第90話

「最低でもここがどこかは調べないとな……」


 丁寧に洞窟を探索していく。

 俺は転移魔法陣を通って、この洞窟に入った。

 だが普通に考えて、物理的な入り口があるはずだ。


 しばらく探索して、入り口を見つける。

 石で作られた立派な扉が取り付けられていた。

 やはり、魔法で施錠されている。恐らく合言葉で開くタイプだ。

 合言葉を知らない俺は解錠アンロックの魔法で無理やり開けるしかない。


「ふむ」

 ――かちり


 なかなか高度な施錠ロックの魔法だった。

 だが、俺にとってはあまり難しくない。三秒で開いた。


 洞窟の外に出て、場所を確認する。周囲の風景、地形などから判断するのだ。


「地形から考えると、……あの山とあの山が東に見えるということは……」


 先日討伐したヴァンパイアハイロードの本拠地からさらに北に一日行ったあたりだ。

 ハイロードの本拠地が王都から北に一日の場所だった。つまり、そこからさらに一日。

 王都から北に二日といったところだろう。

 周囲に街も村もない。街道からも離れている。片田舎だ。


「なるほど」


 人の生活の場から離れすぎている。滅多なことがない限り見つからないだろう。

 昏き者どもが、好きに暴れることができる。真の本拠地だったのかもしれない。


 俺は洞窟の扉を閉める。魔法の鍵を組み替えて、新しく施錠の魔法をかける。

 鍵は合言葉にしておいた。これで昏き者どもは入れなくなった。

 そして、特別に選抜した、合言葉を知る冒険者等だけが出入りできるようになる。


 その後、俺は転移魔法陣を通過して、マスタフォン侯爵家へと戻った。

 改めて侯爵家の屋敷を探索する。


 至るところに灰が転がっていた。眷属だったものの残骸だろう。

 気絶しているものもいた。魅了をかけられていたものだろう。

 無事な使用人は一人もいなかった。

 マスタフォン侯爵家全体が、昏き者どもに支配されていたということだ。


(侯爵夫妻が、無事ならばいいのだが)


 屋敷は広い。探索には時間がかかりそうだ。

 俺は一度、屋敷から出る。門番は気絶していた。門番は眷属にはできない。

 外に顔を見せている門番が眷属ならば、シアたち狼の獣人にすぐばれるからだ。

 門番を屋敷の中に入れてから、俺は自分の家へと戻った。


 シアたちに出迎えられる。

「どうだったでありますか!」

「大体敵は倒した。だが、緊急事態だ。セルリス。ゴランをマスタフォン侯爵家の屋敷に大至急呼んでくれ」

「了解したわ」

「ヴァンパイアどもの本拠地をつぶしたと言えば、すぐ来るだろ」

「任せておいて!」


 セルリスはすぐに走って行った。

 シアが驚いたような顔をする。


「この短い時間で、つぶしたでありますか?」

「ああ。俺はこれからすぐに侯爵家にもどって、探索する。シアも手伝ってくれ」

「了解であります!」

「ミルカとルッチラはゲルベルガさまと留守番しておいてくれ」

「了解です」

「ロックさん、気を付けてくれよな!」

「コッコ」

「がっがう」


 俺とシアが屋敷を出ようとしたら、ガルヴが尻尾を振りつつ追ってきた。


「じゃあ、ガルヴもついてこい」

「がうがう!」


 ガルヴは嬉しそうだ。遊びに行くと思っていそうである。

 まだ、子狼なので仕方がない。


 俺はシアとガルヴと、ともに侯爵家に入ると、まずフィリーの部屋に向かった。

 フィリーは俺を見て笑顔になる。


「よくぞ無事に戻った! 心配しておったのだぞ」

「ああ、待たせた。ちなみに、シアとガルヴだ。俺の仲間だ」

「よろしく頼むぞ!」


 フィリーはシアと握手をする。そしてガルヴの前足もつかんで握手した。


「フィリー・マスタフォン。侯爵家の五女で、天才錬金術士だ。でこっちがタマ」

「ゎぅ」


 タマは尻尾を振っている。シアたちを歓迎しているのだろう。

 簡単に挨拶を済ませると、俺は状況を説明した。

 その間、タマとガルヴは互いに尻の臭いを嗅ぎあっていた。


「まだ侯爵夫妻は見つけていない。これから急いで探す予定だ。そのために鼻が利くシアとガルヴを連れてきたんだ」

「わう」


 その時、タマが大き目の声で鳴いた。

 周囲の使用人たちを無力化したと報告したので、やっと声を出すようにしたのだろう。

 賢い犬である。


「わうわう」


 タマは扉のところに行って、前足でカリカリする。

 それを見てフィリーが言う。


「タマはついて来いと言っておるのだ」

「そうなのか。じゃあ、ついて行こう。フィリーはまだ危険かもしれないから待っていてくれ」

「了解だ」


 俺たちは、フィリーを置いて部屋を出た。

 本当はもうあまり危なくはない。

 だが、マスタフォン侯爵夫妻が凄惨な状況になっている可能性もある。

 その場合、フィリーには見せたくない。


 俺がそんなことを考えている中、タマは迷いなくすたすた歩いていく。

 そして、とある部屋の前で止まった。


「わう」

「中に入れってことでありますかね?」

「恐らくな」


 一応、探知サーチの魔法をかける。罠は無い。中に誰も居なさそうだ。

 扉を開けると、普通の使用人部屋だった。


「特になにもないように見えるであります」

「がう?」


 ガルヴも一生懸命周囲の臭いを嗅いでいる。

 一方、タマはすたすたと部屋の中を進んでいく。そして奥の方まで行って止まる。


「わう」

「そこなのか?」

「わうわう」


 俺は改めてその周囲を探知の魔法で調べる。隠し扉が見つかった。

 厳重に隠ぺいと施錠の魔法がかけられている。

 タマがいなければ、スカウト技能の高い俺とシアでも発見まで時間がかかっただろう。


 魔法を解除して中に入ると、そこは広い部屋だった。

 ベッドに風呂とトイレ、その他、質素で簡易な家具が備え付けられている。


「あなたたちは、何者ですか」

 二人の初老の男女が驚いたような表情でこちらを見ていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る