第212話

 朝食後から魔道具作りを開始して、完成品一号ができたのはおやつの時間の前だった。

 予定していたよりもずっと早い。

 完成を見届けて、ケーテが大きく伸びをする。尻尾が緩やかに上下に揺れた。


「うーん! いい感じにできたのである」

「そうだな。ケーテとモルスのおかげだ」


 俺がそういうと、モルスが丁寧に頭を下げる。

 モルスの尻尾も緩やかに上下に揺れている。


「ありがとうございます。勉強させていただきました」

「ケーテも役に立ててよかったのである」

「がうがう!」


 それまで部屋の隅で眠っていたガルヴが起きてきて尻尾を振る。

 ガルヴなりに邪魔をしないように気を遣っていたのだろう。


「ガルヴも大人しくしていて偉かったぞ」

「がうーっがう」


 ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 それなりに広い部屋だが、ガルヴが飛び跳ねるには狭すぎる。


「あとで散歩に連れて行ってやるから、落ち着きなさい」

「がーう!」


 俺はガルヴを落ち着かせて背中を撫でながら、ルッチラにも目を向ける。

 ルッチラは助手としてテキパキ手伝ってくれていた。


「ルッチラもありがとうな」

「いえ、ぼくはあまりお役に立てなくて……」

「そんなことはない。助かった」

「ココッ!」


 ゲルベルガさまはルッチラの肩にぴょんと飛び乗り、羽で頭をふぁさふぁさする。

 よくやったと褒めているようだ。

 ケーテがルッチラの頭を撫でながら言う。


「ルッチラも錬金術に詳しいのであるなー。大したものなのである」

「いえ、ぼくなんて、まだまだです!」

「いや、確かにルッチラの知識は役に立った」


 ルッチラは最近はフィリーの助手をしている。だから錬金術も勉強しているのだ。

 魔法と錬金術を両方使えるようになるのかもしれない。

 戦闘には魔法の方が役に立つ。だが、金になるのは錬金術だ。

 ルッチラは将来、族長になって一族を復興させるのだ。

 それには当然金がかかる。錬金術も学んでおいて損はないだろう。


 俺はルッチラに魔道具を手渡した。

 魔道具は金属でできていて、ゲルベルガさまより一回り小さいぐらいの大きさだ。


「ルッチラ。試しに起動してくれ」

「わかりました!」


 ――ブォン

 起動と同時に、一瞬だけ低い音が鳴る。

 これで、魔道具を中心として、人の身長の五倍ほどを半径とする球が影響下に入る。

 この中に昏き者どもが入ると、鈴のような音が鳴るようになっているのだ。


「魅了された者だけ察知するより、昏き者全部まとめて引っかかるようにした方が簡単なのであるなー」

「はい。意外でした。勉強になります」


 最初は魅了された者を察知する魔道具にしようとした。

 だが、選別するのが想定よりもずっと大変だった。

 それゆえ、まとめて察知することにしたのだ。


「まあ、魅了された者も察知できるから問題ないのである」

「そうだな。眷属やレッサーヴァンパイアも、中に入れていいわけがないからな」

「そうですね」


 そんなことを話していると、ケーテのお腹がぐぅっと鳴った。


「ついつい、魔道具作りに熱中してしまったのである。お腹がすいたのだ」

「そうだな。お願いして、ご飯を食べさせてもらおうか」

「うむ!」「がう!」「ここっ」


 ケーテ、ガルヴ、ゲルベルガさまが、嬉しそうに返事をする。

 そして、俺たちは魔道具製作用の部屋を出た。

 すると、部屋の外で待っていた若い狼の獣人が急いでかけてくる。


「ロックさん。みなさん。作業は終わられましたか?」

「はい、おかげさまで」

「うむ、疲れたのだ」

「それでは、すぐにお食事をご用意いたしますので、食堂でお待ちください。それとも持ってきた方がよいでしょうか?」

「いや、食堂でいただきます。ありがとう」


 邪魔をしないよう食事ができても知らせずに、外で待っていてくれたのだ。

 魔導士はどうしても熱中すると寝食を忘れる傾向がある。


「みんなと一緒に食事をとれなくてすまない。手間をかけさせた」

「いえ、お気になさらないでください!」


 若い獣人は笑顔で返事をしてくれる。

 ケーテがそんな若い獣人に向かって言う。


「おぬしは、ちゃんとご飯食べたか?」

「まだですが、気になさらないでください。私たちは数日食べなくても大丈夫なので!」

「むむ。それは迷惑をかけたのである。一緒に食べよう」

「い、いえ! そんな! 勿体ないことでございます」


 恐縮する若い獣人にモルスが言う。


「気にしないで大丈夫ですよ。せっかくですから」

「ケーテもモルスも無理に誘ったらだめだ。逆に気を遣うかもしれないだろ」

「そうであったか……」「すみません」


 慌てた様子で若い獣人が言う。


「そんな、そんなことはないです。ではお言葉に甘えて……」

「それがよいのである!」


 そして、俺たちは食堂に到着した。

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