第213話

 俺たちが食堂に入ると、すぐに料理が運ばれてきた。

 料理を運んできたのはダントンだ。

 モルスと若い獣人は慌てて席を立つ。


「ダントンさん。恐縮です」

「いやいや、気にしないでください! 暇だったので」


 そう言ってダントンは笑いながらモルスに座りなおすように手でしめした。

 若い獣人はダントンに駆け寄ろうとした。


「申し訳ありません。手伝います!」

「気にするな。ずっと見張りしてたんだろう。休憩時間だ。座ってなさい」

「ですが……」

「いいから」

「はい。ありがとうございます」


 若い獣人はやっと席に戻った。

 それをみてダントンは満足げにうなずいた。


「ダントン、ありがとう」

「気にするな。ちょうど俺もおやつ代わりにパンでも食おうと思っていたところだからな」


 一応若い獣人を無理やり誘ったことはダントンに言っておくべきだろう。

 大丈夫だと思うが、後で怒られたりしたらかわいそうだ。


「俺たちが無理を言って、一緒にご飯を食べてくれとお願いしたんだ」

「そうか。よかったな、大英雄と一緒に食事をする機会なんてそうそうないぞ」

 ダントンは機嫌よく笑った。


「は、はい! 光栄です」

 若い獣人も嬉しそうに答えている。


 それから俺たちは遅めの昼食を食べた。

 ゲルベルガさまやガルヴも用意されたご飯を嬉しそうに食べていた。

 ゲルベルガさまは神鶏なので机の上に乗って食べる。

 ガルヴは俺の足元でガフガフ食べていた。


 ダントンも俺たちに付き合うためか、パンを食べる。


「シア、ニア、それにセルリスはどうしてる?」

「訓練を張り切りすぎたみたいでな。子供たちと一緒にみんなで昼寝だ」

「それはいい。寝る子は育つというからな」

「ああ、それにしても、冒険者になったばかりのニアはともかくとして、シアも急激に強くなっているな」

「確かに、初めて会った時よりも、だいぶ強くなった気がする」

「ロックもそう思うか」

「うむ。確実に強くなってるな」


 ニアは初心者冒険者だが、シアはBランク冒険者だ。

 Bは一流冒険者のランクである。成長が緩やかになるのは当然だ。

 だから、シアやセルリスが急激に成長しているのは普通ではない事態ではある。


「成長期ってやつかね」

「それもあるだろうが……。ロックのおかげがでかい。ありがとう」

「俺のおかげってわけではなかろう」

「いや、ロックのおかげだ。超一流の戦いを間近で見れたら何よりの成長になる。それにロックとともにいることで強敵とも戦えている」


 強敵と戦えば強くなる。

 自分でとどめを刺せた方が成長しやすいが、ともに戦っているだけでも強くなるのだ。

 そう考えたら、シアもセルリスもニアも、いい具合に強敵と戦えていると思う。


「それもあるかもしれないが、何よりもシアの努力の結果だろう。褒めてやってくれ」


 そういうと、ダントンは嬉しそうに笑った。

 しばらく食事をしながら雑談をしていると、思い出したようにダントンが言う。


「ロック。魔道具作りは順調か?」

「ああ、かなり順調だ」

「さすがロックだな。不足しているものなどがあったら、何でも言ってくれ」

「それも大丈夫だ。一応一つ完成した」

「なんと!」


 ダントンは驚いて目を見開く。

 確かに高等で複雑な魔道具を作るには時間がかかる。

 しかも今回は一から開発したのだ。数週間でできれば早いといえるだろう。


 昼食に出されたお肉をバクバク食べていたケーテが言う。


「さすがはロックなのである。我も非常に勉強になったのだ」

「私も勉強させていただきました」

 そういったモルスは、丁寧に手でパンをちぎりながら食べていた。


 ルッチラもうんうんとうなずく。

「ぼくもすごく勉強になりました。皆さんすごくて」

「こここ」


 机の上に乗ってご飯を食べていたゲルベルガさまがルッチラに近づく。

 そして、ルッチラの手を嘴でやさしくつついた。


「ゲルベルガさまは、ルッチラによく頑張ったと言っているぞ」

「ありがとうございます。ゲルベルガさま」


 ルッチラに撫でられると、満足したのかゲルベルガさまは俺の方に来る。

 そして、俺の肩の上に乗った。ゲルベルガさまの皿を見ると、もう空だった。


「ゲルベルガさま、もうお腹いっぱいなのか?」

「ここ」

「パンでも食べるか?」


 俺がパンをちぎって、ゲルベルガさまの口元に持っていく。

「こっこっ」


 ゲルベルガさまは俺の手からパンを食べた。そんなゲルベルガさまはとてもかわいい。

 思わず続けて、パンのかけらを食べさせてしまう。


「ここぅ」

 パンを食べながら、ゲルベルガさまは羽をバタバタさせた。

 ゲルベルガさまが楽しそうで、何よりだ。

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