第300話 邪神

 ガルヴの爪と牙を食らった部分の真祖の頭の変化が止まる。

 だが、ガルヴの爪と牙を食らった部分以外が急速に膨張し始めた。


「どういうことでありますか?」


 シアが少し慌てた様子で叫ぶ。

 膨張した真祖の頭は成人男性の身長よりも大きくなった。

 緑色で目が三つあり、髪の代わりに十数本の太い触手が生えている。


 その禍々しく異様な姿に、俺は見覚えがあった。

「……邪神の頭部か」


 俺はドレインタッチをやめて、邪神の頭部から距離を取った。


「じゃ、邪神の頭部だと?」

 以前ヴァンパイアどもが、邪神像を触媒にし頭部だけを召喚したことがあった。


「邪神像よりも、邪神の御子とやらの死骸のほうが触媒としてはふさわしかろうよ」

「頭部なら、ラックが倒したことがあったな」


 エリックの言うとおり、俺はかつて邪神の頭部をソロで倒した。

 邪神とは言え、頭部だけなら恐るるに足りない。


「ガウ! ガウ!」


 ガルヴが吠えて、俺が先ほどまでドレインタッチをかけていた真祖の身体に爪で切裂き牙で噛みつく。

 頭だけでなく、身体までドロドロに溶け始めたことに真っ先にガルヴが気付いてくれたのだ。

 二つに切断された身体が、ほぼ同時に溶け始める。

 その身体にケーテが魔法を打ち込み、俺は魔人王の剣で斬り掛かる。


 だが、真祖の身体は溶け続けた。

 そして、急速に膨張すして邪神の身体を形成する。


「は、速いであります」


 恐らく次元の狭間を膨張させていた膨大な魔力によって膨らませたのだろう。

 速くても当然と言う気になる。


「邪神の身体の方は初めて見たな」


 頭だけで身長より高いのだ。身体は頭部の大きさに比例した巨大さだった。

 全身はは緑で腕が四本あり、下半身は蛸か烏賊の足のようだった。

 竜形態のケーテの何倍もある。


「髪の毛も足も触手か。手数が多そうで厄介だな」


 ゴランが冷静に分析する。

 身体を手に入れた邪神は「oooooO――」とうなり始めた。

 そして、みるみるうちに小さくなっていった。その分魔力が凝縮する。

 邪神は人と大して変わらない大きさになった。


「とりあえず、殺すぞ」


 今は寝起きの状態。調子も十全ではあるまい。

 相手は神なのだ。完全復活したら倒せるかどうかわからないのだ。


「俺とゴランが突っ込む。ラックは援護してくれ」

「わかった!」


 エリックの指示に、俺が同意すると、ゴランがセルリスたちに向かって言う。


「セルリスとシアは自由に動いてくれ! 命を大事にしろ」

「わかったわ!」

「全力を尽くすであります!」


 俺はケーテとガルヴに向かって叫ぶ。


「ケーテ、竜のまま全力で攻撃してくれ。ブレスをぶっ放していいぞ。ガルヴは俺の後ろで待機だ! 隙を窺え」

「わかったであります!」

「ガウ!」

「ゲルベルガさまは自己判断で!」

「ここ」


 指示出しが終わると、エリックとゴランが突っ込んでいく。その速さは矢のごとし。

 エリック、ゴランを迎撃しようと、頭部の触手が攻撃を開始し、二人に容易く斬り落されていく。


 エリックはいつものように聖剣だ。

 ゴランは右手にいつもの魔法の剣、左手に先ほど魔神王から奪ったドレインソードを持っている。


 俺は二人を援護するために、魔法の刃を飛ばして、二人を襲おうとしている触手を切断していった。

 そしてケーテは遠慮無く、暴風のブレスをぶち込んだ。


 ケーテの暴風ブレスは、強い風が吹くだけではない。ブレスの中で魔法の刃が乱舞している。

 多くの触手を切り落していく。だが、すぐに再生しはじめた。


「はあああぁぁぁぁぁ」

「おらぁ!」


 エリックとゴランは邪神の間合いに到達し、下半身の触手を斬り落す。

 下半身の触手は頭部に生えた触手よりも数は少ないが、三倍ぐらい太くて長い。


 エリックとゴランでも、下半身の触手を斬り落とすのは、それほど簡単ではなさそうだ。

 だが、俺とケーテの魔法の援護もあり、エリックの聖剣が邪神の胴体を届く。


「OOOOOOOOooooo」


 斬られた瞬間、邪神は悲鳴を上げる。邪神を覆っていた障壁が消失した。

 そこに俺とケーテの魔法が直撃し、邪神の全身が大きく壊れた。

 だが、一瞬で再生を果たす。障壁も元通りだ。


「流石に一撃では無理か」

「真祖よりは、しぶといんじゃねーかな?」


 エリックとゴランはそんなことを言いながら、触手を斬り伏せていく。


『前回頭部を倒した時の魔法を使う』

『ああ、任せる』


 念のために邪神に聞こえないように念話を使った。

 そして俺は時空爆縮ラウム・インプロージョンの魔法を放った。

 時空爆縮は物理の法則を捻じ曲げ、空間ごとひしゃげさせる魔法だ。


 ――ギィィィィイイインガギィン


 鋭い音と同時に邪神の全身をこぶし大まで圧縮した。


「す、凄まじいのである」

「これだけじゃ多分死なない。解除後に一斉に攻撃してくれ」


 そういって、俺は時空爆縮の魔法を解除する。

 邪神は元の大きさに爆発するかのように一気に戻る。

 骨はぐちゃぐちゃ、肉も内臓も、触手もぐちゃぐちゃだ。

 そこにエリック、ゴランが斬り掛かり、ケーテが火球の魔法を撃ち込んだ。


「OOOOOOOO」


 三人の攻撃が届く前に、邪神は再生を終えていた。

 エリックとゴランの剣は四本の触手を切り落とし、五本まで止められていた。

 そして四本の触手はみるみるうちに再生する。

 ケーテの火球は邪神の身体を焦がしたが、爆風が終わる頃には再生が終わっていた。

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