「Refrain」

新豊鐵/貨物船

第1話

「どうして!?」

「どうして別れなくちゃいけないの?」

涙ながらの問い掛けも私への気持ちが冷めてしまってたあいつには面倒臭いだけだったのだろう。


「そんな質問されてもなぁ」

「今更、答える必要なんてあるのか?」

「嫌いになったからに決まってんじゃん・・・バカか?」

これ以上の問答など繰り返しても無駄だとわかるような言葉は永遠だと信じた恋人の森本直也(もりもとなおや)が私に掛けた最後の言葉だった。


夏の終わり・・・湿っぽく生ぬるい風が吹いていた

直也を中心に廻っていた私の世界は崩壊した。


少しづつ離れていたはずなのにあいつに夢中で気づかなかっただけなのかも知れない・・・

私ってホントにバカだ!?


主を失ったこの気持ち、この身体はもう必要ない?

悲しげで絶望的な表情で自分に問い掛けた彼女の名前は楠本真紀(くすもとまき)


橋の欄干から見下ろすと暗く波打つ水面が自分を呼んでるような気がした・・・


こんなに辛いのなら生きていたくないと身を乗り出した瞬間、背後から声がした!


「まさか、そこから飛び降りるつもりなのか?」

その声に驚いた私は態勢を崩し欄干に必死で掴まった!

そのまま落ちればいいだけなのに怖かったのだ。


「あ、ありがとう・・・」

この状況に言葉がみつからなかった私は独り言みたいに小さな声でそう言った


「やっぱりそうだったのか・・・邪魔して悪かったな」

「でもお礼を言ったってことは声を掛けて良かったってことなんだろうな」

彼はそう言いながら照れ臭そうに髪をかき上げると胸のポケットから煙草とライターを取り出し火を着けた。


外灯の逆光でよく見えないが煙りを吸い込んだ煙草の火で見えた顔は無表情だった


吐き出した煙草の煙が夜風に流されて行く。


そんな光景を無言のまま、みつめていた私に

「ちゃんと受け取れよ!」

そう言ったかと思うとキラキラした何かを緩い放物線を描くように放り投げた!


慌てた私はそれを捕まえようと両手を差し出し、前のめりになりながら必死でキャッチし座り込んだ。


「大事なモノだから次に会った時にでも返してくれ」

彼の言葉に掴んだ手のひらを見てみると銀色のライターがあった。


「えっ!?」

「でもあなたが誰かも知らないし会えるかもわからないのにどうやって返せばいいの?」

意味もわからず夢中で質問した私に

「そんなことどうでもいいんだよ、俺は忘れっぽいから君の顔を忘れるかも知れない」

「だけどそのライターは自分のモノだってすぐにわかるから忘れないだろ?」

「必ず返してくれよ・・・それまで死ぬんじゃないぞ!」

そう言って笑った彼はクルマに乗り込むとそのまま走り去ってしまった。


クルマが通ったんだ?・・・

気づかなかった!


自分だけの世界で独りぼっちだと思い込んでたんだ

彼はそんな私に返って来る保障も無い、この大事なライターを放り投げてくれた。


独りじゃ無いと私に気づかせる為に?

彼の意図はわからないが私にはこれを返さなければならないという生きて行く理由が出来てしまった。


名前ぐらい訊けば良かった・・・


突然の出来事で何も出来なかったことに後悔したが今となってはどうしようもなかった!


手のひらに感じるライターの重みを確かめようとするように胸に抱き、私は大きな声で泣いた。


あいつのことはもう忘れよう!

すべてを忘れてこれから強く生きて行く為に・・・

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