第2話 紅い記念日 2
「9月10日 12:31 風桐 斗真さん 永眠につかれました。」
「と とうまあぁぁぁーーー…‼」
「斗真にぃ…‼」
医師は銀縁の眼鏡の奥でゆっくりと瞳を伏せると、表情を歪ませながら、それでも確かな言葉でそう言い放った。
医師の言葉が何かの合図だったかのように、泣き崩れる斗真の母親。
父親も、そしてもうひとりの誰かも。声を荒げることなく、叫ぶでもなく。
静かに、でも確かに泣いていた。
(…これ以上、あたしにここにいる資格はない。
家族から、自分自身から斗真を奪ったあたしが
ここで泣いちゃいけないんだ)
喉の奥まで押しあがってきた何かを、ぐっとのみこんでそっと病室を出て戸を閉める。
そこまでがもう、限界だった。
閉めた途端に、たってもいられなくなった。
状況はまだ理解していないつもりだった。それでも涙は自分勝手に溢れて、緩みきった涙腺に為す術もなく、ただ自然に涙が止まるの待った。
12:30ごろ。
斗真が完全に呼吸活動をとめるわずか1分前のこと。
そのわずかな斗真の生きた最後をあたしは、はっきりと思い出せる。
「とうま…っ‼とうま…っっ‼」
「とうまにぃ…っ‼」
「とうま…‼」
目を開かない斗真に絶えず呼びかける風桐家の声がこだまする。
それと並ぶほどのたくさんの医療機器のチューブやら管やらが幾つも斗真へ繋がれ、電子音になった斗真の生命の音を鳴らしていた。
ピ ピ ピピ… ピーー……
誰の叫び声をもかき消すように、
この音だけがはっきりと鼓膜を揺らした。
一度途切れた生命の音は、この瞬間 完全なる一つの命を終えた。
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