第156話

 モーフィの変化について簡単に説明した後、再び眠りについた。

 夜は遅い。詳しい話は明日でいいのだ。


 次の日の朝。モーフィたちを連れて食堂へ行くとすでにみんなが揃っていた。

 ヴァリミエやティミショアラも来てくれている。


 ユリーナが心配そうにモーフィへと駆け寄った。


「モーフィちゃん、大丈夫?」

「もっも」


 モーフィはいつものようにご機嫌である。ユリーナのお腹にうぐうぐと鼻を押し付けた。

 ヴィヴィも心配そうにモーフィを撫でる。


「あんまり、変わってないのじゃ」

「そうね。明るい朝の光の下で見てもあまり変わってないわね」


 ルカも真剣な様子でモーフィを観察している。

 魔獣学者としての血が騒ぐのだろう。

 クルスがどや顔で言う。


「モーフィちゃんは、魔別されたんだよ!」

「まべつ……?」


 ルカが怪訝そうな顔で首を傾げた。

 魔別という言葉をルカが知らなくても仕方がない。クルスが昨日作った用語なのだ。

 なぜかクルスは胸を張る。


「そう。魔別。アルさんがモーフィちゃんをあれしたんだよ!」

「あれって……?」


 クルスの説明は相変わらずよくわからない。

 代わりに俺が説明する。


「聖神の使徒による聖別みたいに、魔神の使徒にも魔別ってのがあるってクルスは主張しているんだよ」

「なるほど……」

「クルスは、聖獣だったモーフィが魔神の使徒の眷属にもなったと思っているんだろ」

「確実にそうですよ! 外見はそんなに変わってないですけど、魔力が高くなったんです!」


 クルスは興奮気味だ。

 ルカはまだ釈然としないといった表情である。

 ティミはモーフィを優しくなでる。


「なるほど。確かに昨日とは魔力の質が変わっておるな」

「ティミわかるの?」

「うむ。聖神、魔神。二柱の力を感じるぞ」

「やはり、魔別」

「魔別という用語は知らないがな。まあ言わんとするところはわからぬでもない」


 ティミの言葉を聞いて、クルスは鼻息を荒くする。


「聖と魔が合わさり最強に見えるんだよ!」

「クルス、昨日もそれ言ってたな」

「はい。最強の牛と化したモーフィちゃん!」

「もっも!」


 モーフィの鼻息も荒い。心なしかいつもより堂々としているように見える。


「りゃ!」

「もっ!」


 そんなモーフィの上に、シギショアラが乗る。

 シギも堂々とモーフィの上で胸を張っていた。


「可愛い。本当にシギショアラは可愛い」


 そんなシギをみてティミはでれでれしていた。


「モーフィちゃん。すごいねー」

「も?」


 コレットもやってきて、モーフィにギュッと抱きつく。

 それからコレットはモーフィの背に上った。

 コレットは、シギと一緒にモーフィの背の上で、はしゃいでいる。


「あれ。モーフィちゃん、角大きくなった?」

「もっも?」

「確かに、ほんの少しだけ大きくなったような気がするのだわ」

「もっもー」


 角を誇示するように、堂々とモーフィは立っている。

 ミレットもやってきて、モーフィを撫でる。


「モーフィちゃん、あんまり変わってないように見えるけど……」

「お姉ちゃん! ちゃんと見て! 色も少し黒っぽくなった気もするよ」

「光の加減じゃないかな?」

「えー、そうかなー? モーフィちゃん黒くなったよね?」

「もっ!」


 コレットはモーフィが黒くなったと主張している。

 だが、ミレットは変わっていないと思っているようだ。


「聖獣にして魔牛。すごい!」

「魔牛は牛の魔獣のことよ。誤解を招くからやめときなさい」

「はい」


 はしゃぐクルスをルカが冷静に窘める。

 ヴィヴィが優しくモーフィを撫でる。


「モーフィ。魔法を使えるようになったのかや?」

「もっ!」


 モーフィは自信ありそうだ。

 とりあえず確認しよう。そういうことになった。

 朝食を食べる前に、全員で外に行く。


「わふわふ」

「きゃふ!」

「もー」


 モーフィの変化に気づいたのか、魔狼たちが群がってくる。

 子魔狼たちも興味津々といった様子でモーフィの匂いを嗅いでいる。

 やはり魔狼たちには変化がわかるのかもしれない。


「フェム。モーフィって匂い変わったの?」

『変わった。すこしアルっぽくなった』

「へ、へー」


 そう言われると、なんか恥ずかしい。

 少しだけ歩いて、開けた場所に到着した。


「モーフィ、なんか魔法使って」

『わかった』


 モーフィは踏ん張る。


「むももおおお」

「無理はするなよ」

「もぉおおおお」


 ――ガガガガガ……ドドドドドド

 モーフィの角から魔力弾が撃ち出される。

 連続で発射された魔力弾は、地面に着弾すると同時に爆発した。


「お、おお」

「すごいのじゃ」

「もっも!」


 モーフィは誇らしげだ。

 以前、モーフィは角から魔力弾を出していた。

 だが、その時の魔力弾に比べて威力も連射能力も格段に上がっている。


「最強の牛モーフィ!」

「もぅも」

「聖と魔が合わさったモーフィ!」

「もっも!」

「ぼくとアルさんの愛の結晶! モーフィ!」

「も!」


 そういって、クルスはモーフィにギュッと抱き着く。


「お母さんって呼んでくれてもいいんだよー」

「も?」


 ヴィヴィがモーフィとクルスの間に割り込んだ。


「どさくさに紛れて何を言っておるのじゃ!」

「え? アルお父さんにクルスお母さんみたいなものだよ」

「むきーー」


 ヴィヴィはモーフィに抱き着く。


「モーフィのお母さんは実質的にわらわなのじゃ!」

「えー」

「もうも」


 モーフィはみんなにモテモテである。

 モーフィもみんなに可愛がられて、嬉しそうだった。

 何よりである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る