第268話 邪神の加護

 アリオとジニーは無言で走り出す。ガルヴがその後ろをついて行く。

 ガルヴはアリオたちを守ってくれるつもりなのだ。とても賢く優しい狼だ。


「どこへ行くつもりだ? 猿ども」

 そう言って、真祖はアリオたちに魔力弾を放とうとした。


「よそ見とは余裕じゃないか」

 俺はその魔力弾を、自分の魔力弾でたたき落とす。


「……神の加護の中でそれだけ動けるとはたいしたものだ」

「この前俺たちに殺されたことを忘れたのか? 舐めすぎだ」

 そう言って、にやりと笑っておく。


 真祖は気付いていないようだが、コアが真祖の体内に入った瞬間、邪神の加護の影響が弱くなった。

 肉体自体が結界となり、その効力範囲を弱めているのかも知れない。

 ロードとの戦いのさなか、影響を受けたのはゲルベルガさまだけだった。

 そのぐらい肉体の結界は強力である可能性が高い。


「邪神の加護にもなれてきたな。ケーテ。この死に損ないを倒すぞ」

「わかったのである!」

「ふん。大勢でやっと我を倒すことが出来たというに。たった二匹でなにができる!」

「お前を殺すことができる」


 俺は魔神王の剣を抜いて構える。すると、真祖はにやりと笑った。


「なにがおかしいのであるか!」

 ケーテが叫ぶと、真祖は笑顔のまま答える。


「いやなに。ラック。ちゃんと剣を持ってきてくれたようだな。礼を言おう」

「……この剣で、俺に気付いたのか?」

 魔神王の剣は前回の戦いでも使っていた。ならばラックだと気付かれてもおかしくはない。


「あの時点ではもしやと思った。いや、まさかと思った。だから確かめるために罠を用意したのだ」

「それはそれは、わざわざどうも」

 俺は魔力弾をぶっ放す。

 真祖は一瞬、虚を突かれた表情をしたが防ぎきった。


「やるではないか。神の加護の中でそれだけ動けるとは」

 そして、真祖は左手で顎を撫でる。


「ふうむ。やはり英雄ラックと猿どもに言われているだけのことはあるな。ここで殺せるのは非常に好都合だ」

「死んでやるとはいってないがな」

「……そのうえ魔神王の剣も手に入るとは」


 どうやら魔神王の剣は真祖にとって重要なアイテムのようだ。

 なにかの術や儀式につかうのだろうか。

 具体的にはわからないが、碌でもないことなのは間違いあるまい。


「これはお前にはやらねーよ!」


 俺は魔神王の剣で真祖に斬りかかった。

 真祖は余裕の表情で躱す。そこにケーテの魔法が襲いかかる。

 それも躱した真祖に俺は魔法をさらに打ち込んだ。


 俺とケーテが連携して、魔法と剣、それに格闘術で攻撃をしかけ、それを真祖が躱していく。

 真祖からは攻撃を仕掛けてこない。楽しそうににやけながら、攻撃を躱すばかりだ。


『あいつ、舐めているのだ!』

『邪神の加護の影響で、俺たちの動きが鈍くなっているからな』


 邪神の加護の影響は小さくなった。それでも力は抑えられている。

 動くがわずかに鈍くなり、魔法の威力も発動スピードも遅くなっている。

 そうなった俺たちは、真祖にとっては与やすい相手なのだろう。


『ロック、どうするのだ?』

『あいつは確かに死んだんだ。本調子ではないはず』

『ふむ』

『ケーテはこのまま攻撃を続けてくれ。何か考える』

『わかったのである!』


 ケーテは真祖めがけて魔法攻撃と肉弾攻撃を繰り出していく。

 本調子ではないとは言え、風竜王。攻撃は苛烈だ。

 だが、真祖には余裕があるように見える。


 先日、真祖は確かに倒したはずだ。本調子のわけがないはずである。

 能力をブーストするなにかがあるに違いない。

 邪神の加護のコアを体内に取り込んだことによる強化はたいしたことが無いはずだ。

 それは先ほど倒したロードの強化具合から推測できる。


「まあいい。二度と動けないほど叩き潰してやろう」

「やってみろ!」


 俺は真祖に激しく魔法を撃ち込んでいく。そして接近して魔神王の剣を振るった。

 そのとき、真祖はわずかにだが大きく飛んだ。まるで魔法より魔神王の剣のほうを警戒しているように見えた。


「なるほどな」

「なにが、なるほどだ!」


 魔神王の剣の能力は、吸収である。吸収を警戒しているならば、俺に掴まれることも警戒するだろう。

 前回、ドレインタッチで散々吸収してやったからだ。

 そして、警戒してくれるなら、戦いやすくなる。


 俺はドレインタッチと魔神王の剣で牽制しながら、魔法を撃ち込んでいく。

 全力の魔法より威力は弱く、発動も遅い。だが、使い方次第ではなんとかなる。

 ケーテの支援もあり、俺の魔法の何発かが、真祖を捉えて、左腕と右足を吹き飛ばす。


「やるではないか」


 真祖はにやりと笑う。次の瞬間、左腕と右足は再生した。


「この程度の攻撃では我は殺せぬぞ!」

「嘘をつくな! 不死身の存在など居るはずがないのである!」


 ケーテの攻撃がますます激しくなった。だが、その全てを巧みにかわす。


『当たらないのである! どうしたらいいのだ、ロック!』

『あと少しだ。もう少し粘ればこっちの勝ちだ』

『わからないけど、わかったのだ!』

 もう少し。時間の問題なのだ。俺は粘るだけでいい。

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