恋の病と言うけれど~近所のお姉さんと僕はバカップル~
久野真一
第1話 告白は始まり
10月21日木曜日、晴れ。すっかり秋らしくなって、過ごしやすくなった10月の夕方の図書室にて。
「くーちゃん、ずっと大好きでした。私とお付き合いしてください!」
琴ねえの声が響き渡った。その言葉に、僕の心臓がドキンと跳ね上がる。
本名、
現在、高校2年生の彼女は、少し天然でドジっ子な性格も相まって、学校のライングループで行われた、男子どもによる非公式・見てて癒やされる女子ランキングでもTOP10に入っている。琴ねえが知ったら怒るだろうけど。
くーちゃんは、琴ねえから僕へのあだ名で、本名は
「琴ねえ。それは、告白ということでいいの?」
あまりにも急に想いが叶ってしまい信じきれていない自分が居る。
「うん。もちろんだよ」
琴ねえはあくまで真剣な表情だ。
「そっか。ありがとう。嬉しいよ、琴ねえ」
少し深呼吸をして心を落ち着けてから、そう返事をする。
「うん。それで、返事、は……?」
少し不安そうに見つめられる。しまった。
「ごめん。僕もずっと好きだったよ、琴ねえ」
その返事に、ほっとした様子の彼女。
「良かった。両想いだったんだね」
少し涙が滲んでいる。
「そんなに不安だった?」
「だって、3年前からだから。仲のいいお姉さんのままなのかなって」
「それを言ったら僕も同じなんだけど」
「え?」
目を白黒させているけど、やっぱり気づいてなかったんだ。
「僕も3年間、ずっと不安だったから。それに、琴ねえは天然だし、鈍感だし」
「ちょっと。いきなりディスらないで欲しいんだけど」
「
明美は、僕の一つ年下の妹で、今は中学3年生だ。しっかり者のよく出来た妹で、僕が煮え切らないのをよく嘆いている。
琴ねえのドジっ子ぶりもあって、あまり年上として見てないらしく、彼女の事は「琴ちゃん」と呼んでいる。
「兄妹揃ってひどい!」
「だって事実だし」
「くーちゃん、実は私の事嫌いなのかな!?」
涙目になっていじけ始める琴ねえ。
「涙目になってるところは好きかも」
「サディスティックだよ、くーちゃん!」
「冗談だよ。いや、半分本気かも」
「私、告白を撤回した方がいい気がして来たよ」
「それは困る。琴ねえの事、好きだし」
「全然、気持ちがこもってない……」
また、いじけ始めた。ちょっと楽しい。
「ふざけ過ぎた。ごめん。それで、これからは恋人同士ってことでいいのかな?」
「うん。それは、こっちからお願いしてるんだし」
「ありがとう。でも、全然実感ないね」
嬉しいはずなのに。あまりにも唐突だったからだろうか。
「そ、それじゃあ。キス、してみる?実感、できるかも」
おずおずといった様子で、琴ねえが言った。って、え?
「キ、キス?そんないきなり!?」
いきなりな提案に今度はこっちが混乱する。
「ごめん。いきなり過ぎたよね。で、でも、キスしたら実感できるのかなって」
「それは嬉しいんだけど。でも、いいの?」
「う、うん。いずれは、するんだし」
いずれは、って。そんなノリでいいのか、琴ねえ。でも、断る理由もない。
「じゃあ、お願いします」
「は、はい。こちらこそ」
なんだかお互い畏まった感じになってしまう。
えーと、キスってそもそもどうすればいいんだろうか。
そうだ。まずは近づかないと。そう思って、一歩踏み出した僕。
「な、なんか、凄く緊張するね……」
同じく一歩踏み出した琴ねえ。カチコチに緊張している。僕もだけど。
そして、一歩一歩近づいて、ゼロ距離になってしまった。あとはどうすればいいんだろう。
ええい、もう、なるようになれ、だ。少し強引に彼女の顔を上向かせ、唇を奪う。
ああ。キスってこんな感じなんだ。少ししめった唇の感触がする。レモンの味はしないな。そうぼんやりと考えながら唇を離す。
でも、あれ?なんか、既視感が……ていうか、実際の記憶?
「ひょっとして、昔、琴ねえとキスした事あったっけ?」
「今、私も思い出したんだけど、小2くらいの時に、した、気が」
「言われてみれば……!」
琴ねえの部屋でキスをした光景が朧気に浮かんでくる。
「ファーストキスじゃなかったとは」
「それはいいんだけど。実感、できた?」
顔を赤らめて琴ねえが聞いてくる。凄く可愛い。
「凄く。現金だけど」
唇が触れ合うだけで、ここまで違うとは。
「なんだか、私も急にドキドキしてきたよ……」
唇に手を当てながら言う様子がなんとも艶めかしい。
「そろそろ、帰ろうか。日が暮れちゃってる」
いつの間にか、夕日が沈もうとしていた。
「うん、そうだね。くーちゃん、これから、よろしくお願いします」
「こちらこそ、琴ねえ」
お互いにお辞儀をして、妙な雰囲気のまま、二人して帰宅の準備をする僕たち。
◇◇◇◇
学校からの帰り道。すっかり暗くなった通学路を二人で歩く僕たち。
もちろん、恋人繋ぎだ。
「その。なんだか、凄くふわふわした気持ち。現実じゃないみたいな」
ぽつりと琴ねえが言う。
「うん、僕もそんな感じ」
さっきのキスでしっかり実感は湧いてきたのだけど、今度はこれは夢じゃないだろうかと思ってしまう。
「もう一度、キス、してみる?」
横目で僕の事を伺いながらの提案。
「うん、僕もしたい」
さっきは一度きりだったから。
今度は、抱き寄せて、ゆっくりと唇を合わせる。
と思ったら、舌が入ってきた。
「むぐ」
一瞬、戸惑ったけど、僕も同じようにしてみる。
最初のキスと違って、なんだか変な気分になってくる。
「ぷはっ」
息が続かなくて、唇を離す。
「すー、はー」
深呼吸をする。
「どうしたの、くーちゃん?」
「息するの忘れてた」
「変なの」
「琴ねえが舌入れてきたからなんだけど」
ファーストキスでいきなり舌入れてくる人なんて居るのだろうか。いや、厳密にはファーストキスではないのだけど。
「最近みた恋愛小説でそういうシーンがあったから、真似したくなって」
てへへと可愛く言う琴ねえ。
「それって、官能小説じゃないの?」
「それは偏見だよ。普通の女の子向け恋愛小説」
そんなものなのだろうか。
「とにかく、いきなり過ぎだから」
今も心臓がドキドキする。
「嫌、だった?」
潤んだ眼で見つめられる。そういうのはずるい。
「嫌じゃなかったよ。というか、嬉しかった」
ここまで積極的な琴ねえは初めてだし。
「良かった♪」
そうして、ご機嫌になった彼女と歩くこと数分。気がつけば、琴ねえの家に続く道と僕の家に続く道が別れる十字路。
もうお別れか、なんてつい思ってしまう。明日また会えるのに。
「明日、また会えるよね」
「それは当然。僕も会いたい」
一瞬、同じ事を考えていたのかとびっくりしたけど、平静を装って返す。
「明日、迎えに行っていい?」
「……まあいいか。明美に何か言われそうだけど」
「さっきみたいにディスられないといいんだけど」
「大丈夫、たぶん」
「お弁当、作るね」
「怪我しないように、ほどほどに」
「そこで私の身体の心配?」
「だって、包丁の持ち方とか危なっかしいし」
前に手料理を振る舞おうとした琴ねえの姿を見ていたのだけど、色々危なっかしくて、ヒヤヒヤしたものだ。
「そこは信用して欲しいな」
「うん。ほんとに無理しないでね」
「一からお料理勉強し直すよ」
凹んでしまった。
「冗談だよ、冗談。お弁当、楽しみにしてるから」
「うん。頑張るよ」
そう決意をしている彼女は、ちっちゃい子みたいで、ほんとに年上らしくない。
「それじゃ、また明日ね」
「うん。またあし……むぐ」
返事をしようとしたら、唇をふさがれていた。
数秒の間、呆然としてしまう僕。
「ちょ、ちょっと琴ねえ!?」
慌てて言うけど、既に彼女は走り去っていて。
「じゃあ、また明日ねー!」
そう遠くから言う声だけが聞こえたのだった。
心臓はドキドキしっぱなし。
これ、今夜寝られるのかな。
こうして、僕と琴ねえの、一見普通で、ちょっと行き過ぎた恋人生活がスタートしたのだった。
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