第76話

 ミルカはかけらを上からじっと見る。

 それから臭いにも構わず、顔を近づけたり、遠ざけたりし始めた。

 その表情は真剣そのものだ。


「ミルカ、どうした?」

「これとこれだろ? そしてこれとこれがくっついて、これとこれだから、これとこれで……」


 ミルカはあっという間にかけらを組み立てていった。

 いくつか、足りないかけらがあるようだ。多少かけている。

 だが、八割がた復元できたと言っていいだろう。


「……すごい」

「ミルカやるわね!」

「ここここ」

 ルッチラとセルリスが感心している。

 ゲルベルガも少し離れたところで、鳴いていた。きっとほめているのだろう。


「へへ。大したことじゃないさ!」

「いや、本当に凄いぞ。ミルカにこんな特技があったとはな」

「照れるぜ」


 ミルカはすごく照れている。顔を真っ赤にしていた。

 ひとしきり、ミルカを称賛した後、組み立てられたものの検証に入る。

 組み立て終わった物体は、成人男性の手のひら大だ。


「なにかしら。これ。おぞましい形ね。呪いのアイテムかしら」

「呪いの力は感じないな」

「そうなのね」


 ヴァンパイアロードのメダルに素材が似ているのでそれを最初に警戒した。

 だが、どうやら呪いが溜まっているというわけではなさそうだ。

 その点はひとまず安心である。


「うーん。タコかしら。でも違うわよね」

「うーん。セルリスさんはこれを足だと考えているんですね? それならタコっぽくはありますけど……」

「これが足なら、こっちが上半身なのかい? おれには、さっぱりわからないぜ」


 セルリス、ルッチラ、そして組み立てたミルカにもわからないようだ。

 セルリスがタコかもと判断したのは、タコ足のようなものがあるからだ。

 だが、タコ足のようなものは八本以上ある。


「うーむ。足の数でもかぞえてみようか」

「十七本だぞ」


 俺が数え始めようとすると、ミルカが教えてくれた。

 実際に数えてみると、本当に十七本あった。


「ミルカ、すごいな。ぱっと見でわかるのか?」

「百超えたらしんどいけどな! 野菜販売店とかで小分けにする仕事とか昔やってたんだぞ」

「ミルカ、すごいわ! 天才ね」

「照れるぜ」


 ミルカには意外な才能があったようだ。頭がものすごくいいのかもしれない。

 照れ隠しするように、ミルカは言う。


「で、でも、上半身はこれなんだい? 人間でもなさそうだし。こういう生き物っているのかな?」


 上半身は比較的人型に近い。ただし、腕が合計七本ある。

 その上、コウモリの羽っぽいものまである。


「しかも、これ頭部がないわよね」

「うん。砕けた形跡はあるから、何かがついていたんだとは思うんだ」


 セルリスとミルカは真剣な表情で話し合っていた。

 ルッチラが言う。


「ロックさんでも、こういう魔物知らないですか?」

「俺も見たことないな」

「ロックさんでも知らないとなると、こういう魔物は存在しないのかもですね」

「うーん、どうだろうか」


 そのときセルリスが言う。


「金属なのに砕けるって珍しいわね」

「まあ、曲がる金属の方が多いよな」


 もろくて硬い金属なのだろう。


「とりあえず、臭いから洗うかい?」

「そうだな」

「じゃあ、おれが洗ってくるぜ」

「いや、ミルカは机を綺麗にしておいてくれ」

「了解だ!」


 仕方がないとはいえ、机に汚いものを乗せてしまった。

 きれいにしないと気持ちが悪い。


 俺は台所に変な像を持っていく。

 そして、ごしごしとあらった。血とかそういうのをとっていく。

 しばらく洗って、臭いがとれた。


 それでも、汚い気がするので、木箱に入れる。

 これで、机などに直接触れさせなくても済む。


「机綺麗にしたぞー」

「ミルカありがとう」

 そして、ミルカは手を洗う。


「手が臭くなったからな!」

「手洗いは大切だな」


 俺とミルカが手を洗っていると、ガルヴが見てくる。


「どうだ、ガルヴ?」

「……がう」

 まだ臭いようだ。さらに念入りに洗った。


「ガルヴ、どうかな?」

「がうっ!」

 ガルヴから臭くないというお墨付きをもらって、手洗いを終える。


 像の臭いもガルヴに嗅いでもらった。

 どうやら、臭いは落ちたようだ。


 臭いの落ちた謎の像を木箱に入れたまま、居間へと運ぶ。

 今ではルッチラとセルリス、ゲルベルガが待っていた。

 ゲルベルガはセルリスのひざの上に座っていた。


「ゲルベルガさまは可愛いわねー」

「ここぅ」


 セルリスがゲルベルガを優しく撫でている。

 ゲルベルガはとても満足そうに眼を閉じて、小さな声で鳴いていた。

 ルッチラも満足そうにうなずいていた。


「ゲルベルガさまは、威厳にあふれているだけでなく、可愛いのですよ」

「ゲルベルガさまは、可愛いよな!」

 ミルカも撫でる。


 一方、俺は机の上に謎の像を入れた木箱を置いた。

 それを見た、ルッチラが言う。


「宮廷錬金術士の方々に鑑定をお願いするしかないでしょうか」

「うーむ。だが、こんな怪しい物体を王宮にもっていくのもな」

「確かにそうね……」

 セルリスが真剣な表情でうなずいた。


 レッサーヴァンパイアを王宮に侵入させた、召喚魔法陣と同種のものである可能性もある。

 また、神の加護を緩和するアイテムである可能性も捨てきれない。

 王宮にもっていくには、危険すぎる。


 そんなことを俺が考えていると、玄関の方からシアの声が聞こえた。

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