第40話
「きっと、あいつが黒幕ですよ! アルさん、やっちゃいましょう、やっちゃいますね!」
「クルス落ち着け」
「はい」
俺は飛びかかろうとするクルスを止めた。
本人がせっかく語りたがっているのだ。語らせた方がいい。
背後関係などがわかれば、後が楽だ。
「で、誰をおびき出すつもりだったんだ?」
「決まっている。魔王軍四天王ヴィヴィだ」
俺はヴィヴィを見た。
「知り合いか? ヴィヴィ」
「んーん。知らないおじさんなのじゃ」
ヴィヴィはきょとんとして首を振る。
「貴様! 俺を愚弄するのか」
「なんか、怒ってるけど。本当は知ってる人なんじゃないの?」
「んーん。全然知らないのじゃ」
ヴィヴィがそういうのなら知らないのだろう。
だが、知らないおじさん魔導士は怒っていた。
「俺たちが計画したドラゴンゾンビ侵攻作戦を潰しておいて、よくもまあぬけぬけと! その上、ヒドラまで殺すとは到底許せぬ」
「あー、なるほど」
俺はなんとなく納得した。
ドラゴンゾンビを作った暗黒魔導士はクルスが捕まえたと言っていた。
だが、彼は単独で動いていたわけではなかったのだ。
「魔王軍四天王の地位にあった者が、魔王軍再興の計画を潰すとは。この裏切者め。魔王軍十二天の一人カーティスが粛清してくれる」
「魔王軍十二天……だと……」
そんなものがあったとは知らなかった。
戦った覚えもない。気づかないうちに倒している可能性が高いのだが。
「十二天といっても、十人しかいないのじゃ」
魔王軍のガバガバな数管理はどうなっているのか。
「あ、思い出したのじゃ。わらわに四天王の座を奪われて悔しがっていたおじさんがおったのじゃ。そのおじさんに似ているような……気がしなくもないのじゃ」
ヴィヴィは首をかしげて考える。
「やっぱり違うおじさんなのじゃ」
「違わねーよ!」
十二天が激しく突っ込む。
「四天王の中でも最弱の雑魚が、馬鹿にするな!」
「その雑魚に負けたお前は……」
俺がつっこむと、カーティスは激昂する。
「舐めるな! クソ魔導士。戦闘力では俺は四天王より上!」
「わらわは戦闘力を買われて四天王になったわけではないのじゃぞ」
弱いと罵られても、ヴィヴィは気にしていないようだ。
「まだですか? もういいですよね? やっちゃいましょう」
クルスがうずうずしていた。
何者かがわかれば、それでいい。
「十二天は生け捕りにしたほうがいいかな」
「了解ですっ」
返答するのと同時にクルスが突っ込んでいく。
「ひぇ」
あまりのクルスの速さに、カーティスが怯えたような声を出す。
「お、お前たち、皆殺しにしろ!」
カーティスの叫び声と同時に、巨大バジリスクと、巨大ヒドラ計20体が静かに一斉に襲い掛かってきた。
バジリスクの石化の眼光がクルスを射抜く。
「うわっまぶしい!」
そんなことを言いながら、バジリスクの首をはねる。
ほんと反則のような耐性だ。石化する気配すらない。毒の尻尾は左手で掴んで引きちぎっている。
「あたしは、クルスみたいにはいかないから」
ルカはバジリスクと目を合わせないようしながら、バジリスクの尻尾を斬り落とす。尻尾の毒を警戒しているのだ。
俺は適当に火炎魔法を飛ばす。クルスやルカの背後を守るように援護する。
クルスたちが、どこに移動するか予測して、火炎を飛ばすのは結構難しい。
クルスたちは敵を翻弄するため、不規則に動く。そして、なにより速い。予測するのは至難の業だ。
「だからといって、失敗するわけにはいかないんだよ」
戦場全体を把握し、クルスたちが全力を発揮できるよう援護する。それが魔導士の仕事だ。
先日のヒドラのように再生されては面倒だ。
クルスたちの背後を守りながら、傷口を炭になるまで焼いていく。
だが。
「こいつら、まだ再生するみたいです」
クルスがヒドラの首を斬り飛ばしながら叫んだ。
炭となった組織を突き破り、首が再生した。
「そいつらは再生に特化したゾンビなのだ。決して倒れぬ不死身の兵だ」
カーティスが勝ち誇って笑う。
「なるほど、ゾンビか」
ゾンビは生きた死体と言われる。
意思を残したまま、身体の自由を完全に奪う。
だから牧場に逃げないようにする囲いも仕掛けも必要なかったのだ。
「昨日のヒドラは、ゾンビのなり損ねか」
だから再生力が少し落ちる。代わりに体の自由があったので逃げ出したのだろう。
「どうすればいいですか!」
ヒドラの首を斬り落としながらクルスが尋ねてくる。首を斬り落とせば、再生まで数秒かかる。
その間攻撃は緩くなる。
「ひたすら首を斬り飛ばせ。あとは俺がなんとかする」
「了解です」
「アル、あんたねぇ。無茶言うんじゃないわよ」
そう言いながらルカがバジリスクの首と尻尾を一瞬で斬り落とした。
無茶を言っているのはわかる。だが、クルスたちにはそうしてもらうしかない。
「フェム。頼む。乗せてくれ」
「わふ」
「ヒドラたちを突っ切ってカーティスをやる」
「がう」
フェムは俺を乗せたまま、ヒドラたちの中に突っ込んでいく。
俺は左手で火炎魔法を連続で放ち、クルスたちを援護しながら詠唱を開始する。
「――天の階(きざはし)に君臨せし氷の女王。無を司りし宙空の大元帥。
絶界の秘鑰(ひけん)ををもって、虚空の門を開かん。
其は空。其は闇。
絶唱の天譴(てんけん)をもって、この世の不浄を凍氷せん
我が名はアルフレッド・リントっ!」
一瞬で周囲一帯がヒドラたちごと凍り付く。
火炎魔法と違い、氷魔法は山火事を起こさないのでとてもいい。
「うわっ!」
「ちょっと!」
クルスとルカが飛び跳ねて冷気をかわす。
一応、クルスとルカには当たらないよう調節はした。
だが、威力が威力だ。多少、冷気が及ぶのはやむを得ない。完全に防ぐのは無理というもの。
「すまん。後は頼む」
一言謝って、俺はカーティスに向けて突っ込んでいく。
「ひぃ」
カーティスは完全に怯えている。
足が凍っていた。カーティスは狙っていない。ただの余波だ。
まともに食らうとは情けないことだ。
「十二天カーティスとやら。ゾンビは禁忌だ。王都で裁判を受けてもらうぞ」
「おかしいと思ったのだ。四天王最弱のヴィヴィがドラゴンゾンビを討伐できるはずがなかったのだ」
そしてカーティスは俺を見る。
「ドラゴンゾンビをやったのはお前だな」
「俺だけではないがな」
隠すことでもないので正直に言う。
「二種魔法同時使用に、氷魔法のあの威力。お前ほんとうに人間か?」
「そういうことは、あいつにいってやれ」
俺は後ろで凍り付いたヒドラたちを聖剣で砕いているクルスを指さした。
捕縛しようとしても、カーティスは抵抗しない。
戦闘力に自信のある魔導士のようだったので拍子抜けだ。
「俺の負けだ。だが、裏切者は粛清せねばならぬ」
カーティスから殺気を感じた。
俺はとっさに叫ぶ。
「ヴィヴィ!」
魔法陣を描いていたヴィヴィの背後から、一匹のヒドラが襲い掛かった。
ヒドラを一匹、伏せておいたのだろう。
「舐めるでないのじゃ」
ヴィヴィは振り返りもせず、魔法陣に手を触れる。
魔法陣から植物のツタがものすごい勢いで生えた。瞬く間にヒドラに絡みつく。
ヒドラは完全にからめとられ、ピクピクとしながら地面に転がる。
すかさず、クルスがヴィヴィのガードに入る。のたうつヒドラは細切れになった。
凍ったヒドラたちを壊すのはルカ一人で十分できる。
これで安心だ。
「十二天。まだ何かあるか?」
カーティスは力なくうなだれる。
俺はカーティスを魔法の縄で縛りあげた。
口をふさいで、腕も指も固定する。魔導士捕縛の基本だ。
「ヴィヴィ。ツタの魔法陣などよく準備できてたな」
俺はてっきり火炎の魔法や氷、雷などの攻撃系魔法陣を用意していると思っていた。
戦闘中に用意するなら、攻撃魔法が普通だからだ。
「わらわは、万一のことでもない限り出番がないのじゃ。その万一の時でも、一体を止められたら、アルたちがなんとかするじゃろ」
そしてヴィヴィはどや顔で言う。
「だから一体だけは完全に止められる魔法陣を用意したのじゃ」
「いい判断だ」
俺はヴィヴィの頭をわしわし撫でた。
「やめるがよい!」
そう言いながら、ヴィヴィは頬を赤らめていた。
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