第206話

 俺が作り出したヴァンパイアロードの幻は第六位階のものだ。

 王宮に手の者を沢山忍び込ませていたロードだ。

 俺が一人で討滅したので、セルリスもシアもあったことがない。

 だから最適だと思ったのだ。


「このっ!」

「こいつ素早いであります!」


 シアとセルリスは見事に戦っていた。

 ちなみにシアが今使っている剣は、この第六位階からの戦利品だ。


 俺の横にダントンが来た。


「我が娘ながら、いい動きだな」

「ああ、見事なものだ。俺が初めてシアにあったときに比べても格段に成長している」

「本当か?」

「うむ。見ていればわかると思うが、今出している幻の精度はかなり高い」

「それはわかる」


 ダントンはうなずく。

 ダントンは経験豊富なヴァンパイア狩りの戦士。ロードの強さは熟知している。

 族長たちもロードの精度に気付いているのだろう。


 見事に戦うシアとセルリスを見て、「ほう」と感心するような声を出している。


「見事なものだ」

 俺は改めてつぶやく。

 初めて会った時、シアはゴブリンロードに苦戦していた。

 それが二人がかりとはいえ、ヴァンパイアロードと互角に戦っているのだ。


 セルリスも初めて会った時に比べて格段に動きがよくなっている。

 若者の成長はかなり早い。


 そして、俺は近くにいる子供たちを見た。

 ものすごく真剣な表情で戦いを見つめていた。見ているだけでも勉強になるだろう。


 ダントンが幻とシアたちの戦いを見守りながら言う。


「俺としては、幻の精度の高さが恐ろしい」

「そうか?」

「再現度が高すぎる」

「今出している幻の元となったヴァンパイアロードとは直接戦ってとどめを刺したからな」


 ダントンはゆるゆると首を振る。


「俺たちもソロでは難しくとも、力を合わせればロードは狩れる」

「ふむ?」

「だが、ここまで分析できない。ロックはロードを完全に見透かしている」

「まあ、戦いながら観察しているからな。観察は結構得意な方だ」


 そんなことを話しながらも、俺は幻を調節していく。

 シアとセルリスが幻に与えたダメージを計算するのだ。

 そして、仮に本物だったらどう動きが変化するかを推定するのだ。

 その計算はかなり大変だ。


「……相当な力量差がなければここまで見透かすことはできないぞ」

「そうか。そうかもしれない」

「ヴァンパイア狩りの専門家の俺たちより、ヴァンパイアに詳しいかも知れないな」

「それはないだろう」

「いや、ヴァンパイアの生態や風習ならともかく、戦闘に関しては完全にロックが上だろう」


 ダントンに俺の幻を絶賛されてしまった。

 自信のある幻なので、褒めてもらえてとても嬉しい。


「今度、俺にも稽古をつけてくれ」

「いいぞ。空き時間にいつでも言ってくれ」

「本当にいいのか?」

「ああ」


 そんな会話を聞いていた他の族長もやってくる。


「ロックさん、是非我らにも」

「はい。時間さえあれば、構いませんよ」

「ありがたい!」


 族長たちは凄く嬉しそうだった。

 俺と族長たちが会話している間、シアとセルリスは稽古を続けている。

 俺も語りながら、計算し幻の微調整を続けた。


「せい!」

「りゃああ」

 激しい戦いの後、二人の連携が見事に決まり、ロードの幻の首が飛ぶ。

 落ちた首にシアが素早くとどめを刺した。


 その瞬間、一斉に拍手の音が鳴り響く。


「お見事!」

「おねえちゃんすごい!」


 族長と子供たちから称賛されて、シアとセルリスは照れていた。

 そして二人とも俺のもとへと走ってくる。


「「稽古、ありがとうございます」」

 二人が声をあわせて、お礼を言う。


「思っていたより俺もいい訓練になった。ありがとう」


 シアたちの動きは俺が思っていたより素早かった。

 それに対応するために、俺の魔力操作もかなり鍛えられる気がする。


「あの、ロックさん、私たちの動きはどうでありましたか?」

「とても良かったぞ」


 セルリスがゆっくりと首をふる。


「まだまだ、力量が不足しているのは自分たちもわかっているわ」

「そうであります」

「まあ、誰と比べるかで評価は変わるからな」


 以前のシアたちに比べたら、相当強くなっている。

 だが、エリックやゴランたちと比べたら不足しているのは間違いない。

 シアもセルリスも目標が高いのだろう。向上心があるのは良いことだ。


 だから、俺も本気で改善すべき点を教えていった。

 シアもセルリスも真剣に俺の話を聞いていた。

 ガルヴとゲルベルガさまも聞いていた。


 シアとセルリスへの指導が終わった後、ニア、ルッチラと子供たちの指導に移る。

 もっとこうしたほうがいいというのを教えると、ニアたちも真面目に聞いていた。


 稽古が終わると、ガルヴが俺の周りをぐるぐる回りはじめた。

 ものすごい勢いで尻尾を振っている。


「散歩したいのか?」

「がう! がう!」


 どうやらガルヴは散歩をしたいらしい。ガルヴは大体いつも午前に散歩している。

 だが、今日は稽古が始まったから待っていたのだろう。


「それじゃあ、散歩に行くか」

「がーう!」


 嬉しそうにガルヴはぴょんぴょん跳びはねた。

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