第237話

 俺は改めて全員に向けて言う。


「まずは俺が入る。状況がどうあれ、すぐに連絡する予定だ」

「連絡がなければ、通話の腕輪を使えない状況ということだよな?」

「ゴランの言うとおりだ。その場合は魔法陣を破壊してくれ」

「いや、すぐに増援に向かおう」


 エリックが力強く言う。気持ちはありがたいがそれは困る。


「もし即死系トラップがあったら無駄に全滅だ」

「それも、ロックが防げないやつってことだよな。わかった」


 エリックはまだ納得していないようだが、ゴランはわかってくれたようだ。


 魔法陣から最後に敵が出てきてから十五分は経っている。

 いつ、向こうからふさがれてもおかしくはない。ゆっくりはしていられない。

 簡単な打ち合わせをした後、すぐに俺は転移魔法陣に飛び込んだ。


 視界がぐにゃぐにゃした後、まぶしい光を感じた。

 転移先は広くて明るい広間だった。壁も床もきれいな大理石で作られている。

 部屋はとても広く、竜形態のケーテでも中で動けるほどだ。

 部屋には一つの大きな扉がある。その扉もケーテでも問題なくくぐれるだろう。


 そして、アークヴァンパイアが三匹いた。魔神王の剣で素早く首をはねる。


 部屋の中にほかに敵がいないことと、トラップの有無を確認するため魔力探知を発動させる。

 それと同時に通話の腕輪に小声で話しかける。


「今、魔力探知をかけているところだが、ひとまず危険はなさそうだ」

『……』

 返事はないが、耳をすませば息遣いが聞こえる。

 エリックたちにはこちら側の状況が詳細にはわからない。

 だから、俺は声を出しているとはいえ、念のために声を発しないのだろう。


 部屋の中にトラップの存在がないことを確かめて、

「よし、探知が終わった。こっちに来てくれ」

 すぐに転移魔法陣が輝いて、こちら側に皆が来る。


『どこに敵の耳があるかわからない。一応念話で会話しよう』

『わかっている。で、ここはどこだ?』

 エリックが顔をしかめる。


『立派な大理石で作られた広い部屋。宮殿か城ってところか?』

『そうだとおもうが、我が国にこのような建物はないはずだが……』


 ここまで立派な建物であれば、エリックが知っていないとおかしい。


『ということは、他国か?』

『可能性はあるな。面倒なことだが』


 エリックは国王。他国に行くとなると、政治的な問題が発生する。


『非常時だから仕方ないだろう』

『そうであります。先に攻撃を仕掛けられたのはこっちでありますからね』

『ま、誰かに会っても正体を明かさなければ問題ねーだろ』

 そういってゴランはニコッと笑った。


『さて、ここがヴァンパイアどもの拠点だとして、ボスはいるのか? ロックわかるか?』

 エリックに尋ねられて、俺は改めて魔力探知をさらに広範囲にかける。


『そうだな……。いちいち壁に魔法的防御をかけられているから探知が難しいな』

『そこをなんとか頼むぜ』

『簡単に言ってくれるな』


 魔法的防御をかけられているということは、魔法探知を察知されるかもしれない。

 慎重さと繊細さが求められる。

 そして、この場で魔法を使えるのは俺とケーテだけ。俺がやるしかないだろう。


 俺が慎重に魔力探知を進めていると、

『まあ、普通に考えていないわけねーよな』

『そうでありますねー』

『ハイロードは転移してきて、ロックに倒されたんだろう? その上がいてもおかしくない』

『そうであるなー』

 念話の使えないセルリス以外、みんな自由に念話で会話している。

 そしてガルヴは部屋の臭いをかいで回っていた。


『ガルヴ、一応俺のそばにいなさい』

 魔力探知しながら、ガルヴに語り掛ける。ガルヴは素直に俺の真横に来てお座りした。

 そうこうしているうちに魔力探知が完了する。


 魔力探査に切り替えながら、魔力探知でわかったことを皆に報告する。


『建物自体かなりでかいな。種類まではわからないが、人型の魔力反応が多数ある』

『建物の大きさまでわかるのか?』

 エリックの問いは当然といえる。魔力探知は魔力を持つものを見つけるものだ。

 生物や魔道具の位置と数はわかっても、建物の大きさはわからない。


『壁にいちいち魔力防御をかけてくれているからな。だから分かった』

『なるほどな。その魔法防御の強度はどのくらいなんだ?』

『かなりしっかりしたものだ。だが魔法に対する耐性も物理耐性も高い』

『人型の反応って言うのは、ヴァンパイアでありますかね?』

『いま魔力探査をかけているところだが、ヴァンパイアの可能性は高いだろう』


 部屋の中を調べ始めたケーテが言う。


『建物は大きいって、どのくらい大きいのであるか?』

『エリックの王宮より大きいかもしれん』

『ほほう。それはすごいのである』


 その時、ふんふん鼻を鳴らしながら、ガルヴが鼻で俺の手をつついた。

 俺がガルヴに目をやると、ガルヴはケーテの方を見る。

 ガルヴは「ケーテが勝手に歩き回っているけど大丈夫か?」と尋ねているのだろう。


 ケーテはガルヴより強い。魔導士としての素養もある。だから、大丈夫だと思う。

 だが、群れの仲間を心配するガルヴの心がけは褒めるべきことだ。

 だから、俺はガルヴの頭をなでなでしておいた。

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