時周夢双録

マグロで制する海岸沿いbot R15

序章

第1話 First incident

当然。弱者は強者に喰われる。当然。弱いチームは強い1体に負ける。当然。一般階級は上級階級に虐げられる。当然。上級階級は神に逆らえない。これ程強く根が深く呪いのような観念が俺達に、俺達を蝕んでいる。俺はこれでいいのか?と思った。分かってる。叶わない事も。妹にも弟にも両親にも逢えないのも。本当は誰の事も思ってない事も。

弁解すらも出来ない。無力な者は。助けてくれ?それは叶わない。ホームレスが富豪になる確率で市民は俺達劣等種に手を差し伸べる。大変烏滸がましい事だとは理解している。上級の方々に物乞いをするのは。本来、俺達は奴隷以下でもある。



アイツに出会うまでは、アイツがコンポストにも及ばない俺達に手を差し伸べてくれるまでは自堕落なそんな生活だったよ。皆。だけど、俺達は手を汚してるんだよ。俺達は数百人殺してあの場所に堕ちたのだから。だから、俺達は勧善懲悪でもない、正義とか言うエゴでもない、贖罪をしなければならない。

その贖罪を具体的に気付かされた。今までは、人の為に尽くせと言った認識だったが、今は、死んだ人の分の苦しみと、幸福とを受け入れると言った認識だ。



「進めよ。無の舟漕いで。」

アイツの飼い主(?)は笑顔でそう言った。自分は神だと言っていた。黄金色の光が小窓から射し込んだ。しかし、俺達は別に一気にランカー的立場になった訳では無い。アイツがやった事は異空間の扉を全て無理矢理こじ開けた。それで向こうの栓が外れて、様々な概念が雪崩のように流れてきた。一瞬でクーデターが発生し、国は殆ど滅んだ。それ等は不思議な超常的な物だった。それでも、1番不思議だと思ったのが、全員が多少の訛りはあるが、言語が通じる。何故かこの俺達が住処にしている腐蝕したボロ屋にも美しい女とか、歴史の偉人の名を持つ者、もう訳わかんねぇ不思議オブジェクト。

俺の餓鬼の頃からの夢…不老不死にでもなって自分の旅をする事だったか……

そう言えばご近所さん……そっか。それも贖罪かな。

俺は決意した。

必ずや

絶対

この世の

崩壊を

防いでみせると。

でもこれも無茶苦茶な建前だな。


その騒動が起きた日を振り返ろう。







「あ〜……今日も朝が来たな。」

正確にはまだ日は昇っていない。今は冬だから遅いのも有るけどな。

「おい、寛太起きろ。」

俺の前にいる筋肉野郎。コイツが橋田寛太。因みに俺は北野大介。まぁ他にも居るが今はコイツと朝の作業をするんだ。

「うぃ〜、」

寛太……聞いてんのか?と思う。こんな奴にはちょっと引っぱたいて起きてもらおう

「痛!」

ちょっと声がデカい。本当に今年41かよ。餓鬼みてぇ。

「店長の所行かねぇといけねぇからはよ来い」

俺はいつもあまりもんをくれる優しい店長の元へ急がなくてはならない。日が昇ると営業時間。つまり昇れば余りもんは貰えない。

「٩(๏.๏)۶オハヨウ」

如何にもそれらしいポージングだ。そして走る。しかし、本当に肌寒い。白い息は留まる事を知らない。道中氷が宙を浮いている有り得ない物を見た。自分に良く似た人物も見た

最低最悪な悪寒も襲ってきた。

「おう!いつも通り来たな!はい。バイトテロで無駄になった野菜だ。」

「ありがとうございます!」

そして、有難いことに、今日はご馳走だ。

キャベツ1玉と、変な生物?だ。その変な生物は皮とか全部剥ぎ散らかした鳥の子ようだ。

「この変な食べ物はなんですか??」

「知らん」

訊ねてみたが、やはり知らないようだ。

「貰っとけ。バイト野郎が倉庫に放ったんだよ。」

不思議な眼をしていると、そう声を掛け、店の中に帰っていった。

この時はまだ知らなかった。この生物が波乱を巻き起こし、俺達に何を齎すかを。

今は、こうピクピク冷えた身体だが、後には信頼出来る俺達のパートナーだ。

帰り道はとにかく険しい事。異常にバナナで転けるわ。とてつもなくデカい蜂が飛んでるわ、車両が爆発するわ。まぁその爆発の炎で束の間の暖を取れたから結果オーライか。


「ただいまー。寛太が事故るから遅くなっちまった。」

錆びきった家の戸を叩き無いに等しいドアノブ(突起)を捻る。そして完璧な言い訳をする。

「おい!お前も転けてたろ!」

「あっははは。悪ぃ悪ぃ、」

こうしたやり取りはほぼ毎日だ。全員が笑いあえる……そんな生活だ。

でも店長に貰ってる以上、これは幸せな生活とは言えない。皆もそう思っていた。その内俺達は死ぬ。それに抗うのも俺達だ。幸せの表情の裏にはトラウマが心を侵食していた。俺は勝手な考えで甘々な考えで人を殺しちまったんだな。

過去の殺した人間が脳裏に焼き付く。彼等の声が忘れられない。俺は少し震えていた。

「北?体調悪いのか?」

「介ニキー!」

「身体ちっこいんだから無茶すんなって北。」

仲間達が居た。俺は気絶して、皆に迷惑をかけたんだな。

「貴様ら!何をグズグズしている!早く私を饗すのだ!」

「え?寛太w何か後ろ貰った奴が浮いてんぞw」

俺は正直驚いた。原理不明の現象が発生している事に。虹色に発光している時点でもうヤバい。

「あぁ。コイツね。コイツは俺らが前科アリの犯罪者って聞いた途端偉そうになったんだよ。さっきまで可愛かったけど。」

「へぇ……」

「おい!早くせんか下臈!私は先週から何も……」

いきなり悲壮感を帯びた声になった。と言うか、やけにこいつの声響くからストレスが溜まる。

「お前達も喰っていないのだな。すまない。お前達の過去も見ずに余計な事言ってしまって……」

「大丈夫だ、問題ない」

「私は最近この世界に迷い込んだ別世界の存在なんだ。さっきはゴメンなさい。」

「大丈夫だ、問題ない」

俺は生返事で返してしまう。だが、彼女(?)にとってはそれは嬉しい事だったそうだ。

「ありがとう。」

「おう。」

俺は笑い掛けた。彼女も笑っている……のか?

「と言うよりなんで小さい男の子が若干グレたおじさんみたいな口調してるの?」

さり気なくコンプレックスを突き付けてくる。

「しかも青い髪に青い眼って……この世界には見ない顔だね。」

「!?そんな色に染めた覚えないぞ!?」

俺は思わず焦って姿見を覗く。そこには日本人として逸脱した俺が居た。都会からはかなり離れて世間に疎いが、知らん間に自分にも……

「嘘やろ……」

「え……Gate破壊の余波がもう…」

皆焦り始める。脳が危険信号を放ち始めたのが分かった。何故俺の足は動かない…一刻も早くこの不穏な地獄から抜け出したい。

「おいおい困るなぁ……」

そう俺はコイツのせいで2度と平穏な日々を送る事が出来なくなった。

「ちゃんと僕は別離的空間も再接続して、絶賛戦争中の世界線も繋げてあげて更には異世界まで繋げてあげたのにさぁ……酷い言いようは辞めておくれよ…」

首を横に振り、肩を竦める男が居た。

彼の容姿については球磨〇禊が近いだろう。痩せ型青髪服は何故か着てない。

「僕の名は飯田白亜。キラキラネームだから覚えやすいだろ?名前の通り生まれた瞬間タイムマシンで白亜紀に飛ばされた訳だ。」

「ん?詳細については語る気がないよ。『今』の君達には無関係だからね。」

とにかく気味の悪い笑顔を浮かべる。軽く悪夢を見ている気分になる。

「気味が悪い……そう思わないでおくれよ〜僕は『まだ』悪くないからさ。」

益々裸エプロンさんを意識してしまう。

「あ、僕は自分で物事を考える事が苦手なんだ。まぁ機械を入れて誤魔化す所は誤魔化してるけどね。」

小馬鹿にする目付きで俺達を見てくる。俺達は屈せず威嚇していたが、虹色生命体は怯えている。

「へぇ…カリスちゃん?君は僕に恐れを抱いてるのかい?酷いな〜。これでも僕は人間だよ〜」

虹色生命体(カリス)をツンツン突きながら声を発する。

「そして……君の『元飼い主』だ」

酷く冷たい声がカリスに触れた。

「普遍的な心理をここで述べるとすると……そうだな〜……君は過去も現在も未来も生理的に無理って所かな。自分のせいでこうなってんの分かってなさそう。」

「君はね、いい加減人間フォルムに戻るべきなんだよ。って……なんだい?君?そのナイフは?」

カリスは溶けかけていた。それを見てられなくて俺はナイフを取り出した。何百と殺したこのナイフを。

「へぇ……生気の篭っていないナイフだね。殺意以外の負の感情をもって人を殺してきたんだね。悲哀?静寂?不満?そんな気持ちが血の染み込んだそのナイフにこびり付いてるよ。」

「俺はお前みたいな精神を壊そうとする奴が嫌いだ。」

俺は強くナイフを握った。しかしその手は震えている。

「酷い奴だな君も。僕は在るべき姿に戻してる圧倒的善行をしている訳だよ?それを精神を壊すとか醜い言葉で言い表さないでくれるかい?」

「撤回しない。屈しない。」

その俺の声は震えていた。今も身体が震えてる。

「非核三原則でも述べるのかな……御託は良いんだよな。早くかかって来なよ。」

「うぉぉぉ!!!!」

俺は奴の懐を刺すつもりで突っ込んだ。

「野蛮な手だな〜。318人は報われないよ〜」

「!!!!!?」

俺が殺した数だ……あ、辞めてくれ……

「君は彼等の分まで生きる義務が有るのにな。そんなの……手が滑って殺しそうだよ……」

俺は黒い空気に呑まれかけた。だが、自分には守りたい者が居ることを思い出して、俺はナイフを奴の首元まで伸ばした。

「精神糞雑魚の無価値な人間かと思ったけど、見当違いだったか……hahahahahahahahahaha!なかなかに面白いね!」

謎の不可抗力でアイツが笑うと同時に吹っ飛ばされた。軽く腰をやったかもしれない。

「せいぜい進めよ。「無」の舟漕いで。」

「君達は僕含める奴らを倒せるかな?」

そう言い終えると、後ろの空間が裂け、彼は帰っていく。

「あっそうだ。カリスちゃんはもう君達の物だ。そして大介君?君はもう死にたくても死ねない様にしてやった。嬉しいかい?精々今までの死者が報われるように苦しみながら生き地獄を経験して絶望して死にたくなれ」

最後の冷徹な笑みは世界を壊す瞬間となった。

「あっそうだ。僕は神だよ。宜しくね」


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