第179話

 シア、セルリス、ニアが狼の獣人族とともに出かけて一週間が経った。


 俺はその日も水竜の集落に泊まっていた。

 ここのところ毎日のように、レッサーヴァンパイアの襲撃がある。

 俺はどんな少数の襲撃でも、必ず現場に向かうことにしていた。

 当然、俺が到着したころにはレッサーヴァンパイアは狩られていることの方が多い。


 俺がガルヴと一緒に駆けつけると、水竜が申し訳なさそうに言う。


「ラックさん、ありがとうございます。ですが……」

「ああ、もう無事狩られたのですね。なによりです」

「無駄足を踏ませてしまって申し訳ありません」

「いえいえ。万一のために駆けつけてるだけなので、何事も無ければそれが一番ですよ」


 水竜は竜の中でも上位種だ。

 そこらのワイバーンやレッサードラゴンなどとはわけが違う。

 レッサーヴァンパイアごとき相手にはならない。


「それにしても……。なぜ毎日襲撃を仕掛けてくるのでしょう。ラックさんのおっしゃられていた結界のほころびを探すという理由ならば……」

「確かにもっと効率的な手法はあるかもですね」

「はい」

「ヴァンパイアの上位種は、レッサーを戦力として計算していないので、使い捨てにしているかもしれませんね」

「そんなものでしょうか? もしそうなら、楽でいいのですが」

「または、慣れを狙っているのかもしれません」

「慣れですか?」

「集落への敵の侵入を報せる警報が鳴ったとき、どうせレッサーだろうと対応がおざなりになるときを待っているのかもしれません」


 そして、俺は懸念を伝える。

 たとえレッサーでも魔装機械を持ち込むことはできる。

 そうなれば、大きな被害が出かねない。


「なるほど。肝に銘じます」

「緊張感を維持することは大変でしょうが……お願いいたします。」

「はい!」


 そして、俺はガルヴと一緒に水竜の宮殿に戻ってひと眠りした。

 朝、起床して、リーアと一緒に軽く朝ごはんを食べる。


 その後、屋敷に帰還する前に、俺は結界を点検する。

 ガルヴを連れて水竜の集落を点検しながらぐるりと一周するのだ。

 ガルヴの散歩も兼ねている。


 リーアと水竜の若者たち数体がついて来てくれる。

 人の姿状態のリーアも足が速い。走るガルヴにしっかりついてくる。


「いつものように、リーアも水竜の皆さんも、気づいたことがあったら教えてください」

「ラック、わかったの」

「お任せください!」

「ガルヴも気付いたことがあったら教えてくれ」

「がう」


 ガルヴは嗅覚が鋭い。

 もし潜んでいるレッサーヴァンパイアなどがいたら気づいてくれるだろう。



 水竜の集落の結界に異常がないことを確認すると、俺は王都に戻る。

 いつものようにミルカが出迎えてくれた。


「ロックさん、おかえりだ! 今日も寝るのかい?」

「ああ、少し寝るかな」

「昼頃に起こせばいいかい?」

「頼む。ミルカも勉強頑張れよ」

「うん!」


 ミルカとルッチラは、午前中はフィリーの授業だ。

 冒険に出ているので、授業を受けられないニアが少し心配だが仕方がない。


「がうー」

「眠いのか。わかった」


 ガルヴが急かすように、俺の手のひらを鼻先で突っついてきた。

 俺はガルヴと一緒に、部屋に戻って少し眠った。


 真夜中の襲撃のせいで、睡眠不足になりがちだ。

 いざというときに、睡眠不足で力を発揮できないと困る。

 ガルヴも子狼なので、睡眠は大切なのだ。



「ロックさん、お昼だよ」

 ミルカが起こしに来てくれた。

 あっという間だった。少ししか眠っていない気がする。


「ミルカありがとう」

「がーーーぅ」

 ガルヴがベッドの上で、思いっきり伸びをしていた。


「セルリスさんたちが、戻ってきたよー」

「おお、そうか、急いでいこう」

「がう」


 俺は急いで居間に向かう。


「ロックさん。ただいま」

「ただいまであります」

「ただいま帰りました」


 セルリスとシアとニア、全員が無事に帰ってきている。

 心底ほっとした。


「無事でよかった。魔道具はどうだった?」

「うん。おかげさまですごく快調だったわ! ロードの魅了にも抵抗できたもの」

「それは素晴らしい」


 フィリーも嬉しそうにうなずいた。

「まあ、フィリーとロックさんが作ったのだ。そのぐらいは当然だ」


 俺はセルリスたちの様子をじっくり観察する。

 着ていた鎧は壊れていない。だが、相当に傷ついている。

 かなり激しい戦いをこなしてきたのだろう。

 どんな冒険をしてきたのか聞いてみたいところだ。


 三人とも雰囲気が変わっているが、一番変わったのはニアだ。


「ニア、大きくなったか?」

「そんなには変わっていないと思います」

「そうか。雰囲気が変わったな。激戦を潜り抜けたんだろう」


 俺がそういうと、ニアは照れる。

 一方、セルリスは真剣な表情をしていた。


「で、私たちが戻ってきたのには理由があるの」

 セルリスは堂々としている。やや胸を張っている。


「もしかして、敵の本拠地を見つけたのか?」

「そうなの! 狼の獣人族の方々は本当に凄いの」

「まだ、確定ではないでありますよ」

 確定情報でなくとも、情報はとてもありがたい。


「聞かせてくれ」

 セルリスはうなずくと語りはじめた。

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