第203話

 ムルグ村にみんなで帰る。

 小屋に入ったところで、ミレットが獣たちを見て言う。


「夜ご飯作っている間に、お風呂入っちゃってください」

「わふ!」

「りゃっ」

「もっもー」

「ぴぎ」


 穴を掘って遊んでいたフェムとシギショアラは泥だらけだ。

 モーフィも農作業に従事していたのだ。当然泥だらけである。

 このまま家の中を歩き回ったら、後の掃除が大変だ。


「よし、シギ、フェム、モーフィ。それにチェルノボクもお風呂に入るぞ!」


 俺は獣たちを連れてお風呂へと向かう。


「りゃっりゃあ」

「シギショアラもお風呂が好きなのだなぁ」

「りゃあ」

「そうかそうかー。綺麗好きなのはいいことだぞー」


 俺が脱衣所に入ると、当然のようにティミショアラがついてきた。


「ティミさん?」

「なんだ? シギショアラ、我が洗ってやるからなー」

「りゃ!」

「いやいや。ティミ、人族は普通は混浴しないんだぞ」

「我は竜であるぞ? フェムやモーフィたちと、アルラが風呂に入るのと同じであろう?」


 そう言われたらそうかもしれない。


「だけど、ティミは今人型だし」

「だが、竜の姿だと大きすぎて入れないぞ?」

「そういうことじゃなくて」

「どういうことだ?」


 ティミは首をかしげながら、どんどん服を脱いでいく。

 恥じらいのかけらもない。


「さて、シギショアラ。入るぞー」

「りゃあー」


 シギは俺の腕をつかむ。一緒に入ろうと言っているのだろう。


「仕方がないな」


 シギに頼まれたら俺も入るしかない。

 俺も服を脱いで、お風呂に入った。


「シギショアラー、叔母さんが洗ってやるぞー」

「りゃあ」


 俺が一緒に風呂場に居たら、別に俺以外に洗われてもいいらしい。

 シギはティミに洗われながら、ご機嫌に鳴いている。


「モーフィとフェム、チェルノボクもおいで」

「もっも」

「わふう」

「ぴぎっ」


 俺はモーフィとフェムとチェルノボクをわしわし洗う。

 今日は同時に洗ってやることにした。

 石鹸で交互に洗ってやる。


「もっもー」「わふ」「ぴぎっ」


 モーフィもフェムも気持ちよさげだ。

 チェルノボクも機嫌がよさそうだ。


「モーフィもフェムも今日は頑張ってくれたなー」

 そんなことを言いながら洗っていく。


『みんな、ありがと』

 洗われながらチェルノボクも念話でお礼を言っていた。

 すると、先に洗われ終ったシギがふわふわ飛んできた。


「りゃあ」

 シギは俺の頭の上に乗る。そして、小さな手でわしわしし始めた。


「シギ、洗ってくれてるのか」

「りゃあ」


 石鹸は使っていないが、洗ってくれているのだ。優しい子である。


「仕方がないな。我がアルラを洗ってやろう」


 モーフィたちをあらう俺の背後から、ティミが洗ってくれる。

 シギも一緒に手を動かしている。


「ありがとう」

「気にするな」

「りゃっりゃ」


 背中を流してくれて、頭も洗ってくれた。

 体を洗った後、みんなで湯船に入る。


「ふうう。人族の風呂はいいものだな」

「りゃあ」

「古代竜は風呂とか入らないのか?」

「体がでかいからな。海とか湖とかに入ることはあってもお風呂にはあまりな」

「人型になって入ればいいのに」

「一応、極地の宮殿にはお風呂はあるぞ。あまり使わぬが」


 ティミは気持ちよさげに湯船の中で伸びをしている。


「古代竜は混浴とかあまり気にしないのな」

「それはそうだぞ。古代竜には性別がないからな」

「……ないの?」

「ないぞ。あえていえば、卵を産むのだし、全員雌と言ってもいいかもしれぬな」


 新事実だ。あとでルカに教えてやろうと思う。

 いや、ルカのことだからもう知っているに違いない。


 その時、クルスが風呂場に入ってきた。


「あ、ティミちゃんも一緒だったんだねー」

「おう、クルス。いいお湯であるぞ」


 クルスもティミも平然と会話している。

 こいつらには混浴が恥ずかしいという概念がないのかもしれない。


 クルスは何をするにしても素早い。体を洗うのもとても早いのだ。

 洗い終えると、すぐに湯船にやってくる。


「いいお湯だねー」

「労働の後のお風呂はたまらぬな」

「古代竜でもそういう感覚ってあるんだ?」

「なかったが、覚えた」

「そうか」


 クルスの周りにはモーフィとフェムが寄っていく。


「また、モーフィとフェム、お湯飲んでるだろ」

「わふ?」

「も?」


 とぼけているが、絶対飲んでいる。

 なにやら、獣たちにとってクルス周りのお湯は美味しいらしい。


 一方、チェルノボクは俺の周りをふよふよ浮かんでいた。


「スライムって水に浮かぶのか?」

「ぴぎ?」


 持ち上げた感じでは水より重い気がするのだ。謎である。

 謎は置いといて、俺はクルスに向けて言う。


「クルスはあれだぞ。もう少し恥じらいというのをもってだな」

「えー」

「えーじゃありません」

「ぷう」


 クルスは不満げに頬を膨らませた。

 その周囲では獣たちが泳いでいる。

 シギも機嫌よく湯船の中を泳いでいた。かなり泳ぎがうまい。


「シギショアラ。泳ぎの天才であるな」


 そんなことをティミが言っている。

 すると、浴場の扉が開かれた。コレットが入ってきた。


「あ、おっしゃんもいるー」

「コレット、自分で体洗えるか?」

「洗えるよー」


 コレットが自分の体を洗い始めた。

 幼児なので、まだ洗うのが下手だ。手伝ってやるべきだろう。


「コレット、頭を洗ってやろう」

「やったー」

「りゃっりゃー」


 シギも一緒についてくる。俺はコレットの頭を洗ってやった。

 シギもコレットの頭の上に乗り、一生懸命わしわししている。


「シギちゃんもありがとー」

「りゃあ!」


 それからみんなで湯船に入って、温まった。

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