第391話

 俺が解析するよりも、早くヴィヴィが解析してくれた。

 転移魔法陣だと教えてもらえれば、俺も素早く解析できる。

 確かに転移魔法陣だった。


「そうなのか……転移魔法陣か。我はヴィヴィに教えてもらわなければわからなかったのだ……」

「俺も教えてもらえないと、まだ当分解析にかかっただろう」

「アルラもか? そうかー。転移魔法陣だと教えてもらえさえすれば、我もすぐわかるのだがな」


 ティミショアラが、少しうれしそうに微笑む。

 解析できなかったのは、自分だけじゃないと思って安心したのだろう。

 機嫌がよくなったティミはヴィヴィに笑顔で尋ねる。


「ヴィヴィは、どこら辺を見て転移魔法陣だと判断したのだ? 見分けるコツとかあるだろうか?」

「それはじゃな……」


 ヴィヴィが指さしながら、簡単に判別する方法をざっくりと解説してくれた。

 転移魔法陣にだけに現れる特徴などを教えてくれる。


「ほうほう? なるほど」

 ティミは真剣な表情で聞いていた。俺にもすごく勉強になる。


「で、じゃ。この部分が――」

 判別法の簡単な説明が終わると、ヴィヴィは魔法陣の構造を説明してくれる。


 地面に隠されていた転移魔法陣は、とても細かい魔法陣だ。

 目を凝らさないと、細かい文様がわからないほどだ。そしてとても巨大だった。

 今見えているのは一部だけのようだ。

 魔法陣は巨大な構造体に描かれているようだ。その大部分は地下に埋まっている。


 俺がすぐに魔法陣の種別を判別できなかったのも、大半が隠れていたからだろう。

 だが、俺もヴィヴィの解説を聞いて、魔法陣の構造を完全に理解することができた。

 熟練の魔法陣魔導士ならば一部を見て全体を推測し理解することも可能なのだ。


 シギショアラは俺の懐から顔だけ出して真剣な表情でヴィヴィの話を聞いていた。


 俺と同じく理解したであろう、ティミが言う。

「たいした魔法陣なのだな」

「この細かさは驚嘆に値する」


 俺がそういうと、ヴィヴィもうなずいた。


「じゃが……細かいが、もっと効率化できる個所もあるのじゃ」

「そうなのか?」


 魔法陣のエキスパートであるヴィヴィによると、改良できる点があるという。


「そもそも巨大すぎるのじゃ」


 ヴィヴィの転移魔法陣の数十倍ありそうだ。

 ヴィヴィの転移魔法陣は一般的なものに比べて非常に小さい。

 それでもこの転移魔法陣が巨大なのは間違いない。


「誰がいつ作ったのか。とても気になるのは確かじゃ」

 そう言ってヴィヴィはうなずいた。


 ヴィヴィは魔法陣に強い興味を持っているようだ。

 だが、俺には魔法陣より別のことが気になった。


「当面の問題は、どこにつながっているか、だよな」

「……そうじゃな。それも気になるのじゃ」

「シギショアラが捕まえた魔鼠は、ここから出てきたのであろう?」

「おそらくは、そうだ」

「りゃあ」


 俺はシギの頭を撫でる。


「ちょっと中に入って確かめてみる」

「アルラよ。危険ではないか?」


 未知の転移魔法陣はどこにつながっているかわからない。飛び込むのは非常に危険だ。

 だが、魔鼠がここから出てきたのならば、少なくとも魔鼠が生存できる環境なのだ。

 おそらく、俺も生存できるはずだ。大丈夫だろう。


「危険はあるだろうが、放置するわけにはいかないからな」


 魔法陣の大きさだけでヴィヴィの魔法陣の三十倍。

 さらに魔法陣が描かれていない部分の構造体もさらに何十倍ぐらいあるのだ。

 掘り起こすとなると、周囲の建物をいくつか取り除かないといけない。


「魔法陣の部分だけ削り取って移設できればいいのじゃが……」

「こういう魔法陣は、魔法陣が描かれていない構造体全体も意味を持つものだからな」

「その通りなのじゃ」


 巨大すぎるので移動させるわけにもいかない。

 かといって、すぐに魔法陣を破壊するわけにもいかない。

 歴史的価値がある可能性もある。製作者の意図も調べたい。

 とりあえず、どこにつながっているか調べておきたい。


「ならば、我が転移魔法陣の向こうに行くのである」

「ティミが?」

「我は古代竜エンシェント・ドラゴンであるぞ。人族よりははるかに頑丈だ」


 確かに古代竜は環境適応能力が高い。古代竜の宮殿は過酷な場所にあるのが普通だ。

 シギの宮殿は極地にあるし、それ以外の大公の宮殿の所在地も深海や月、高山などだ。

 人が生きていけない環境でも古代竜なら生活できる。


「じゃあ、偵察はティミに頼もうかな」

「うむ。任せるのである」

「気をつけろよ? 向こうの状況がどうあれ、すぐに戻ってきてくれ」

「わかったのである」


 ティミは魔法陣を起動すると、中に飛び込んだ。

 そして、周囲は静寂に包まれた。

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