キメラ
セイン葉山
プロローグ
青い月の夜だった。深い森の中を、二つの足音が追いつ追われつ響き渡った。一体は忍者のような姿を持つ異形の者、魔界の住人だった。魔物は地上を走り、枝を飛び、軽々と樹上を移動しながら、凶悪な毒針を発射し、生き物のように動く鞭をしならせた。もう一人は淡いオーラに身を包んだ女の戦士ケイト。グリフォンの爪と呼ばれる短剣を携え、軽々と宙を飛び、森に紛れ、闇を走り、魔物を追い詰めていった。飛び交う毒針を腕で飛ばし、魔物の背中に光の短剣が突き刺さったと思った瞬間、その体は枯れ枝に変わり、魔物の気配は消えた。
「しまった!」
魔物はどこかに逃げ、こちらを狙っている。待ち伏せしている。どこだ、どこにいるのだ。女戦士は、呪文を唱え、光の短剣を近くの地面に突き刺した。あたりに閃光がきらめき、森が一瞬明るく照らされた。
「ギギギェ!」
うめき声とともに近くの木に擬態していた魔物の輪郭が浮かび上がる。
女戦士は躊躇せず空中を飛び、短剣でとどめを刺す。光とともに魔物の姿は崩れ去り、蒼い精霊石だけが残る。女はそれを手に入れると歩き出した。
「おや? まさか?」
ケイトは立ち止まって左手を見た。さっき毒針がかすめた左の袖が破れていた。
「あり得ない。かすっただけでオーラアーマーが破られたというのか? なんて化け物だ」
ケイトはスピリチュアルエナジーコアという回復剤を使った。オーラが輝き、かすり傷だけでなく、破れた袖まできれいに治っていった。そしてあたりを窺いながら暗い森を歩き続けた。その時、ブレスレッドが光り、小さな緊急音が鳴り響いた。
「ピー…異世界座標照合完了。目的地点に到達…!」
「よし、やった!」
女戦士は息を荒げながら急ぎ足で進みだした。森はやがてその先で途切れ、目の前には青い月に照らされた広い荒野が現れる。
「…ついに来たわ。異界の大地、セリオンの地に…」
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