余談ですが、彼について私はこう思う -高見佳奈の見解-

久納 一湖

 ガレージでの仕事を終えてメトロシティをを出るまで、思っていたより時間があった。


 街を歩いた先のショッピングモールをぐるりと回った後に、伊野田は見かけたビストロに入ってみることに決めた。モールでは結局何も買わず、腹だけ空かしてしまった。


 薄ら寒い外の空気から暖かな店内に入ると、オープンカウンターの厨房から食欲をそそる香りが届き、彼は思わず笑みをこぼした。カウンターに並ぶ数種類のメニューを少量ずつ選んでいるうちに、あっと言う間にトレーは皿だらけになった。


 席についてすぐにビールを流し込む。昼のビールは最高だなと感じながら、まずは肉がたっぷり詰まったソーセージにフォークを慎重に刺した。ピッと弾けた肉汁が少しだけその側面を流れる。ナイフを静かに入れてカットし、口に運ぶとレモンハーブの香りが鼻をくすぐり、食事を始めたというのに腹の虫が鳴りそうだなと彼は思った。次いでキャベツの酢漬けを放り込む。間髪入れずに残りのビールを流し込み、普通の幸せっぽい幸せを噛み締めていることが急激に嬉しくなってきた伊野田は、迷うことなくビールを追加した。


 酸味の強いトマトと牛肉のスープに、ほうれん草のソテー、またソーセージをつまみ、ビールで喉を潤してキャベツを食べる。至福だった。食事を味わって食べたのは久しぶりかもしれない。

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