第88話

 ワイバーンからの戦利品回収を終え、ヴィヴィの指輪改造が終わった後。

 モーフィが帰ってきた。背にはアントン兄妹が乗っている。


「もっもう!」

「はあはあ」「ぜえぜえ」


 モーフィは余裕だ。

 だが、アントンとエミーの兄妹は汗だくだった。


「2人とも、お疲れ様。ゆっくり休んで」

「なにかあったのですか?」


 アントンが周囲を見回しながら尋ねてくる。

 一応、戦利品は回収したが、いらない肉などはそのままだ。


「うん。魔獣の襲撃があってね」

「ひっ」


 ワイバーンの残骸を見てエミーが息をのんだ。

 ワイバーンは下位とはいえ、仮にも竜なのだ。

 魔獣の中でもとても強力で大きい部類だ。驚くのは仕方ない。


「ワイバーンは大きいし竜だから怖いイメージがあるけど、そうでもないんだぞ」

「Aランク魔獣がそうでもないとか……」

「いや、それよりも数が……」


 アントンとエミーは驚いていた。

 そういえば、ワイバーンはAランクだったか。空を飛んでいる分、討伐難度が高いのだ。


「たまにこの辺りには出るんだよ」

「……そうなんですか」


 アントンは若干引いていた。

 エミーがアントンの袖を引く。


「おにいちゃん、やっぱりこの任務無謀だったんじゃ」

「だが、Bランク冒険者としては薬草採取ぐらい……」

「ワイバーンがこんなに出るんだよ!」


 兄妹はなにやら深刻そうに話し始めた。


 そこにミレットがやってきた。


「まだ、夜中ですよ。早く寝てください」

「あ、でも……」


 クルスがワイバーンの死体を見る。

 ワイバーンの死体の処理をしてから寝るべきだと考えているのだろう。


「それはこっちでやっとくから、クルスたちは早く寝なさい」

「わかりました。お願いしますね」

「頼むわね」

「私も眠たいのだわ」


 クルスたちが小屋の中へと入っていった。

 ミレットはアントンたちにも言う。


「今日はこの小屋に泊まっていってくださいな。妹さんと同じ部屋に案内しますね」

「……小屋?」

「あ、はいお願いします」


 アントンは怪訝な顔を浮かべて、屋敷のような小屋を見上げた。

 エミーは素直に小屋の中へと入っていく。


「リザさんは先程意識を取り戻されて、また眠りました」

「ありがとうございます」

「本当になんとお礼を言っていいか」


 アントン兄妹はミレットにも何度も深く頭を下げていた。

 それを見送りながら、俺はワイバーンを焼いていく。

 魔狼たちも2頭ほど様子を見に来た。


「りゃっ!」

「わふ」「わふぅ」


 魔狼を見て、シギが大喜びで羽をバタバタさせている。

 魔狼とも仲良くなれたようでよかった。


「こいつもゾンビだから食べたらだめだぞ」

「わふ」


 魔狼たちは少し残念そうだった。

 俺は一応、ゾンビワイバーンの肉をひとかけらつかんで、シギの鼻先にもっていく。


「りゃあ?」

「これもゾンビ肉だぞ。食べたらお腹壊す奴だからな」

「りゃ」


 鼻先にもっていくと、シギは臭いを嗅いだ。だが食べようとしなかった。

 学習してくれたのかもしれない。


「がうわふ」

「わふわふ」


 フェムが魔狼たちに吠えると、魔狼たちも臭いを嗅ぎ始めた。

 ゾンビ肉の臭いを覚えさせているのだろう。


「魔狼たちはこの前、ゾンビ肉食べちゃったもんな。学習させた方がいいな」

『違うのだ。あの時はなりかけだったのだ』

「似たようなもんだろ」

『全然違うのだぞ。臭いが全然違うのだぞ!』


 フェムは少しむきになって否定する。

 嗅覚がするどい魔狼としての矜持が、あるのかもしれない。


「学習用に、ひとかけら残しとく?」

『お願いするのだ』


 ふと見ると、モーフィもゾンビ肉の臭いを一生懸命嗅いでいた。 

 もともとモーフィは肉を食べないのだから気にしなくていいと思う。


 ワイバーンの死体を焼き終えると、ヴィヴィがあくびをした。


「もう眠いのじゃ」

「先に眠ってくれてよかったのに」

「ん? それもそうじゃな。さてわらわたちも寝るのじゃ」

「りゃあ」


 ヴィヴィが俺の腕を引っ張る。フェムとモーフィもついてきた。

 シギは嬉しいのか羽をバタバタさせていた。


 俺の部屋の前につく。


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなのじゃ」


 ヴィヴィはそういいながら、俺の部屋へと入っていく。

 俺の部屋で眠るつもりらしい。

 俺のベッドは十分広い。フェムもモーフィも一緒に眠れるぐらいだ。


「まあ、広いからいいのだけど」

「なにがじゃ」

 ヴィヴィは俺のベッドにぴょんと飛び込む。


「わふぅ」「もっもう」

 フェムとモーフィも大喜びで飛び込んでいく。


「りゃ、りゃあ」 

 シギも俺の懐から出ると、ベッドに向かって飛んでいく。

 シギは楽しそうに、モーフィやフェムに体をこすりつけていた。

 フェムやモーフィも優しく舐めてあげたりしている。


「シギはかわいいのじゃ」

「りゃあ」


 ヴィヴィにも撫でられ、シギはご満悦だ。

 俺も疲れたのでベッドに入る。

 シギが体を寄せてくるので撫でてやる。するとシギは口を大きく開ける。


「お腹すいてるのか?」

「りゃ!」


 生まれてすぐは二時間おきに起きて鳴いていたものだ。

 シギはいつも、夜に何度かお腹がすいたと鳴くのである。


「すぐご飯あげるからな」

「りゃぁ」


 俺は魔法の鞄からシギのご飯を取り出した。俺の魔法の鞄には地竜の肉やユニコーンの肉を入れてある。

 当初、台所に肉をまとめて置いておいた。だが、毎夜二時間おきに鳴くので鞄に入れておくことにしたのだ。


「ほら、いっぱい食べるんだぞ」

「りゃむりゃふ……りゃっりゃ」


 シギは食べながら鳴く。

 俺は餌をやりつつ、空いた手で優しくなでながら語り掛ける。


「今日は鳴かなかったな。偉かったぞ」

「りゃあ」

「けが人が運ばれてきて、大変なことだと思ったの?」

「りゃふりゃふ」


 シギは食べながら羽をバタバタさせた。

 周囲の状況を見て空腹を我慢するとは。なんと健気なのだろうか。

 俺は少し感動して泣きそうになった。


「シギの成長早いなぁ」

「そうであろか? そんなに大きさは変わってないように思うのじゃ」

「大きさは確かにな。でも歩き回るようになったし」

「それはそうじゃな」

「今日はお腹減ってたのに我慢したし。言葉がわかっているような気もする」


 俺と一緒にシギを撫でていたヴィヴィの手が止まった。


「シギはまだ赤ちゃんなのじゃぞ」

「でも、俺の言葉がわかってる感じの反応するし」

「親の欲目というやつじゃぞ」

「そうかなぁ」

『親馬鹿なのだな』


 ヴィヴィはくすくす笑う。

 フェムもヴィヴィと同意見なようだ。


「モーフィはどう思う?」

「もっもう」「りゃあ」


 モーフィはシギに鼻を押し付けていた。

 シギはシギで、モーフィの鼻の上を小さな手で撫でていた。 

 俺たちがモーフィを撫でているのを見て学習したのかもしれない。


「シギはかわいいなぁ」

「もっもう」「わふ」

「かわいいのじゃ」


 シギが可愛いということに、みんなが同意してくれる。

 ベッドの中でシギを可愛がっているうちに、いつの間にかに眠ってしまった。

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