第267話 再会

 アリオとジニーは気持ちが悪そうに、ひざをつく。


「……吐きそうだ」

「手足がしびれます。立っていられないです。毒ガスかな」


 苦しんではいるが、まだ症状は軽い。

 力ある者ほど邪神の加護の影響を受ける。だから力の弱いアリオとジニーはまだましなのだろう。


「……ゲルベルガさま、大丈夫か?」

「…………ゥゥゥゥ」


 ゲルベルガさまは俺の懐の中でぷるぷる震えている。

 ゲルベルガさまは神鶏。この中でもっとも邪神の加護の影響を受けているはずだ。

 もしかしたら、俺たちがロードと戦っている間、邪神の加護は発動しかけていたのかもしれない。

 だから、眠っているようにみえたゲルベルガさまは、邪神の加護の影響で具合が悪くなっていた可能性もある。


 俺は魔法で周囲を探索しながら叫ぶ。だが見つからない。

 巧妙に隠されていることに加えて、邪神の加護により俺自体も本調子ではないからだろう。


「ケーテ、邪神の加護だ! コアを探せ。コアを壊せば――」

 ケーテと二人がかりで探せば見つかるかもしれない。そう考えて俺は叫ぶ。


 邪神の加護はエリック、ゴラン、シアたちとハイロードを倒したときにも使われた。

 あのときはコアを壊して、邪神の加護を消滅させたのだ。


「ないのである!」


 ケーテの悲鳴のような声が響く。ケーテもすでに探し始めていたようだ。

 魔力探知の精度も邪神の加護のせいで、かなり落ちている。


 とはいえ、ここは屋外。隠せる場所も近くには見当たらない。見つけやすいはずだ。

 だというのに見つからない。


「……下か?」

 俺は地中に向けて魔力探知を発動する。当然意識も下へと向かう。


 まさにそのとき、

「上だ、間抜けが!」

 低い声が、俺の耳に届くのと同時に巨大な魔力弾が降り注ぐ。


 俺はとっさにアリオとジニー、そしてガルヴを守るために障壁を張る。

 ケーテは強力な魔導士ではあるが、邪神の加護の影響下なため自分の身を守るので精一杯だ。


 邪神の加護の影響下にいても、並の魔力弾ならば防げるのだが、魔力弾の威力が高すぎる。

 守りきるのは容易ではない。


 魔力弾の雨が収まった後、俺はアリオたちに尋ねる。

「無事か?」

「ロックさん、血が!」


 ジニーが悲鳴に近い声をあげるので、俺は微笑んでおく。


「かすり傷だ。気にするな」

「かすり傷? ふん。肩の肉がえぐれてるようにみえるがな?」


 上空からゆっくりと、俺の右肩の肉を拳の四分の一ほどの大きさを吹き飛ばした奴が降りてくる。


「気のせいだろう。俺のかすり傷より、お前の顔色のほうが心配だな。どうしたんだ? まるで死んでいるみたいだぞ?」


 俺は心底驚いていた。だが平然と返す。


「ロック、あいつは……あいつは、死んだはずなのである!」

 降りてきたのは、倒したはずの真祖だ。


「我が死ぬだと? トカゲは道理を知らぬようだ」


 顔色は土気色で、一般的なヴァンパイアのそれではない。

 何らかの方法を使っているのだろうが、俺にはわからなかった。


「……きつかろう? 神の加護」


 降りてくると、真祖はロードの灰に手を突っ込んだ。

 そしてメダルを取り出す。そのメダルはいつものロードのメダルとは気配が違った。


「網を張っていた。こんなに早くかかるとは思わなかったぞ」

「そうか。お前はコウモリじゃなく、蜘蛛だったのか?」


 そういいながら、俺は魔力探知を素早くメダルにかけた。

 それに気付いたのだろう。真祖はにやりと笑うと、メダルにかかった魔法を解いた。


「ロック、あれが……」


 ケーテも気付いたようだ。邪神の加護のコアをメダルに偽装していたようだ。探しても見つからないはずだ。


「手の込んだことをする」

「おかげで、貴様も気付かなかっただろう? これを埋め込むと強化されるのだ。一石二鳥であろう?」


 ロードの割に強いと思ったが、邪神に強化されたほどではなかった。その謎がやっとわかった。

 真祖はそのメダルを口に入れて飲み込む。


「神の加護を解きたいならば、我の腹を割くしかあるまいよ」


 厄介なことこの上ない。

 ただでさえ真祖は強いのだ。邪神の加護の中で戦い倒すのは非常に面倒である。


「……よほど俺が怖かったとみえる」

「怖くはない。だが、猿の割に、お前は中々やるようであるからな」

「それはどうも」

「このようなロードを王都近くの村に何人も派遣し、お前が引っかかるのを待っていたのだ」


 そういって真祖は楽しそうに笑う。


「それはよかった。俺じゃない冒険者がやってきていたら、殺されていたところだ」


 真祖を倒してから時間が経っていない。ということはこの罠も仕掛けたばかりということ。

 恐らく前から占拠していた村に、邪神の加護を埋め込んだロードを送り込んだのだ。

 だから、さほど時間をかけずに罠を整えることが出来たのだろう。


「死ぬのが自分でよかったと思っているのか? 自己犠牲精神にあふれることだ」

「まさかまさか。死ぬのはお前だ。いや、お前はもう死んでいるのかも知れないが」

「ふん」

 そんなことを真祖と話しながら、俺は皆に念話で話しかける。


『アリオ、ジニー。頼む。ガルヴを連れて逃げてくれ』

「で、でも、傷が」

 念話だと気付かないようで、ジニーは口に出して答える。


『静かに。俺にとっては本当にかすり傷だし、面倒だが倒せる相手だ』

『この前、倒した相手であるしな! 心配はいらないのである!』

 ケーテが元気にそう言ってくれたおかげで、アリオとジニーは逃げてくれる気になったようだ。

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