第261話 やって来たケーテ

 俺たちは王都の門を出て、道に沿って進んでいく。

 主要な太い街道ではなく、脇道と言っていい細い道だ。

 ほとんど人が通らないので、道のところどころに草が生えているぐらいだ。


 二十分ほど歩いたところで、先頭を歩いていたスカウトのジニーが足を止めた。

「ロックさん、お兄ちゃん……。あれって……」

「あれ? ん? こんなところに丘はなかったと思うんだが……」

 アリオが首をかしげる。アリオの視力はジニーほどではないからわからないのだろう。


「あれは……、ドラゴンだな」

「やっぱり……。ドラゴンですよね。退き返しましょう」

「まさか、ドラゴンがこんなところにいるわけないだろう?」

 そういって、アリオは笑う。

 だが、道の横、少し離れたところに巨大なドラゴンがいるのは間違いない。


「すぐに退き返しましょう。安全第一ですし、冒険者ギルドにも報告しないと」

「……うん。すまない。言いにくいんだがあれは俺の知り合いだ」


 俺がそう言うと、ジニーはなにかすごい物でも見る目でこっちを見た。

 道の横に座っていたドラゴンはケーテだった。

 俺の自宅にいたはずのケーテが、なぜかドラゴン姿で座っているのだ。


「あ、ロック。奇遇であるな!」

 ケーテは嬉しそうにそう言うと、ドタドタと駆けて来る。


「絶対奇遇じゃないだろ。待ち伏せしていただろう?」

「……そんなことないのである」

「なぜそこで嘘をつく」

「……ロックは自意識過剰なのであるぞ?」

「じゃあ、ここで何してたんだ?」

「日課の遺跡の点検をしている途中で休憩していただけなのである」

「……ふーん」

 明らかに嘘だと思う。


 ケーテは先ほどゴブリン討伐クエの依頼元の村の場所を、俺に詳しく聞いてきた。

 聞いた理由は、ここに先回りして待ち伏せするために違いない。

 だが、深く突っ込んでケーテの嘘を暴いても仕方がない。


「がうがう!」

 ガルヴが嬉しそうに、ケーテの足に飛びついている。


「おお、ガルヴ。はしゃいでおるなー」

 ケーテも機嫌よく指の背でガルヴを撫でる。

 俺は、俺の背後で怯えた様子のアリオとジニーに向けて言う。


「こいつはケーテという俺の友達のドラゴンなんだ」

「そうか、すごいな……」

「そ、そうなんですね。ドラゴンのお友達がいるとはさすがロックさんです」

 アリオとジニーはドン引きしている。


「お主たちがロックのお友達のFランク冒険者であるなー?」

「ア、アリオです。まま魔導士です。火球ファイアーボール魔法の矢マジック・アローが使えます」

「ジニーです。弓スカウトです」


 アリオとジニーは緊張気味に自己紹介する。

 だが、アリオの名前は、このまま放置したらアアリオだと誤解されそうだ。


「二人はアリオとジニー。俺の冒険者仲間なんだ」

「そうであるかー。我はケーテぞ。ロックのお友達である。今後ともよろしく頼むのである」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

「おおお願いします」


 アリオはいつもと違い敬語モードだ。

 ドラゴンが相手だから、緊張しかつ怯えているのだろう。その気持ちはよくわかる。


 ケーテは機嫌よく尻尾を揺らしながら、

「む? ロックはゴブリン退治にいくのであるな? ここであったのも何かの縁。我も手伝おう」

「そうか、じゃあ折角だから頼もうかな」

「任せるのである!」

「「えっ?」」

 ケーテは嬉しそうに尻尾を揺らし、アリオとジニーが困惑した様子でこっちを見てきた。


 ゴブリン退治にこれほど立派なドラゴンを手伝わせていいのか?

 そもそも、ゴブリンよりも、このドラゴンが怖い。

 そんなことを思っていそうだ。

 ドラゴンは恐怖の権化なので仕方がない。


「がうがうっ!」

「ガルヴ、おやつが欲しいのであるかー?」


 今となっては尻尾を振りながらケーテに飛びついているガルヴも出会い当初は怯えていた。

 アリオとジニーもすぐに慣れるだろう。


「ケーテはいいドラゴンだから安心してくれ。怯える必要はない」

「ロックさんがそうおっしゃるなら……」

「お、俺は別に最初から、別に怯えては、別にない……」

「お兄ちゃん落ち着いて」

「お、おおちついてるさ。おお、おかしなジニーだな」


 アリオは、妹のジニーより明らかに動揺している。


「アリオは面白い奴であるなー。そうだ。せっかくだ。我の背に乗せてやろう」

「いや、その必要は無い」


 俺が断ると、ケーテは首をかしげる。


「なぜであるか? 速いのである」

 ケーテの背に乗れれば、徒歩三時間の道程を五分、十分で移動できる。

 効率はとても良い。


「だがな。ケーテ。俺たちの目的地はゴブリンにおびえる村なんだ」

 ドラゴンで駆けつけたらおびえるどころではない。


「村から離れた場所でおりればいいのである」

「いや! いや! 念には念を入れた方がいい! 歩いて行こう!」

 アリオがここぞとばかりに反対する。


「そうだな。アリオの言うとおりだ」


 離れたところに降りればいいというケーテの案は正しいと思う。

 だが、アリオもジニーもケーテにまだおびえている。

 その状態で遙か上空を飛行するのは酷だ。


 ケーテの背は本来人が乗る用には出来ていない。

 バランスを取りにくいし、掴めるところも鱗の端などだ。けして掴みやすくはない。

 俺がカバーすれば落ちることはなかろうが、ひざが笑い腰が抜けるかもしれない。

 そうなれば、ゴブリン退治に支障が出るだろう。

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