第386話

 ヴァリミエを見て、ドービィは嬉しそうに駆け寄った。

 ちなみに頭の上にシギショアラを乗せたままだ。


「ぎゃっぎゃあ」

「りゃっりゃ」


 ドービィはヴァリミエに甘えるように巨大な顔をこすりつける。

 同時にシギはドービィの頭から、ヴァリミエの頭の上へと飛び移る。


「おお、よしよしなのじゃ。シギもよく来てくれたのじゃ」

 ヴァリミエは右手でドービィ、左手でシギを撫でる。

 それからヴァリミエは俺たちの前まできて座った。


「遊びに来てくれたのに、相手出来なくてすまぬのじゃ」

「こちらこそ、急に来てすまない」

「いつでも来てくれていいのじゃ! さっきライたちのところに来てくれたのじゃろう?」

「気づいたか?」

「うむ。リイが吠えて、何事かと身構えたら、ライが教えてくれたのじゃ」

「ということは、やはりヴァリミエも小屋の中にいたのか?」

「うむ。最近はライとリイのそばにいることが多いのじゃ」


 やはり吠えて威嚇したのはライの嫁リイらしい。

 それからライとヴァリミエが協力してリイを落ち着かせたのだそうだ。


「それはすまないことをした」

「気にするでないのじゃ」


 ヴァリミエは落ち着いたリイをライに任せて、俺たちを追ってきたのだという。

 もしかしたら、追ってくると予想してドービィは歓待してくれたのかもしれない。

 賢いグレートドラゴンだ。


「それにしても、よくドービィの小屋に俺たちがいるってわかったな」

「魔法陣部屋に行こうとこちらに来たのに、ドービィが出てこなかったからのう」


 いつもドービィはヴァリミエに気づいて駆け寄ってくるのだろう。

 ドービィはヴァリミエが大好きなのだ。大喜びで駆け寄る姿が目に浮かぶようだ。


「だから、ドービィの小屋を覗いてみたのじゃ」

「そうだったのか。ドービィが、俺たちをもてなしてくれていたんだよ」


 そういって、食べていた果物を見せる。

 フェムも食べていた肉を咥えて近寄ると、ヴァリミエの近くに座りなおす。


『お肉をごちそうになっているのだ』

「ぴぎぴぎ!」「もっも!」

「ドービィはとても賢いのじゃな。さすがは姉上のグレートドラゴンじゃ」

「うむ。とても賢くて立派なグレートドラゴンである」


 みんながドービィにお礼を言いながら褒めた。

 ヴァリミエも嬉しそうにドービィを撫でる。


「ぎゃ……」


 ドービィは照れているのか、長い尻尾を体の前で両手でつかむ。

 それで少し顔を隠していた。


「そうなのじゃ。ドービィはとても偉いのじゃ。わらわ自慢のグレートドラゴンじゃぞ」

「ぎゃあ」


 ティミが真面目な顔で言う。

「うむ。本当にグレートドラゴンか不思議に思うぐらい立派なドラゴンである」

 ティミは心の底から感心しているようだった。


 俺はヴァリミエに尋ねる。


「そういえば、ライとリイの子供はいつ頃生まれたんだ?」

「まだ生まれていないのじゃ」


 ヴァリミエの返答は少し意外だった。臨月と聞いてから結構経った。

 それに、赤ちゃんが生まれたから、リイの気がたっているのだと思っていた。


「結構、妊娠期間が長いんだな」

「ライもリイもただの獅子ではなく、魔獣の獅子なのじゃ。当然妊娠期間も長くなるのじゃ」

「そういうものなのか?」

「魔獣全般については詳しくはわらわも知らぬゆえ、魔獣学者のルカに教えてもらうとよいのじゃが……」


 そう断ってから、ヴァリミエは教えてくれる。

 体の大きい動物ほど妊娠期間が長くなる傾向にあるらしい。

 イエネコであれば二か月ほどだが、普通の獅子は四か月かかるという。

 魔獣の獅子はさらに体が大きいので、もっと長いらしい。


『魔狼も妊娠期間が長いのだぞ』

 フェムが教えてくれた。


「なるほどなぁ」

『妊娠期間が長いだけでなく、生まれた後の成長もゆっくりなのだ』

 フェムがそういうと、ヴァリミエもうなずく。


「そうじゃな。子魔狼たちの成長が狼よりゆっくりなのと同じように、子魔獅子たちの成長も獅子よりもゆっくりなのじゃ」

「そういうものか」

「そういうものじゃ。それでも、本当にもうすぐ生まれるのじゃ。だから……」


 リイは気がたっているらしい。初産らしいのでそれも仕方がない。

 ライはリイにつきっきりだという。

 そして、リイはライとヴァリミエ以外は近寄らせないようだ。


 だからドービィは一頭で寂しく魔法陣小屋の近くにいたのだろう。


「生まれる前からこれでは、生まれたらわらわが近づくことも嫌がるかもしれぬのじゃ」

 そういって、ヴァリミエは寂しそうに笑った。


「そうか、俺たちも、しばらくはライとリイの小屋には近づかないようにしよう」

「そうして欲しいのじゃ」


 子魔獅子がある程度成長したら、俺たちにも見せてくれるようになるかもしれない。

 それはすごく楽しみだ。

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