第293話 魔法陣の解析

 仕組みはともかく、神の加護が消えたのは間違いないようだった。


「ロック。魔法陣についてなにかわからないか?」

「最悪、理解できなくても破壊できればそれでいいんだが。なんとかならねーか?」

「なんともならんし、理解も出来ていない」

「……そうなのか。ロックでもそうなのか」

 エリックが呟く。


「ああ。役に立てずにすまないな。そもそもだ――」


 俺は簡単に説明する。

 魔神王の剣で傷付けたのにもかかわらず魔法陣はその機能を発揮している。

 つまり外側から傷付けたのに壊れなかったのだ。

 そうなると、魔法陣は外側にみえる部分だけではないと言うことがわかる。


「魔法陣の真に重要な部分はこちらではない場所にあると考えたほうがいい」

「こちらではない場所?」

「違う次元と言うことだ」

「……次元の狭間か?」


 俺が十年戦ったのが次元の狭間だ。


「もしくは、さらに向こう。邪神の次元かもしれない」

「……そいつは、厄介だな」

「ああ、厄介だ」


 俺は邪神の手で直接ヴァンパイアになった真祖の手による邪神の魔法理論で作られた魔法陣ではないかと伝える。


「そういうことならば、ロックが理解できない魔法理論というのも納得だが……」

 エリックはこの上なく暗い表情をしていた。

「エリック。今の問題は神の加護の再生方法だ。魔法理論は後回しでいい」

「その通りだが、そもそも再生方法がわかるのか?」

「魔法陣をもう一度調べてみる。時間はかかるが……」

「たしかにそのぐらいしか方法はないか」


 エリックは空を見上げる。

 完全に日が沈み夜になっている。満月と満天の星が綺麗だった。


「昏き者どもの討伐は、俺たちに任せてくれ」

「ああ、王都に襲撃をかけている奴等は冒険者を総動員して対応している」

 エリックとゴランの言葉が心強い。


「シア、セルリスもゴランの指揮下に入るといい。俺は今から魔法陣を解析する」

「了解であります」

「わかったわ!」

「いや、シアもセルリスもロックの護衛に付いてくれ。解析を邪魔されたら困る」


 ゴランからの指示により、シアとセルリスは俺を護衛してくれることになった。

 俺はシアとセルリス、ガルヴと一緒に地面に描かれた魔法陣の元へと移動する。

 そして、魔法陣に直接触れて解析を始めた。


 直接触れると、微弱な魔力が流れていることがわかる。

 確かに魔法陣は起動し、効果を発揮しているようだ。

 俺は流れている微弱な魔力の流れを読み取っていく。


「……難しいな」


 俺は魔法の解析が得意中の得意といっていい。

 それでも難しかった。難解で容易には進まない。

 だが、俺が解析し魔法陣の機能を止めなければ、王都は危険にさらされ続けるのだ。

 解析を進める俺の耳に、通話の腕輪を通じてケーテの声が聞こえてきた。


『ガガ……昏竜……倒し……ガガ……のだ! 全部で五十五、ガガ……倒し……だ』

「見事だ。助かったぞ。」


 対応しているのはゴランだ。

 先ほどケーテと話しをしたときは雑音がなかった。

 その事から考えて、雑音の原因はやはりこちら側にあるのだろう。

 フィリーとの通話も雑音がひどかったので、王宮周辺全体に魔法での長距離通話を阻害する何かがあるのだ。


『だが、魔物……ガガ……たくさ……ガガ、そっちを倒す、ガガガ……』

「はっきりとは聞こえないが、魔物が沢山居るからそちらを倒してくれるのか?」

『そう……ガガ……ある。そっちに助けは……ガガガ、いるの……ガガ』

「こっちは大丈夫だ。任せてくれ」

『なら任……ガガ……た!』


 上空のケーテたちはバラバラに飛び去った。

 ケーテは北の方角に、ドルゴは南西に、モーリスは南東に向かって飛ぶ。

 三方向に魔物の群れがいて、王都を失陥させんと向かってきているのだろう。


 今、王都の外から魔物の群れに襲われたら、王都に大きな被害がでることを防げない。

 現状ですら王宮に入り込んだ大量のゴブリンとヴァンパイアへの対応に苦慮しているのだ。

 ケーテたちが居てくれて、本当に良かった。


 そんなことを考えながら、解析を進める。


「メインがこちらで、サブがこちらか」


 魔法陣に流れる微弱な魔力が、いくつかの階層に分かれていることがわかった。

 メインの機能とサブの機能で階層を分けて、実行しているようだ。

 メインの方は流れが複雑すぎてよくわからない。だが、サブの一番単純なところがわかり始める。

 一番単純な機能は長距離通話魔法の妨害だと見当をつけ、それを踏まえて解析するという手法が上手くいきそうだ。 

 それは、まるで未知の言語の意味を解明するような気の遠くなる作業である。

 だが、一カ所でもわかれば、それを手がかりにして魔法陣の解析を進められるはずだ。


 俺は、長距離通話魔法の阻害の仕組みを解明し、こちら側の世界から、魔法陣に的確に魔力を流し込む。

 それによって、サブ機能の表層部分を破壊することができた。

 解析さえ成功すれば、こちら側の世界からでも、次元の向こうに刻まれた魔法回路を破壊できる。

 それがわかっただけでも、大きな進歩だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る