「そういうものなのか」
俺は反応のあった場所へと移動する。一応警戒して、ゆっくり進んだ。
ヴィヴィとティミもついてくる。フェムとモーフィもさらに後ろからついてきた。
「りゃりゃあ?」
「ぴぎぴぎっ」
俺の懐のシギと肩の上のチェルノボクがはしゃいでいる。
気にしないで、俺は反応のあった場所を調べた。
「これは……」
積もった雪の下に円形の金属製の板があった。
直径は俺の前腕ぐらい。小型のラウンドシールドぐらいだろうか。
『金属臭もしなかったのだ……』
「もぅ……」
フェムもモーフィもしょんぼりしている。
獣として金属臭に気づけなかったのが、ショックなのだろう。
改めて金属製の板を調べてみたが、物理的にも魔法的にも巧妙に隠されている。
隠ぺいする魔法が何重にもかけられている。
「ここまで近づいても、魔法を使わないとまったく気づけないレベルだな」
「うむ。確かに……」
俺はフェムたちに尋ねる。
「改めて嗅いでも臭いはしないのか?」
『しないのだ』
「もぅもぅ」
「そうか」
フェムとモーフィですら直接嗅いでも金属臭を感じることができないようだ。
ということは、魔法を使って金属臭すら隠しているのだろう。
ここまで厳重に隠していれば、代官所の魔導士が調べても気づくまい。
「そこまで隠したいことって何なのかや?」
「調べてみよう。協力してくれ」
「わかったのじゃ」
「任せるのだ」
俺とヴィヴィとティミは金属板を丁寧に調べていく。
かけられた魔法も複雑に暗号化されているようで、解読がとても難しい。
シギは真剣な表情で、俺たちの手元をじっと見つめていた。
徐々に俺が解読し隠ぺいを解除していくと、うっすらと魔法陣が浮かび始める。
「ずいぶんと複雑な魔法陣だな」
「うむ……。かなり細かいのじゃ」
「なんという魔法陣であるか。これは……一体なんだ?」
ヴィヴィは真剣な表情で魔法陣を調べ始める。
俺もティミも調べるが、複雑で細かすぎる。
「解読には骨が折れそうなのじゃ」
「ヴィヴィでもそうなのか」
「うむ」
ヴィヴィは魔法陣のエキスパートだ。複雑な魔法陣も一目で暴く。
そのヴィヴィに骨が折れるといわせるとは大した魔法陣だ。
しばらく解析して、やっとヴィヴィが顔を上げる。
「これは、転移魔法陣じゃ」
そういって、ヴィヴィは満足げにうなずいた。
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