第247話

 精霊力の濃度が濃い。

 それが上位精霊の存在ゆえなのか、精霊石があるゆえなのか。

 まずは調べなければならない。


「ティミ。周囲を旋回してくれ」

「アルラ、任せるのだ」


 ティミショアラはゆっくりと旋回を開始する。

 ティミはしっかりとジャック・フロストの精霊魔法の届かない高度を維持している。


 俺は集中して眼下を観察する。上位精霊の姿を見つけた。


 人の身長の二倍ぐらいある巨人だった。

 身につけているものは、大きな首輪だけだ。

 肌は白く、髪の毛と目は青い。精霊王とそこは同じだ。


「上位精霊だな」

「精霊石はなさそうであるな」


 一応、俺の腕にしがみついている精霊王にも尋ねる。


「精霊王。精霊石はこの周囲にありますか?」

『小物存在』

「小さい精霊石があると……」

『肯定』


 ティミが言う。

「魔力ブレスをぶつけてみようか?」

「いや、やめておこう。魔力ブレスは周囲への影響が大きいからな」

「そうか」


 使わないで済むなら使わないに越したことはない。


「小さい精霊石ならば、先に上位精霊の首輪を破壊すればいいか」

「そうかもしれぬな」


 精霊王の首輪を破壊したさいに、首輪の魔法構造は把握している。

 近づきさえすれば、破壊はたやすいだろう。


 そしてなにより、情報が欲しい。

 精霊王戦のときは、極大魔力弾と魔力ブレスで一帯を薙ぎ払った。

 おかげで、手掛かりが乏しいのだ。

 上位精霊からも話を聞きたいし、首輪も精査したい。


 近くに降りてもらって、接近して首輪を破壊するのがいいだろう。

 ただ、接近するのが少し面倒だ。


 俺はひざが痛いのだ。魔法を使って間合いをつめるしかないかもしれない。

 周囲のジャック・フロストの精霊魔法をかいくぐりながらだ。

 少し厄介だ。

 フェムがいたら余裕なのだが、仕方がない。


 そのとき、クルスが言う。

「ぼくが破壊してきましょうか?」

「いや、一応魔道具だしな。聖剣で叩き切るのもどうかと」

「なるほどー」


 そういいながら、クルスは心配そうな顔をする。


「でも、アルさん、ひざが痛くないですか?」

「まあな。魔法を駆使して、何とかするしかないだろう」


 魔法で補えば、戦闘時の高速移動は可能になる。

 面倒ではあるし、足を止めたほうが魔法に集中できるのだが仕方がない。


 少し考えていたクルスが笑顔で言う。

「じゃあ、ぼくがおぶりますね」

「えっ?」

「だから、ぼくがアルさんをおぶって走りますよ」

「えー」


 少し考えてみた。

 やってみたことはないが、なんとなくフェムより乗り心地が悪そうである。


「ぼくが走りますので、アルさんは魔法に専念してくださいね」

「……ううむ」

 悩みどころだ。


「ほら。アルさん。ほら」

 クルスは背を向けて、かがんで俺が乗るのを待っている。


「……お、おう」

「なんか面白いわね」

「りゃっりゃ!」


 ルカとシギが面白がっている。

 とはいえ、おぶってもらった方が、戦いやすいかもしれない。

 俺はおぶってもらうことにした。


「すまないな」

「気にしないでください」

 俺を背負うと、クルスは屈伸運動をし始めた。


「ふん、ふん、ふん!」

 準備運動に余念がないようだ。


 精霊王は俺の腕をいまだに掴んでいる。

 クルスの屈伸に合わせて、精霊王も屈伸していた。


「精霊王。しばらく待っていてください」

「ぴぃ」

「その間はそこにいるルカがお相手しますからねー」

「えっ? あたし?」

 ルカが驚いていた。


「ぴぃぴ」

 精霊王はルカの腕をつかむ。

 ルカも恐る恐るといった感じで、頭を撫でていた。


 そのとき、ティミが言う。

「そろそろ良いか?」

「すまない。待たせた」

「アルラよ。どのあたりに降りればよい?」


 それにはクルスが答える。


「ティミちゃん、上位精霊の近くを通って。そしたら飛び降りるから」

「ふむ。クルスが飛び降りられる程度の高さであるな」

「クルスはいま俺を背負っているから、少し低めで頼むぞ」

「わかっておるぞ」


 クルスは俺を背負ったまま、ティミの頭の上まで移動する。


「ティミちゃんお願いねー」

「任せるがよい」


 ティミは急降下を開始した。

 先程の急降下よりもだいぶ遅い。ジャック・フロストからの精霊魔法が飛んでくる。

 俺は魔法障壁を展開する。


「この程度ならば、放置でよいぞ」

「そうはいってもな」


 ティミならば、大したダメージにならないのだろう。

 それでも、全くのノーダメージというわけではない。

 防げるなら防いだほうがいい。


 上位精霊の近くにはジャック・フロストが密集している。

 それゆえ精霊魔法が激しく撃ち込まれた。近づきにくい。


 少しだけ離れた位置にティミが降りていく。

 足の先が地面につきそうなほどだ。飛び降りるクルスに、配慮してくれているのだろう。

 ジャック・フロストからの苛烈な攻撃が襲い掛かる。


「ティミちゃん。ありがと!」

「助かる」

 クルスは俺を背負ったまま、飛び降りる。


「任せるぞ!」

 そういって、ティミは上昇していった。かなりの速さだ。

 途端にジャック・フロストの精霊魔法の対象が俺たちへと切り替わった。


「ぴいいぴぃいいい」

 精霊王の声が聞こえる。その声は、まるで応援しているかのようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る