第十三話 おっさん会話をする


 まーさんは、内扉がノックされる音で目を覚ました。


(誰だ?あぁそうか、カリンしか居ないな)


「いいよ。こちらには鍵はかけていない」


「まーさん。入って大丈夫?」


「あぁ」


 鍵が開けられる音がする。

 内扉には両方に鍵が付けられている。カリンは自分の部屋に付けられていた鍵を開けて、扉を開けた。


「本当だ。まーさん。不用心だよ?」


「ん?カリンは、俺を襲うのか?」


「え?あっ!」


 カリンは、自分が開けた扉が内扉だと気がついた。自分が開けなければ、誰も開けないのだ。


「いいよ。それで、こんな時間に訪ねてきたのには理由があるよな?寝られないから、”子守唄を謳って欲しい”と言われても、無理だからな」


「・・・。まーさん?」


 カリンが、少しだけ怒った雰囲気を出した。まーさんがふざけていると感じたからだ。


「座ったら?俺の家じゃないけど、お茶くらいなら出せるよ」


「あっ・・・。はい」


 カリンは、まーさんの意図がわかって、まーさんの正面に腰を降ろした。まーさんは、お茶を用意するフリをして、カリンの開けた扉に足を進める。ドアを開けて、中を覗くが、まーさんが考えていた内容にはなっていなかった。

 カリンの部屋で物音がしたようなきがしたので、誰かが忍び込んだのかと考えたのだ。


「まーさん」


「大丈夫だった。それで、本当に、寝られなかっただけ?」


「・・・。まーさん。聞きたいにことがあるのですが?」


「ん?なに?」


「名前を名乗らなかったけど、辺境伯の関係者さんが帰り際に言っていた、”賢者”と”聖女”のことだけど・・・」


「説明した方がいい?気持ちがいい話にはならないよ?」


「はい。お願いします」


 まーさんは、昼間に語った話を説明した。


「・・・」


「酷いと思うか?」


 カリンが何も喋らないのを、まーさんは、自分が誘導した行為が”酷い”と感じたからだと考えて、問いかけた。


「あっ。違います。まーさん。彼らから”聖者”と”賢者”が産まれると思いますか?」


「どうだろうね。でも、なんと言ったか、”勇者(笑)”の一人でスキルに”聖剣”とか出ていた奴が居たよね?」


剣崎けんざきくん?」


「あぁそうそう」


 適当に返事をするまーさんをカリンが睨む。


「まーさん。本当に、おぼえていました?」


「いや、おっさんだから、必要がない事柄を覚えておけないのですよ」


「はぁ・・・。まぁいいです。それで、剣崎けんざきくんがどうしました?」


「”彼が”ということは無いけど、”彼らの中”の優劣が周りに、わかりやすい方がいいだろう?そうしたら、”こっち」カリン”に構っていられなくなると思うよ」


「え?」


「だって、今まで、カリンを下に見てきた連中だよ?自分が下になるのは我慢なんてしないよね?」


「あっ・・・。はい」


「彼らは、今まで、親の権力とか、親の金とか、自分で得たものではない、事柄で優劣を競っていたのでしょ?」


「そうですね。誰かを下にしないと・・・。でも・・・」


 カリンは、自分がいつも彼らにいじめられていた事実を思い出した。

 この世界でも同じだと思ってしまっているのだ。


「カリン。いいか、君は、彼らとの決別を考えている。間違いではないよな?」


「はい」


 今までの声色と違って、諭すような優しい声色に、カリンはまーさんを見た。

 カリンから見るとまーさんは、今まで自分が抱いていた”大人”とは違っている。何か、大きな”傷”を持っているようにさえ感じてしまう。最初、神田小川町で見かけたときには、怖かった。殺されるのではないかと本気で思った。猫=大川大地さんを彼らが虐め始めて、自分も同類だと思われたと考えた。言い訳を考えている最中に、召喚された。恐怖で、まーさんの着ていた物の裾を握ってしまった。

 カリンは、召喚されてよかったと思っている。まーさんの話を聞いて、この人はどんな世界で何をやって来たのか不思議に思った。そして、興味が湧いた。


「カリンが、彼らから離れたら、彼らはどうすると思う?」


「え?」


「彼らの中で優劣を決めて、一人を虐めだすと俺は思っているよ」


「あっ・・・。はい」


「その時に、縋る権威が無いと、彼らはまた、カリンに依存するかもしれない」


「私に依存?」


「あぁ彼らは、カリンに依存している」


「??」


 カリンは、わからないという表情をした。

 実際に、解っていない。彼らが”自分に依存している?”と言われても、ピンとこない。


「彼らは、カリンを無視するという選択肢があるよな?」


「え?あっそうですね」


「それを選ばないで、自分たちの下にカリンを置きたがっている」


「・・・。はい。実際に、彼らの方が・・・」


「カリン。それは、違う。彼ら自身が何かをしたわけではない。親から借りている物だ。それに、彼らはそうやって自己を形成しないと、耐えられない弱い人間だ」


「弱い?」


「そうだ。だから、彼らは、カリンを虐めた」


「でも、私が弱いから・・・」


「違う。彼らが弱かったから、彼らは、カリンに依存した。ロッセルが言っていた話を思い出さないか?」


「え?」


「俺とカリンが、召喚された場所から移動してから、彼らは、俺やカリンのスキルやジョブを馬鹿にしたと、言っていたよな?」


「はい」


「彼らは、そうやって誰かを自分よりも下にしていないと、自己を形成出来ない”おこちゃま”で弱い人間だよ。それに、もう彼らが”持っていると錯覚している”権力や財力は通用しないよ」


「そうですね」


 カリンは、自分でモヤモヤしているのは認識しているけど、”何か”がわからない。まーさんの話を聞いて”何か”を考えようとしたが、答えまで辿り着けそうにない。でも、まーさんが言っている”彼らは弱い人間”は納得出来る話だと思った。


「そうだ!ちょうどよかった!」


「え?」


「ステータスカードを使ってみないか?」


「ん?」


 まーさんが、立ち上がって着ていた作務衣のポケットから取り出したカードを持ってきた。


「まーさん。それは?」


「ステータスカード」


「それは、見ればわかるけど・・・。なんで、3枚あるの?」


「うん。大川大地さん改め、バステトさんの分も用意させた」


「あ・・・」


「実際に、偽装や隠蔽がうまく出来ているか、ロッセルやイーリスや辺境伯の関係者の前では、試すには情報が不確かすぎた」


「そうですね」


 まーさんは、寝ていたバステトを呼んだ。呼ばれたのが解ったのか、ベッドで丸くなっていたのに起き出して、カリンの膝の上に飛び乗った。


”にゃぁ”


「うん。バステトさん。カードに触れて、魔力を流してください」


”にゃ!”


 バステトがまーさんに言われたとおりに、カードに肉球を置いて魔力を流す。

 カードに、バステトの偽装と隠蔽されたステータスが表示される。カードの裏には、二つの紋章が表示されている。


 まーさんは、紋章が”辺境伯”の物だと理解したが、その隣に枠だけだが表示されている場所がある。


「バステトさん。この紋章らしき物が何かわかりますか?」


「まーさん。バステトさんは”猫”ですよね?」


「そうですが、なんとなく、知っていそうだと思いませんか?」


 まーさんの言い方を聞いて納得しかけたカリンだったが、頭を振って”そんなはずはない”と思い直した。


”にゃ!”


「どうしました?」


 バステトが、紋章を肉球で叩く。


「そうです。その部分がわからないのです」


”にゃにゃぁ!”


 今度は、カードを持ち上げようとする。


「裏返せばいいのですか?」


”にゃ!”


 バステトが、まーさんの問いかけを肯定するように鳴き声を出す。

 カリンは、二人?のやり取りを微妙な表情で見ている。


(本当に、会話が成立している?)


 バステトは、ステータスが表示されているカードの面を見て、一部を肉球で叩く。


///称号

/// マーロンのペット


「バステトさん。もしかして、その紋章は、”マーロンのペット”という項目が原因ですか?」


”にゃぁぁ!!”


 まーさんは、また謎が増えたと考えて、カリンは”もしかしたら”バステトの方が自分よりも優秀なのではと考えてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る