第249話

 地上に降りてから、通算で五十体ほどジャック・フロストを倒した計算になる。

 クルスが嬉しそうに言う。


「吹雪も収まってきましたね!」

「これだけジャック・フロストを倒したからな」

「はい! アルさん凄かったですね」

「いや、むしろクルスの方がすごいだろ」

「そんなことないです。ぼくは走ってただけですから」


 その走るスピードが異常に速く的確だった。


「クルスにしかできない走りだったぞ」

「えへへ」


 クルスは嬉しそうに照れている。

 ジャック・フロストを討伐し終えたのを見て、ティミショアラがやってくる。

 俺たちの頭上に滞空した。


「もうよいか?」

「ああ、大丈夫だ」

 ぶしゅーっとティミが息を吐いた。それだけで周囲の雪が舞い上がる。


「りゃっりゃ!」

 ティミの鼻息で、シギは大喜びだ。

 俺の懐の中で、羽をバタバタさせていた。


 すぐにルカと精霊王がティミの背から降りてくる。

 ティミの背はかなりの高さにある。だが精霊王はふわりと降りてきた。

 重力を感じさせない降り方だ。

 ルカは精霊王を追いかけるように飛び降りてくる。

 全員が降りると、ティミも人型に素早く変化した。


「ぴぃ」

 精霊王は俺の腕をとると、一声鳴いた。


「精霊王。上位精霊を止めていただいて、助かりました」

『感謝不要。感謝』

 礼は必要ない。こちらこそお礼を言うべきだと言っているのだろう。


 俺は上位精霊がしていた首輪をルカに渡す。


「一応見てみたが、精霊王の首輪と同種のものだな。ルカの目から見て何かわかるか?」

「魔道具に関しては、あたしは門外漢よ。アルにお任せするしかないわ」


 後でヴィヴィとヴァリミエにも聞いておこう。


 そのとき、上位精霊の声が届いた。

「ぴぃ」


 上位精霊は少し戸惑っているように見える。

 外見は完全に巨人だ。その巨人が気まずそうに立っていた。

 精霊王は俺の腕を掴んだまま、上位精霊に向かって鳴いた。


「ぴぴぴぴぴいいい」

 精霊王の声を聞いて、上位精霊は益々恐縮している。

 叱られているのかもしれない。


 その様子をルカが真剣な表情でじっと見ていた。

「ルカ。何言ってるかわかる?」

「まったくわからないわ」


 ルカでもわからないなら、仕方がない。

 わからないならば、精霊王に通訳してもらうしかないだろう。


 叱っている精霊王に尋ねる。


「精霊王。上位精霊に聞きたいことがあるのですが、よいでしょうか」

『許可』


 俺は精霊王を通じて上位精霊に尋ねる。

 一番聞きたいことは、どんな奴にやられたのかということだ。

 精霊王からは得られなかった情報だからだ。


「ぴいいぴいぴいい」

「ぴいぴいぴぴぴ」

「ぴぴぴいいぴ」


 よくわからないが、精霊王と上位精霊は何事かを会話しているようだった。

 とはいえ、精霊王も人間の言葉は拙い。

 だから、情報収集には時間がかかった。


 精霊王の言葉を、ルカがまとめてくれる。


「つまり……。獣人族の魔法使いだったと」

『肯定』


 相変わらず、精霊王は俺の腕にしがみついている。

 懐かれてしまったようだ。


「ルカ、一応どうやって捕まえられたかも聞いてくれ」

「わかったわ」


 一番、精霊とのコミュニケーションがうまいルカに任せることにした。

 ルカが精霊王を通じて上位精霊に尋ねてくれる。

 それを精霊王が上位精霊に伝え、上位精霊から聞いた答えを精霊王が教えてくれる。


『精霊王救助必要』

「ふむふむ」

『捕縛』

「なるほど」

 ルカは頷いているが、俺にはよくわからなかった。


「ルカ、どういうこと?」

「えっとね、精霊王が捕縛されたことで、上位精霊が助けに来て捕縛されたってことよ」

「なるほど。王を人質にした格好だな」

 クルスもうんうんと頷いている。


「そうだったのかー。大変だったねー」

 上位精霊の頭を撫でまくっていた。

 今、上位精霊は精霊王にひざをついている。

 それゆえ、クルスが背伸びすれば、頭に届くのだ。


「ぴ、ぴぴ……」

 なんと言っているかはわからないが、戸惑っていることは俺にもわかる。

 上位精霊は巨人、それもおっさんな容姿をしている。

 撫でられることに慣れてないのだろう。


 上位精霊が撫でられている様子を見た精霊王が、俺の腕を引っ張った。


『我大変』

「ん? ああ、そうですね」

 上位精霊も大変だっただろうが、精霊王も大変だった。そう言いたいのだろう。


『慰撫所望』

「む?」

「撫でて欲しいんじゃないの?」

 ルカがそんなことを言う。


「いや、まさか――」

『肯定』


 そう言いながら、精霊王は頭を突き出してきた。

 撫でて欲しかったらしい。仕方ないので撫でてやることにした。

 撫でると精霊王は嬉しそうに羽をパタパタさせた。

 それを見て、俺はなんとなく、フェムを思い出した。


 それから、上位精霊は精霊界へと帰っていった。

 上位精霊の近くにあった、精霊石は回収して魔法の鞄に入れておく。


『上位精霊。未だ救助願う』


 精霊王が俺の腕を引っ張りながら言った。

 救援を待つ上位精霊はまだいるということだろう。

 上位精霊を解放しないことには、ジャック・フロストの召喚も止まらない。


 俺たちはクルス領各地を回って、順番に上位精霊を解放していった。

 先程の戦闘で、首輪さえ外せば、精霊王の言うことを聞くとわかった。

 それを利用しない手はない。


 特に問題なく、合計四体の上位精霊を解放することができた。

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