第184話

 セルリスはあんぐりと口を開けていた。


「ど、どういうこと?」

「質量攻撃は、魔法防御を高めても防げない。物理的な攻撃だからな」


 隕石はただの灼熱している岩。それが落ちれば物理ダメージを与えられる。

 魔法防御に特化した結界ならば簡単に壊せるのだ。


「そ、それはそうかもしれないけど」

「ラック。セルリスはな、巨大な隕石が同時に十二も召喚されたことに理解が追いついていねーんだよ」


 ゴランは楽しそうに笑った。

 セルリスは剣の技量は高いが冒険者としては初心者だ。魔法も見慣れていないのだろう。


「そうか。そのうち慣れる」

「ほ、ほんとに?」


 セルリスは信じられないといった表情をしていた。


「もう少し突入を楽にしようか」

「ラック。頼んだ」


 俺はエリックに頷き返すと、未だ土煙が立ち込める中に熱爆裂エクスプロージョンを叩き込む。

 俺の全力を込めた熱爆裂だ。

 高濃度の魔力を一瞬で熱に変換し、急激に膨張させるのだ。


 ――ドドオオオオオオオオオオオオ


 発生した衝撃波は隕石によって発生したものより強力だ。

 隕石の衝撃でなぎ倒されていた木々が一瞬で燃え尽きる。

 燃えることから免れた遠い位置にあった木々も衝撃波でなぎ倒されていく。

 上空に浮かぶドルゴの体が少し揺れた。


「今です。突っ込みましょう。アークヴァンパイアぐらいまでは全部退治できたと思います」

「わ、わかりました」


 すぐに、ゴランは娘のセルリスを小脇に抱えた。俺もガルヴとシアを抱える。

 ドルゴの急降下だ。油断すれば振り落とされる。


「ひぃい」

 シアが小さな声で叫ぶのが聞こえた。さすがのシアも、尻尾が股に挟まっている。

「きゃぁぁぁぁうぅぅぅぅぅ」

 ガルヴは鳴き声を上げながら、尻尾を股に挟んで、プルプルしていた。


 地面が近づくにつれ、隕石召喚と熱爆裂の戦果が見えてきた。

 

 魔装機械の残骸が見える。七十機ぐらいだろうか。

 昏竜イビルドラゴンの死骸も見えた。

 ヴァンパイアの死骸は見えない。燃え尽きたのだと思いたいが油断はできない。

 そして、地下への入り口のようなものが見えた。


 大きな声でエリックが言う。

「あの中に入るぞ。油断はするな」

「「おう!」」


 ドルゴは地面直前で急停止する。俺たちは即座にドルゴの背から飛び降りた。

 周囲に俺たち以外に動くものはない。


 そのまま地下への入り口に向かう。鍵がかかっていたが魔法で開ける。

 同時に中に向けて火球ファイアーボールの魔法を連続で撃ち込む。

 三発目を撃ち込んだとき、中からヴァンパイアが飛びだしてきた。

 炎に包まれているが、その肉体は燃えてはいない。


 即座にエリックが斬りかかる。ヴァンパイアはふわりと避けた。

 避けたところにゴランの一撃。それもかわす。

 ほぼ同時にヴァンパイアが火球を炸裂させた。発動が速く、威力が高い。


 咄嗟に俺は魔法障壁を張って、全員を守りながら叫ぶ。


「ただのハイロードじゃない! 気をつけろ」

「わかってる!」


 ゴランとエリックがヴァンパイアと剣で斬り結ぶ

 驚いたことに、この二人相手にヴァンパイアは互角に渡り合っている。


 俺が魔法で援護しようとしたとき、周囲からわらわらとヴァンパイアがわきだした。

 隠された地下への入り口が幾つもあったようだ。総数は百体近い。


「あれだけ薙ぎ払って、まだこれだけいるのか」

「魔装機械と昏竜がいないだけましであります!」

「ゴラン、エリック、そいつは任せる! セルリス、シア、ガルヴ、雑魚は俺たちでつぶすぞ」

「わかったであります!」「わかったわ!」「がう!」


 魔神王の剣を抜いて、一番近いヴァンパイアを斬り飛ばす。

 シアとセルリスもヴァンパイアを倒しはじめた。

 レッサーはいない。アークとロードの混成部隊だ。


 俺の役目はエリック、ゴランを謎のヴァンパイアとの戦いに集中させることだ。

 加えてセルリスたちの援護も重要だ。


「ガルヴ、俺から離れるなよ」

「ガウ!」


 全体を見渡しながら、魔法を飛ばす。隙を見て剣で斬りかかる。

 セルリスもシアも素晴らしい動きだ。ロード相手に見事に戦っている。

 エリック、ゴランも戦いを優勢に進めている。

 騒ぎに気付いたのか、昏竜が飛来した。それはドルゴが抑えてくれた。


 俺は手を緩めない。魔法をばらまき、ヴァンパイアどもを討伐していく。

 するとヴァンパイアと斬り結ぶゴランの真後ろにロードが出現した。


「そこぉ!」

 ロードが出現すると同時に、セルリスの剣がきらめく。

 霧になって移動したロードの首が宙に飛んだ。霧の動きを読んでいたようだ。

 地面に墜ちる寸前にシアの剣が、ロードの頭を両断する。


「助かった!」

「気にしないで!」

 ゴランの声は少し明るかった。セルリスもシアも成長が著しい。


 全員で力を合わせて、九割がたを討伐したとき、 

『ロック、敵襲である! 救援が必要なのである!!』

 通話の腕輪からケーテの声がした。ゆとりのなさそうな声だ。


「すぐに向かう。エリック!」

「ああ、こちらは任せろ!」

「俺もこいつを片付けたら、すぐに追いかける」


 エリックは謎のヴァンパイアから距離をとる。追撃されかけたがゴランが防ぐ。

 そのゴランにロードが襲い掛かるが、それはセルリスが斬り倒す。


 その隙に俺はエリックの盾に手を触れ、魔力を流し転移魔法陣を起動した。

 そして素早く飛び込む。ガルヴもついてきた。


 水竜の集落に到着し、魔法陣を設置してある小屋から飛び出る。

 水竜の集落、その上空に浮かぶ昏竜が目に入った。

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