第230話

 食堂に向かう途中、ヴィヴィに会った。

 ヴィヴィは風呂上りらしく、ほかほかしていた。


「おぬしら、寒そうじゃな」

「急に吹雪いてきてな」

「先に温泉に入ったらどうじゃ?」


 それを聞いてた、ミレットが言う。


「そのほうがいいかもですね」

「じゃあ、クルス、コレットとステフ、ティミは温泉に入って来てくれ」

「アルさんも一緒に入りましょう!」


 そんなことをクルスガ言う。


「俺は食後でいいぞ。モーフィとフェム、チェルとシギも入ってくるといい」

「じゃあ、ぼくも後で……」

 そう言いかけたクルスの手を、コレットがつかんだ。


「クルスねーちゃんも行くよー」

「えー」

「もっもー」


 クルスはコレットに引っ張られて温泉に向かった。

 その後ろをモーフィが鳴きながら、とことこついて行く。


『フェムは後でいいのだ』

『ちぇるもあとでー』

「りゃっりゃー」


 シギは俺の頭の上にのる。あとでいいと言っているかのようだ。


「シギショアラもお風呂に入るべきであるぞ」

 ティミがシギを抱きかかえると、温泉に向かって行った。


「りゃあ?」

 シギはきょとんとしている。特に嫌ではないらしい。

 いい機会だ。叔母さんと仲良くしたらいいと思う。


 温泉組を見送ってから、俺とフェム、チェルノボクはヴィヴィと一緒に食堂へと入る。

 食堂にはヴァリミエとルカとユリーナがいた。

 三人とも美味しそうにお茶を飲んでいる。


「アル、おかえりなのだわ」

「ただいま」

「狩りの途中で吹雪に遭遇するとは運がないわね」


 そんなことを言いながら、ユリーナはタオルを取り出すと俺の頭を拭いてくれる。


「髪、ぬれてたか?」

「雪が融けたのだわ」

「なるほど、ありがとう」


 俺はフェムの背に触れてみた。少しぬれている。

 魔法で防寒対策はしたが限界はあるようだ。

 俺はフェムの体をタオルで拭いてやった。 


「わふ」


 フェムは気持ちよさそうに鳴いた。

 ルカがチェルノボクを抱えてひざの上に乗せる。


「チェルちゃんはぬれてないわね」

「ぴぎっ」

「体表面についた水分を体内に取り込んでいるみたい」

「スライムって便利なんだな」


 俺がそういうと、チェルノボクはふるふるし始めた。

 褒められたと思って、照れているのだろう。


 そんなチェルノボクを撫でながらルカが言う。


「アルがいるから心配はしていなかったけど……。コレットがいるんだから天気には気を付けないと」

「まったくもって、その通りだ」


 反省しなければなるまい。

 一方そのころ、ヴァリミエはお茶を飲みながら、ヴィヴィの頭をタオルで拭いていた。

 風呂上がりでまだ湿っていたのかもしれない。


 そこにミレットが、お茶を持ってきてくれた。

 

「アルさんも冷えたでしょう。あったかいお茶をどうぞ。ヴィヴィちゃんもどうぞ」

「おお、ありがとう」

「ありがたいのじゃ」

「フェムちゃんとチェルちゃんには暖かいお湯をどうぞ」

「わふ!」「ぴぎっ」


 ミレットが気を利かせてお茶を持ってきてくれた。

 いくら魔法で防風などの対策をしていたとはいえ、寒かったのは確かだ。体が温まる。


「フェムちゃん、チェルちゃん、お湯美味しい? 一応温泉のお湯なのだけど」

『うまいのだぞ! ありがと』

『うまい』


 フェムとチェルが元気に返事をする。

 魔獣は魔鉱石の成分の含まれる温泉のお湯を美味しく感じるのだ。

 俺はミレットに尋ねる。


「この雪で村の皆は困ってたりしないかな?」

「とりあえずは大丈夫ですよ。みんな雪が降り始めたら、すぐに作業を切り上げて家に帰りましたから」

「燃料の薪とかも大丈夫だといいのだが……なんなら配ってこようか?」

「それも大丈夫です。皆さん余裕をもって燃料は確保していますから。吹雪が何日も続けば困りますけど……」


 村で使用する薪は入会地の共同資材置き場に置かれている。

 そこから、各自が必要な分を持っていくことになっている。


「ムルグ村周辺の降雪量って、例年はどのくらいなんだ?」

「いつもはあまり雪は降らないですよ」

「吹雪いたりとかは?」

「数年に一度ぐらいだと思います」


 それを聞いていたルカが深刻そうな表情になる。


「今日ぐらい降ることなんて、豪雪地帯の真冬でもめったにないわ……。嫌な予感がするわね」

「たまには、そういう年もあるものだわ」


 そういって、ユリーナは俺の髪の毛を拭いていた手を止める。

 それからユリーナは肩をもんでくれた。


「肩凝ってるのだわ」

「ユリーナ、すまんな。ありがとう」

「気にしないで。それより、チェルちゃんの村が心配なのだわ」

「ぴぎっ?」


 ムルグ村と死神教団の村はそれなりに離れている。

 だが、国全体で見れば同じ地方であり、天気は大差ないことが多い。


「たしかにな。明日にでも様子を見に行こうか。狩りで手に入れた肉も持って行かないとだし」

『ありがと』


 ルカのひざの上で、チェルノボクはふるふると震えた。

 俺はヴァリミエにも尋ねる。


「リンドバルの森はどうだ?」

「特に問題ないのじゃ。雪も降っておらぬしのう」

「それはよかった」

「ライもドービィも元気に森を駆け回っておるのじゃ」


 リンドバルの森は旧魔王領にある。

 ムルグ村からはだいぶ離れているので天気も違うのだろう。


「フェム。魔狼たちは?」

『みんな狼小屋にいるのだ』


 狼小屋には、ヴィヴィが寒くないように魔法陣を描いてくれている。 

 ひとまずは安心だ。


「もし、助けが必要だったらいうんだぞ」

『ありがとう』


 フェムは尻尾をぶんぶんと振った。

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