第207話

 俺はゲルベルガさまにも声をかける。


「一緒に行くか?」

「こここ」

 ゲルベルガさまは鳴くと、ルッチラの肩から俺の肩に飛び移る。


「あたしたちも同行するであります!」

「わ、わたしも!」


 シア、セルリス、ニア、それに子供たちもついて来たいらしい。


「稽古の後だというのに、体力あるな」

「はい!」


 嬉しそうに子供たちが返事をした。やる気は買うが、休憩も大切だ。

 俺はシアやセルリス、子供たちに休憩しておくように指示をする。


 そして、俺はガルヴとゲルベルガさまと散歩に出かけた。


「ガルヴ、思いっきり走っていいぞ」

「がう!」


 ガルヴはものすごい速さで走り出す。

 ガルヴの走る速度もどんどん速くなっている気がする。

 成長期なのだろう。


 子供たちを置いてきたのは、ガルヴを思いっきり走らせるためでもあるのだ。

 子供たちも足は速い方だが、ガルヴの全力疾走にはついて来られない。


「さすがに速いな」

 俺が並走しながらつぶやくと、ガルヴが速度を緩めて、こっちを見た。


「がう?」

「もっと速くていいぞ。全力を出せ」

「がう!」

 大喜びでガルヴは走る。

 俺も走ってガルヴについていった。


「コココココッ!」

 ゲルベルガさまは向かい風に逆らうように、必死に俺の肩にしがみついていた。

 ゲルベルガさまにとっても、いい運動になりそうだ。


 結構走った後、ガルヴは歩き出す。


「もういいのか?」

「はっはっはっはっはっ」


 ガルヴは舌を出して荒く息をする。

 全力で走って疲れたのだろう。


「まあ、水を飲め」

「がふがふがふ」「こっここここ」


 魔法の鞄から、大き目の器と水を出してガルヴに与える。

 もの凄い勢いでガルヴは水を飲み始めた。ゲルベルガさまも一緒に水を飲む。

 ガルヴはゲルベルガさまに少し遠慮して器の端で水を飲んでいた。

 飲み終わったゲルベルガさまを俺は抱きかかえた。


「ゲルベルガさまは疲れたら、俺の懐に入っていいぞ」

「こっこ」


 もぞもぞとゲルベルガさまは俺の服の中に入って行った。

 そして、顔だけ出した。これでゲルベルガさまも疲れまい。

 俺はゲルベルガさまの頭を撫でた。とさかがぷにぷにして気持ちがいい。


 それから休憩を終えたガルヴが歩き出す。巡回モードに入ったのだろう。

 ときどき用を足しながら進んでいく。縄張りを主張しているのだ。


「ガルヴは足を上げないんだな」

「がう?」


 ガルヴがまだ子狼だから、足を上げないのかもしれない。

 もしくは群れのボスである俺に遠慮しているのかもしれない。


「ガルヴ、別に俺に遠慮しなくていいんだぞ」

「がうー?」

「俺は縄張りを主張するつもりはないからな」


 足を上げることに怒ったり、ガルヴに張り合って上から用を足したり俺はしない。

 そう伝えたつもりだが、ガルヴはきょとんとしていた。

 走ったり歩いたりしながら、散歩を続ける。

 俺もたまに水を与えたり、おやつを与えたりもする。


 そして、一時間ほどかけて散歩を終えると、ダントンの屋敷へと戻った。

 屋敷に戻って改めてガルヴとゲルベルガさまに水を飲ませているとルッチラが来た。

 嬉しそうに、小走りでかけてくる。


「おかえりなさい!」

「おお、ルッチラ。ただいま」「がうがう」


 水を飲んでいたガルヴが顔を上げて、ルッチラの匂いを嗅ぐ。

 ルッチラは笑顔でガルヴを左手で撫でる。

 そして、しゃがんでゲルベルガさまを右手で優しく撫でた。


「ゲルベルガさまも、おかえりなさいませ」

「ココゥ」

 水を飲んでいたゲルベルガさまは、顔をあげると、ルッチラの肩へと飛びあがる。


「水はもういいんですか?」

「ここ」


 ゲルベルガさまはルッチラの髪の中に顔を突っ込んだ。

 くちばしで耳を甘がみしたりしている。甘えているのだろう。


「楽しかったみたいですね」

「こぅこ!」

「ロックさん。ありがとうございます」

「ガルヴの散歩のついでだからな。それに俺も楽しかった」

「こっこ」


 ゲルベルガさまもお礼を言うように、俺を向いて羽を動かし数度頭を下げた。

 俺はそんなゲルベルガさまを撫でる。


「ゲルベルガさま、散歩に行きたくなったら、いつでもついて来ていいからな」

「ここ」


 ゲルベルガさまを微笑んで見ていたら、ルッチラが思い出したように言う。


「あ、そうでした。ケーテさんが戻ってますよ」

「おお、さすがケーテだ。早いな」

「なんかお客さんも連れてました」


 ケーテは水竜の集落まで行ってくれた。

 俺に水竜の結界術を教えてくれないか聞いてきてくれたのだ。

 だからお客さんは、恐らく水竜の誰かだろう。


「ふむ。お客さんか」

「はい、会ったことのない人でした」


 ルッチラがそういうのならば、お客さんはリーアやモーリスではないのだろう。

 そして、屋敷の中に入っている時点で、人型になっているということだ。

 つまり王族か王族に近しい人物だ。

 ダントンの屋敷は大きいが、水竜が竜の姿のまま、入れるほど大きくはない。


「誰だろうか。水竜なら俺の知っている人のはずだが……」


 少し前まで、水竜の集落には毎日通っていた。

 全員と顔見知りなのだ。


 俺はルッチラ、ガルヴ、ゲルベルガさまと一緒に屋敷に入る。

 ケーテとお客さんが待っているという応接室へと移動した。

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