第5話
翌朝。俺たちは日の出と同時に動き出した。
村人であるミレットの案内もあり、迷わずにムルグ村へと到着できた。
村の門をくぐると、
「ようこそ! ムルグ村へ!」
ミレットは嬉しそうに言う。
ムルグ村の村人たちはミレットが帰ってこないことを心配していた。そこに見知らぬおっさんとともに帰ってきたのだ。
「ミレットが帰ってきたぞ!」
帰還に気づいた村人が叫ぶ。
わらわらと家の中から村人たちが出てきて、あっという間に囲まれた。
「おっしゃんだれー?」
村の子どもが無邪気に声を上げる。
ミレットが薬草探しの経緯を説明した。命を助けられたとか、腕がたつとか、俺のことをほめちぎっている。
照れる。
村人たちにもお礼を言われる。
恥ずかしい。
照れくさいので、
「薬、はやく作らないと」
ミレットに促した。
「うん! わかってる。じゃ、またあとで」
お礼を言いながら、ミレットは走っていった。
ミレットが去った後、俺は村長にムルグ村衛兵任務を受注していることを切り出した。
村人の反応は微妙なものだった。
「おっ! お、おう……」
(あれ?)
今までの好反応との落差がひどい。
「なにか問題ありましたか?」
「いや、問題はないんだけど……。若い人が来るとばかり……」
村長は言いよどみながら、言った。
「な、なるほど」
『ムルグ村の衛兵募集。狼と猪が出て困っています。報酬は衣食住。※村には温泉があります』
たしかに、この条件ではベテラン冒険者は来てくれないだろう。それで、ムルグ村は若い冒険者が来ると思ったのだ。
きっと、若い男手が足りないのだろう。
あわよくば若い男が嫁を貰って、永住してもらえればなどと考えていたに違いない。
だが、その認識はあまいとしか言いようがない。若い冒険者ほど、こんな任務を受けたりしない。先がないからだ。
村長は最初こそ、戸惑いをみせたものの、すぐに歓迎モードへと移った。衛兵にあてがわれる住居に案内してくれる。
村の門の脇に建てられた平屋だ。
「古くて申し訳ないのですが……」
本当にぼろい。だが広かった。
「いえ、問題ありません!」
でも、野宿のおおかった俺には屋根があるというだけで充分である。
家の中には、ぼろぼろではあるが、ベッドまである。ありがたい。
半分が土間になっている。きっと元は馬小屋か牛小屋だったのだろう。
家の中で村長から、業務について説明を受けた。
昼の間は村の一つしかない門で外敵の侵入を防ぐのがメインの仕事。だが、それはあくまでも建前だ。
外敵など早々来ないので、椅子に座って日向ぼっこでもしていればいいと村長は言う。
むしろ、別に門のところにいなくてもいいらしい。それよりも、野良仕事を手伝ってくれたりすればそのほうが助かるとのこと。
説明を聞いていて、つい尋ねたくなった。
「あの、村長……」
「なんですかな?」
「衛兵、いらなくないですか?」
当然の疑問に、村長は首を振る。
「村の外に最近は狼が増えましてな……」
だから、村人が外に出るとき、護衛をしたりしてほしい。
万が一、狼の群れが襲ってきたときや、野盗の襲撃の際に戦ってほしいと頭を下げられた。
「そういうことなら、問題ありません!」
狼や野盗の撃退は得意分野だ。
つづいて、村長の案内で村の中を見て回る。
人口は二百人ほど。六十軒ほどの家とそれなりに広い畑が木で作られた柵に囲まれている。
井戸は三つだ。
「薪を拾うためには裏山に入らなければなりません。それに井戸はあっても川に行かなければならない用事もあります」
そういって、柵の外にある山と川を村長は案内してくれる。
「つまり、村人がこういうところに行かなければならないとき、護衛してほしいということですね!」
「そうなります」
ムルグ村が求めていることを理解した。
「それならば、お役に立てるでしょう!」
自信満々に村長に告げると、村長はほっとした様子になる。
「アルフレッドさんはベテランみたいですし、このような仕事では納得してくださらないかと思いました」
おっさんが衛兵クエを受注したと知ったとき、微妙な反応になったのはそういう理由もあったのか。
「いえいえ、不満などありませんよ。確かに私はベテランですが、膝をやってしまいまして。衛兵に志願したんですよ」
「そうでしたか。それなら温泉でゆっくりされるといいですよ。怪我にも良いらしいですぞ」
それから村長の家で歓迎会が開かれた。そのあと、村人と一緒に温泉に行ったりしている間にムルグ村での最初の一日が終わった。
ミレットは妹の看病をしているらしく、歓迎会に顔を見せなかった。
明日ミレットの妹のお見舞いに行こうと心に決めて眠りについた。
そして、ムルグ村全体が眠りについて静まり返ったころ。
森の中から狼の遠吠えが聞こえてきた。
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