第217話

 俺はダントンの屋敷に戻る前にガルヴを撫でることにした。


「偉かったな、大活躍だ」

「がう!」


 ガルヴの尻尾がビュンビュン揺れた。


「だが、危ないから、気を付けないとだめだからな」

「ががう!」

「本当に無茶はするな」

「がう?」


 ガルヴは理解したのかしてないのか、首をかしげていた。

 あとで、もう一度諭した方がいいかもしれない。

 それから俺はゲルベルガさまに語り掛ける。


「ゲルベルガさま、大丈夫か?」

「ここぅ」


 ゲルベルガさまは、俺の懐でずっと大人しくしていた。


「ゲルベルガさまにはレイスは見えたか?」

「こぅ」


 ゲルベルガさまの返事では見えたかわからなかった。

 見えていたとしてもおかしくはない。


 その後、俺たちはダントンの屋敷に向かって歩いて戻る。

 ケーテが歩きながら、ガルヴを撫でる。


「ガルヴには、ダークレイスが見えていたようであるな」

「そうだな。狼の獣人族は気づかなかったようだし、霊獣狼の特殊能力だろう」

「ガルヴの牙と爪が通じていたのも驚きです」


 モルスの言うとおりだ。基本レイスには物理攻撃は通じない。

 俺の使う魔神王の剣やエリックの聖剣、ゴランの魔法の剣なら通じるだろう。

 水竜の王太女リーアから、俺と族長たちがもらった短剣も通じるはずだ。

 だが、普通の剣はレイスにもダークレイスにも通じない。


「シアやセルリスの剣は通じるのだろうか……」

「微妙なところであるな」


 シアの剣はヴァンパイアロード第六位階から奪った剣だ。

 そして、セルリスの剣はヴァンパイアハイロードから奪った剣である。

 耐久度も切れ味も素晴らしい剣だ。普通の剣ではない。

 だが、レイスに通じるかは別問題だ。


「改めて二人の剣に魔法をかけるべきかもしれないな」

「それがいいと思うのである」


 モルスは真剣な表情で言う。


「ですが、セルリスさんたちの剣も普通の剣ではないですよね」

「そうだろうな。ヴァンパイアロードやハイロードから奪った剣だからな」

「すでに魔法がかかっているのならば……。魔法を加えるのは難度が高いかもしれません」


 確かにそうだ。だが、ケーテとモルスの協力があれば何とかなるだろう。


「モルス。ケーテ。その際は協力を頼む」

「はい、お任せください」

「任せるのである!」

「とはいえ、シアたちにはレイスが見えないし、気づけない。それが問題だな」

「そうであるなー」


 そんなことを話していると、モルスが少し考えてから言う。


「レイス戦用の魔道具を開発するしかないかもしれませんね」

「そうだな。今回作った探知の魔道具を応用すれば何とかなるか」

「携帯可能にするために小型化しないといけないのが大変ですが……」

「結構難しいのである。近くにいるというのが判断できるだけではだめなのだからな」

「うーむ。確かにな」


 ダークレイスと戦うには位置を特定できなくてはならない。

 そのような機能は今回作った魔道具にはないのだ。


「ううむ……厄介かもしれないな」

「そうであるなー」



 そんなことを話していると、ダントンの屋敷に到着する。

 俺の空けた壁の穴が目に入る。まずはあの穴から修繕しなければなるまい。


 俺たちは壁の穴から入って、ダントンたちの待つ食堂へと移動する。

 シア、ニア、セルリス、ルッチラや子供たちも食堂に集まっていた。

 非常時ということで、子供たちを集めて守っていたのだろう。


「ロック! どうだった?」

「侵入者は退治したが……壁に穴をあけてしまった」

「壁の穴など気にするな」


 俺はルッチラにゲルベルガさまを丁寧に両手で手渡す。


「非常時ゆえ、俺と一緒にいた方が安全かと思ってな。ついてきてもらった」

「はい。わかっています。配慮ありがとうございます」

「ここ」


 ルッチラはゲルベルガさまを胸に抱いてやさしく撫でた。

 俺はダントンや族長たちに向けて言う。


「話さなければならないことがありますが……。壁の穴をふさいでからにしましょう」

「ロック。それは敵の侵入を警戒してのことか?」

「そういうことだ」


 壁をすり抜けるダークレイスが相手では壁があっても意味がない。

 とはいえ、敵はダークレイスだけではないのだ。壁は大切だ。


「とりあえず、応急処置で壁の穴をふさぐつもりだが、いいか?」

「それは、助かるが……。資材があっただろうか……」

「資材については心配するな。俺の屋敷を補修したりした時に使った資材が余っている」

「あたしも手伝うであります」「私も手伝うわね!」

「私も!」「ぼくも!」


 シアとセルリス、ニア、ルッチラが手伝いを申し出てくれた。


「魔法も使うのであろう? ならば我も手伝おう」

「私も微力ながらお手伝いさせていただきます」

「それは心強い」


 ケーテとモルスも手伝ってくれることになった。



「助かる。じゃあ、シアとセルリスは石の積み上げを頼む。ルッチラとニアはモルタルを頼む」

「「はい!」」


 俺は魔法の鞄から資材を取り出し、シアたちと手分けして壁を埋めていく。

 なんだかんだで、壁の補修は結構やっている気がする。

 ダントンも手伝おうとしてくれたが、慣れている俺たちに任せてもらった。

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