第250話

 残り三体の上位精霊たちへの尋問も行ったが、新たな情報は得られなかった。

 クルス領に召喚されていた上位精霊を無事解放し、精霊界へとおかえりいただいた。


「精霊たちにとって、人間たちの区別は簡単にはつかないのでしょうね」

「そんなものなの?」

「クルスだって、ゴブリンの個体差とか、よくわからないでしょ?」

「……たしかに」


 俺たちは、最後の上位精霊を解放した後、相談していた。

 メンバーは俺の他に、ティミショアラ、クルス、ルカだ。

 ティミは人の姿になっているし、シギショアラは俺の懐から顔だけ出している。


 そして、精霊王はいまだに俺の腕にくっついていた。


「精霊王。周辺には、他に上位精霊はおられないのでしょうか?」

『不在』

「吹雪は収まると考えてもよいのでしょうか?」

『肯定』


 それを聞いて、クルスはほっと息を吐く。


「よかったー。これで後は除雪すればいいですね!」

「アル。回収した精霊石は何個になったの?」

「四個だな」


 精霊王と上位精霊の近くには精霊石が置かれていた。

 精霊王の近くにあった巨大な竜の像は破壊した。

 だが、上位精霊の近くにあった小さな精霊石は回収済みだ。

 小さいと言ってもこぶし大はある。


「精霊王。この精霊石いりますか?」

 精霊王は首をふるふると振った。


『不要』

「そうですか。ルカ、どうしようか」

「研究用に一つ頂こうかしら。残りはアルが持っていて」

「了解」


 魔法の鞄の中に入れておけば、精霊を呼びよせることもない。

 外に出しても、この程度の大きさならば、大量召喚などにつながることはないだろう。


 ルカが精霊王に尋ねる。


「精霊王は、そろそろお帰りになりますか?」

『肯定』

「なにかお手伝いすることはあるでしょうか?」

『不要』


 精霊王はそういうと、右手を振った。

 すると空間が歪んだ。精霊界との入り口を開いたのだろう。

 その歪んだ部分に右手を突っ込む。


「ぴいぴい?」

 少し鳴きながらごそごそしていた。

 その後、右手で空間から何かを取り出した。


『アルフレッドラ。授与』


 初めて精霊王に名前を呼ばれた。

 精霊王は腕輪らしきものをこちらに差し出している。


「いただけるのですか?」

『感謝。印』

「ありがとうございます。いただきます」

 俺がそう言うと精霊王は笑顔になった。


「ぴぴぴい」


 小さく鳴いて、俺の左腕に腕輪をはめてくれた。

 透明な腕輪だ。金銀宝石のような派手な装飾はついていない。

 だが、綺麗で細かな模様が彫り込まれている。美しい。 


「これは一体なんの腕輪なんですか?」

「ぴぴぃ」


 精霊王は首を傾げている。

 特に効果はないのかもしれない。魔力も感じない。

 不思議な素材だ。

 精霊王のかぶっている王冠と似た素材に見える。


『帰還』

「お帰りになられますか? お疲れ様です」

『感謝』

 そういうと、精霊王は俺から離れた。少し名残惜しそうだ。


「精霊王ちゃん、またね!」

 クルスが精霊王に向かって手を振った。


「ぴっぴ」

 精霊王は小さく鳴いて、手を振った。


「りゃありゃあ!」

「さらばだ」

「お疲れさまでした」

 シギ、ティミ、ルカも精霊王に別れを告げる。


「ぴっ!」

 一声高く鳴いた後、精霊王の周囲の空間がゆがむ。

 そして、向こう側へと消えていった。


 それから、クルスが俺のところに、たたたと駆けてきた。

 そして笑顔でいう。

「アルさん。これで、ひとまず終了ですね!」

「なにを言っているの。精霊王を使役したという、獣人の魔法使いってのを捕まえないと終わらないわ」


 ルカがクルスをたしなめた。

 だが、俺にはクルスの気持ちはわかる。

 とりあえず、これでジャック・フロストはすぐに消えるだろう。


 クルス領の領主としては、領民の危機が去ったのだ。

 安心するのも当然だ。


 だから、俺はクルスに言う。

「黒幕は、あとで絶対に捕まえるとして、とりあえずはよかったな」

「はい!」

 クルスは満面の笑みを見せた。


「りゃっりゃりゃー!」

 シギも嬉しそうに羽をバタバタさせる。

 そして、俺の懐から出るとクルスの方へと飛んでいく。

 シギはクルスの肩にとまって、頭を撫でる。


「りゃー」

「えへへ」


 その様子を見てルカはため息をついた。


「まあ、今ぐらいはいっか」

「そうであるな。とりあえず、クルス領の上空を回るか?」


 まだ、夜だ。周囲は暗い。

 だが、ジャック・フロストを倒したことで吹雪は収まっている。

 上空から村々の様子を観察することはできるだろう。


「ティミちゃん、お願い!」

「任せるがよい」


 ティミが一気に巨大な古代竜の姿に戻る。

 クルスとルカが、ティミの背にぴょんと飛び乗る。


 続いて俺が背に上ろうとしていると、クルスが叫ぶ。


「アルさん。朝日ですよ!」

「おお」

 東の空が赤く染まっていた。


「りゃあああ!」

 クルスの肩に止まったままのシギも朝日を見て鳴いている。


「朝日が見れるということは、雲もだいぶ晴れたのであろうな」

 ティミも東の空を見つめていた。


 俺が背にのぼると、クルスが寄ってくる。

「綺麗ですね!」

「ものすごく綺麗だな」

「朝日を見たら少し眠くなったわ」


 ルカはそう言って笑った。

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