第157話

 モーフィの成長を皆で確認した後、朝ご飯を食べた。

 ヴィヴィはモーフィにべったりである。クルスにとられると思ったのかもしれない。


「モーフィ、これも食べるかや?」

「も!」

「そうかそうか。いっぱい食べるのじゃ」

「もっも!」


 ヴィヴィはモーフィを可愛がりながら、ちらちらとクルスを見ている。

 一方、クルスはあまり気にしていないようだ。


「アルさん。早速、今日にでも死王に会いに行きましょうね!」

「そうだなー」

「近くにいるんですよね?」

「近くとはいってもそこそこ遠いぞ」

「そうなんですか?」


 死王は俺が想定していたよりも、はるかに近くにいた。

 だが、俺は死王の位置を魔族領の奥とか、大陸の端とかを想定してたのだ。

 海を渡った絶海の孤島という可能性だってあると考えていた。

 あくまでもそれに比べて、近くにいたというだけだ。


「近いと言ってもフェムに乗って数時間はかかるな」

「そうでしたかー」


 ティミショアラがシギショアラを撫でながら言う。


「我も付き合ってやりたいのだがな。今日は極地の宮殿にいたほうがいいと思うのだ」

「来客予定でもあるの?」

「約束はないが……もしかしたら近くの古代竜の貴族が来るかもしれん」

「シギも宮殿にいたほうがいい?」

「りゃ?」


 シギはきょとんとしてこっちを見る。

 ティミはゆっくりと首を振る。


「他の大公が来訪するという約束があるならシギショアラもいないと駄目だがな。約束もないし大丈夫だろう」

「そうか」

「りゃ!」

「我は、シギショアラも一緒だと嬉しいのだが……」


 そういって、ティミはシギをちらちら見る。

 それを受けてシギは一言鳴いた。


「りゃあ」

「そうか。仕方ない」

「シギはなんて?」

「アルラと一緒がいいそうだ」

「そうか」


 シギが可愛いので、いっぱい頭を撫でてやった。


「ルカとユリーナはどうする―?」

「うーん。さすがに二日続けて休むのはね」

「私も王都に行く必要があるのだわ」

「ルカもユリーナも大変だねー」


 クルスはまるで他人事のように言う。

 ルカもユリーナもシギの践祚に参列するため仕事を休んでくれたのだ。

 忙しいのにありがたいことである。

 モーフィを撫でていたヴィヴィが尋ねた。


「ユリーナはともかく、ルカは冒険者ギルド王都管区長は名誉職で閑職だと聞いたのじゃが」

「そうなんだけど……。儀礼とか渉外的な仕事があるのよ」

「大変なのじゃなー」

「ほんとにね。あたしとしては、学者としての活動をメインにしたいのだけど」


 はぁとルカはため息をついた。

 優秀だと大変なのだ。


「ルカもユリーナも来ないとなると……死王のもとに行くのは、アルとクルスとわらわになるのじゃな」


 どうやらヴィヴィも同行してくれるつもりらしい。

 ありがたいことだ。


 ヴィヴィが不安そうに言う。


「ルカとユリーナ抜きで死王に勝てるかのう?」

「勝てるんじゃないかしら」

「勝てると思うのだわ」


 ルカとユリーナは即答した。


 クルスは少し考えた後、

「勝てると思うな!」

 元気にそう言った。


「アルはどう思うのじゃ?」

「死王っていうか、死神の使徒がどの程度なのかわからないけど、多分大丈夫じゃないかな」

「ふむ」

「そもそも、倒すのが目的じゃないし。話し合いとお願いだからさ」

「ふむう。それならよいのじゃが」


 ヴィヴィは不安げに、モーフィをなでなでしていた。


 朝ご飯を食べた後、ルカ、ユリーナ、ティミにヴァリミエはそれぞれの職場に向かった。

 そして俺たちも出発の準備をする。


「お金も持っていくべきですよね」

「そうだな。死神の使徒がお金に困ってるかもしれないしな」

「珍しいものも持っていきますか」

「うん。取引材料になるかもだしな」


 倉庫にいってお土産を厳選する。

 俺は貴重な魔獣のドロップ品などを選んでおいた。

 クルスもクルスなりに厳選してくれているようだ。


「アルさん! これとかどうですか?」

「えっと、それなに?」

「かっこいい石です」

「……そうなんだ」


 クルスはその石の来歴を語る。

 東の大陸、その最高峰の頂上近くに落ちていた、かっこいい形の石なのだそうだ。

 一応確認させてもらったが、魔法的にも、成分的にも珍しいものではなかった。


「こっちのほうがいいかな……。どうおもいますか、アルさん」

「それは?」

「かっこいい棒です」

「……へー」


 神代の地下迷宮、その最奥に落ちていたかっこいい棒らしい。

 こっちも、特に珍しいものではない。


 東大陸の最高峰も神代の地下迷宮も、俺たちと一緒に攻略した場所である。

 いつの間に拾っていたのか。気づかなかった。


「もう少し金銭的に価値のあるものとか、素材的に珍しいものとかの方がいいのでは」

「そうですかねー?」


 そう言いながら、クルスは珍しい工芸品などを魔法の鞄に詰めていく。

 それをじっと見ていたヴィヴィが言う。


「クルス。いつの間にそういうガラクタをムルグ村に運び込んでいたのじゃ?」

「ガラクタじゃないよ! 貴重なアイテムだよ」

「そうじゃったか。で、その貴重なアイテムとやらは、いつの間にこちらに運び込んでいたのじゃ?」

「えっとね。毎日少しずつだよ。王都の家に置いといてもいいのだけど、やっぱり気に入っているのはいつも見たいし」


 そう言ってクルスはどや顔した。倉庫以外にも衛兵小屋のクルスの自室にもため込んでいるらしい。

 こんど衛兵小屋のクルスの部屋を見せてもらおうと思う。


 一生懸命厳選しているクルスには悪いが、クルスの土産はあてにはならない。

 俺はさらに厳選を進めた。


 俺たちが出発できたのは、朝食の後、二時間ほどたってからだった。

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