第200話

 年長の族長が慌てて言う。


「そんな! ロックさんにそのような雑事をさせるわけには……」

「いえいえ、気にしないでください。このようなことは知っているものが少ない方がいいですから」

「確かに、それはそうですが……」


 真剣な表情でダントンが言う。


「本当にいいのか?」

「構わない。いまは俺のできる仕事が少ないからちょうどいい」

「それなら、頼む」

「任せて欲しい」


 俺が引き受けると決まったので、早速段取りを相談することにする。

 そのためには必要なことを聞かなければならない。


「出入りの行商人はどのくらいいるのか教えて欲しい」

「そうだな。狼の獣人族全体では五十ぐらいだろうか」

「結構いるんだな」

「部族数も十二あるからな」


 この場所に直接売りに来る行商人の組織だけで五十あるらしい。

 定期的に来るとのことだ。


 狼の獣人族はヴァンパイア狩りで生計を立てている。

 農業や牧畜などはしていないので、食料はほぼすべて商人から購入しているのだ。


「内通者の情報は他の族長も知っているのか?」

「もちろんだ」

「では、業者がいつどこに来るのか俺に教えてくれ。事前にその場に向かっておこう」

「ありがたい。だがなるべくなら、業者には気付かれないように調べて欲しいのだが……」


 それは少し大変だ。

 魅了をかけられたものは判別するには見るだけでは駄目なのだ。

 魔力探知マジック・サーチではなく、魔力探査マジック・エクスプロレーションをかける必要がある。

 手を触れずに、しかも気づかれずに魔力探査を行うことは不可能ではないが難しい。


「手を触れるとなると、気づかれる可能性も高いからな……」

「そうか……」

「ケーテに協力を頼んでもいいだろうか?」

「風竜王に?」

「ああ。機密を明かすことになるが……かまわないかな?」


 ダントンと年長の族長は互いに顔を見合わせる。

 そして、年長の族長が口を開いた。


「機密はまったく構わないのですが、風竜王陛下のお手を煩わせるなど畏れ多いことです」

「機密を明かすことは問題ないんですね」

「それは、もちろんです」

「それなら問題ありません」


 ダントンが少し心配そうに言う。


「本当にいいのだろうか?」

「気にするな。ケーテが迷惑なら断るだろう。ちょっとケーテを呼んでこよう」


 俺は部屋を出て、ケーテを探す。


「がっはっは! ほれほれー」

「きゃっきゃ」「わーい」


 ケーテと子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。

 声のする方に行くとケーテがシア、ニア、セルリス、ルッチラたちと一緒にいた。

 ケーテは子供たちに囲まれている。

 ケーテの立派で太い尻尾に子供たちがぶら下がって遊んでいた。

 ケーテもご機嫌に尻尾を上下左右に動かしていた。


 すごく楽しそうなので、邪魔するのは少し気が引ける。


「ケーテ、少しいいか?」

「む? わかったのである。子供たちよ、また後で遊ぼうではないか」

「うん、ありがとー」「またね!」


 ケーテは子供たちの頭をわしわし撫でている。

 子供たちと遊べて嬉しそうだ。

 ケーテから離れた子供たちをセルリスが呼ぶ。


「じゃあ、おねえちゃんと遊びましょうねー」

「うん!」「きゃっきゃ」


 そして子供たちと遊び始める。セルリスは子供が好きなのだろう。


「で、ロック、どうしたのであるか?」

「少しケーテに頼みたいことがあってな」

「ふむ?」

「こっちに来てくれ」


 そういって、ダントン達の待つ部屋へと連れていく。


「で、頼みたいことってなんであるか?」

「うん。それはだな……」


 狼の獣人族から情報が漏れているらしいという話をケーテにする。

 真剣な表情でケーテは聞いていた。


「それは大変なことであるなー」

「で、ケーテに頼みたいことというのはだな」

「他の部族の住処に飛んで移動するのであるな?」

「それもあるのだが……」

「ほかにもあるのであるか?」

「魔道具作りを手伝ってもらいたい」


 風竜族は、魔法文化的に錬金術に秀でている。

 そして錬金術は魔道具作りとも密接な関係があるのだ。


「それは構わぬのだが……。どんな魔道具であるか?」

「魔法探査を行うゲートを作りたいんだ」


 門の下を通れば自動的に魔法探査を行う魔道具だ。

 魅了にかけられているものがいれば反応するようにしたい。


「それは難しい気がするのである」

「水竜たちにも頼もうと思う」

「それなら出来るかもしれないのである」


 水竜は魔法文化的に結界術に秀でている。

 昏き者どもを弾く結界。それをもとに改造すれば魔法探査のゲートも作れそうだ。

 風竜の錬金術と、水竜の結界術。それに俺の魔法を加わえれば作れるだろう。


「リーアは集落を離れられないが、俺が出向いて教えを請おうと思ってな」

「うむ。それなら安心である。我も父ちゃんに言って協力してもらうことにするのだ」

「悪いな。とても助かる」

「フィリーにも協力してもらえたら、助かるのであるが……」

「フィリーは今めちゃくちゃ忙しいからな」

「それもそうであるな」


 フィリーは枢密院から依頼された調査を全力で進めている最中だ。

 あまり無理はさせられない。


「じゃあ、早速我がリーアのところに行ってくるのである! アポイントを取らないとだからな!」

「頼む」

「任せるのである!」


 ケーテはどうやらすごく張り切っていた。

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