第246話

 精霊王が言うには上位精霊が、まだとらわれているらしい。

 俺は精霊王に尋ねる。


「精霊王。その召喚させられている上位精霊というのは、また別の精霊王なのですか?」

『否定』

「精霊王以外の上位精霊……って、どんなの?」


 クルスがきょとんとしてルカに尋ねた。

 上位精霊は知性の高い強力な精霊の総称だ。

 上位精霊の中でも特に最高位の精霊が精霊王である。


「精霊界での呼び名は知らないけど、副王とか侯爵とか大公とか呼ばれてるわね」

「そうなんだ。知らなかった」

「上位精霊は滅多にこちら側に来ないから知名度はどうしても低いから仕方ないわ」


 精霊王が上位精霊の中では例外的に有名なのだ。

 なんでも最高位というのは、有名になりがちだ。

 とはいえ、ジャック・フロストのように種族名などをつけられているわけではない。

 単に精霊王と呼ばれている。


 クルスが首を傾げた。

「上位精霊ってどこにいるんでしょうか?」

「精霊の気配を探って、精霊力の密度の濃いところだろうな」

「また探すのか? 時間がかかるのであるぞ」


 ティミショアラが困った表情を浮かべた。

 ティミの腕の中にいるシギショアラも首をかしげていた。


 俺は自分の腕にしがみついたままの精霊王に聞いてみる。


「精霊王。とらわれている上位精霊のいる場所はわかりますか?」

『把握。東三。西一』

「なるほど。四体の上位精霊がいらっしゃるのですね」

『肯定』


 それから俺はクルスに言う。


「クルス。この辺りの地図持ってたよな」

「持ってますよー」


 すぐにクルスは魔法の鞄から地図をとりだした。

 ティミが作ってくれた、クルス領とその周囲が描かれた精巧な地図だ。

 その地図を精霊王に見せた。


「精霊王。どのあたりか教えていただけますか?」

「今いる場所はここだよー」

 クルスが現在地を指さして教える。


「ぴぃ……」

 精霊王は首をかしげて一声鳴いた。


『ここ。ここ。ここ。ここ』

 精霊王は順番に指さしていった。


「全部クルス領だね」

 クルスは複雑な表情だ。


「なるほど。ありがとうございます。ティミ行ける?」

「当然である」

「とりあえず、まずは数の多い東の方かな。飛んでもらえたら助かる」

「アルラよ、任せるがよい」


 ティミはシギショアラを俺に渡すと、見る見るうちに大きくなる。

 その様子を見ても、精霊王は驚きもせず表情を変えることもなかった。

 精霊王にとっては驚くようなことではないのだろう。


 俺たちがティミの背に乗ると、ティミは空へと舞い上がる。

 また、俺は防風の魔法や防寒のための空気の膜を張る魔法などをかけていく。

 精霊王には必要ないと思われるので、魔法はかけない。


「りゃありゃあ」


 シギショアラが顔を外に出したそうにしている。

 だからシギにも魔法をかけた。


「りゃあ」

 魔法をかけられたことが分かったのだろう。

 シギは懐からもぞもぞ出ると、精霊王の頭の上に乗った。


「ぴぃ?」

「りゃあ」

「ぴぴぃ」


 精霊王も「ぴいぴい」いいながら、左手で頭上のシギを撫でる。

 ちなみに精霊王の右手はまだ俺の腕をつかんでいる。


 それを見ていたクルスが精霊王とシギを撫でに来た。


「ぴぃ」

「りゃっりゃ!」

 シギも精霊王も嬉しそうだ。


 撫でながら、クルスがつぶやくように言う。


「上位精霊のいる場所、ぼくの領地ばっかりですね。これは……ぼくを狙った陰謀?」

「陰謀なのは間違いないだろうが、クルス領を狙ったともかぎらないかも」

「そうなの?」

「クルス領を狙ったというより、前大公の亡くなった残滓を利用した精霊石の周辺ってことだと思うわ」

「なるほどー」


 ルカの説明にクルスは納得する。

 だが、ティミが言う。


「その可能性もあるが、クルス領を狙った可能性も切り捨てないほうがよかろう」

「ティミちゃんには、何か怪しいとおもったことがあったの?」

「いや、決めつけるのはよくないと思っただけだ」

「それは、確かにティミの言う通りね」


 ルカもティミの意見に賛成のようだ。

 そんなことを話している間に、最初の上位精霊の居場所付近に到着する。


 ティミが上空を旋回しながら言う。


「確かに、ジャック・フロストが大量におるのう」

「精霊王ちゃん。ジャック・フロスト倒していい?」


 クルスが少しだけ不安そうに尋ねた。

 精霊王という立場で下位精霊を倒されては気持ちよくないかもしれない。

 そう配慮したのだろう。


『許可』

「いいの?」

『肯定』


 精霊王はそう言ってうなずく。

 それでも、不安そうなクルスにルカが優しく説明する。


「えっとね。クルス。精霊にとって体は飾りって言ったわよね」

「うん」

「体だけでなく、精霊にとっては、こちら側にあるすべてが仮初のものなの」

「ふむふむ?」

「魔力弾で消し飛んでも、精霊界に戻るだけよ。言ってみれば、倒すというよりもおかえり願うって感じ」

『肯定』

 精霊王もルカの言葉に同意した。


「それなら、安心だね」

 クルスはそれを聞いて、やっと安心する。


「シギはとりあえず、懐の中に入っておこうね」

「りゃあ」

 俺は安全のために、シギを懐に入れた。

 それから周囲を観察する。

 そしてひと際、精霊力の濃い場所を見つけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る