第59話

 カビーノ邸にいた者たち全員を捕縛した後、シアや官憲の地区長を呼びに行く。

 シアたちは五人、地区長は三人捕縛していた。合計三十三人捕縛したことになる。


 俺とセルリスが捕縛した二十五人を見た地区長は、一瞬言葉をうしなっていた。

「……この数を、捕縛されたのですか?」


 俺は真面目な顔で言う。

「セルリスさんは、あのモートン卿のお嬢様ですから。それに冒険者経験は少ないとはいえ、戦闘力はBランク相当ありますからね」

「そうでしたか。血筋は争えないものですな。竜の子は竜というべきかもしれませんね」

「まさにまさに」


 俺はうんうんと頷いておく。

 その横ではセルリスが顔を真っ赤にしていた。

 色々言いたいのだろうが、俺がやったといえば、正体バレに繋がってしまう。

 だから言えないのだろう。


 嘘は全くついていないとはいえ、あとで謝っておこうと思う。


「ロックさんも、セルリスねーさんもすげーんだな!」

「がう!」

 ミルカとガルヴも大喜びだ。


 セルリスは地区長に状況を報告した。

 それが終わった後、地区長と一緒に屋敷内を探索する。


 魔法を使って隠し通路などを探すのだ。

 金庫なども見つけ出して解錠アンロックの魔法で開いていく。

 悪事の証拠の帳簿や多量の金塊や現金などが出てきた。


「ガウガウ!」

「む? そっちに何かあるのか?」


 周囲の臭いをしきりに嗅いでいたガルヴが目立たない戸棚に向かって吠える。

 俺が戸棚を調べると中には色々な食材が入っている。どれも高そうだ。

 一番奥に鍵のかかっている箱を見つけた。

 解錠の魔法で開けると、中からは高級そうなハムが出てくる。


「ガルヴ。これ食べたかったのか?」

「がう?」


 そしらぬふりをして首をかしげていた。だが尻尾を振っている。

 絶対いい匂いがしたから吠えたに違いない。しょうがない狼である。


 だが、地区長が俺が持つハムを見て目を見開いた。


「ロ、ロックさん。それは!」

「この戸棚に入っていたんですよ。さすがに、悪い奴はいい物食ってますね」

「ち、違いますよ、そういうことじゃないです。それはご禁制のハムでは?」


 ご禁制のハムとは初耳である。


「そんなものがあるんですか??」

「はい。ハムに見えるので通称ハムと呼ばれていますが、聖獣の肉に冒涜的な呪いをかけた呪具ですよ」

「そんなもの、なにに使うのですか?」

「私程度の下っ端には詳細は知らされていませんが、噂では人の精神を乗っ取るための儀式に使うとか」


 地区長ですら、知らされていないというのなら、結構な機密なのかもしれない。

 地区長の部下の一人が言う。


「私は魔神を召喚するいけにえに使うって聞きましたよ」

「どちらにしろ、恐ろしい話ですね」

「ええ。詳細はわかりませんが、これは単純所持だけで死罪になりかねないものですよ」


 国の上層部が本気で取り締まろうとしているのは確からしい。


「ロックさん。お手柄です。これが屋敷から発見されたという事実だけで、こいつらは一生自由になれないですよ」

「それは素晴らしい。ですが、俺の手柄ではなく、このガルヴの手柄です」

「なんと。ガルヴさん。ありがとうございます」

「がうがう!」


 ガルヴはどや顔で胸を張ってお座りしていた。

 食い意地が張っているだけだと思っていた。あとで謝っておこう。


 とりあえず、今は褒めてやるべきだろう。


「ガルヴえらいぞー」

「がう」

「よーしよしよしよしよし」

「がぅ」


 ガルヴは気持ちよさそうに、尻尾をぶんぶん振った。

 それからガルヴは張り切って、探索を再開する。


「ガウガウ!」

「お、また何か見つけたのか?」

「ガウ」


 今度は戸棚に向かって吠えている。

 調べてみると今度もハムが入っていた。


「地区長。またガルヴがハムを見つけました」

「なんですって! ……ああ、それはハムですね。おそらく豚肉のハムです」

「ご禁制とか?」

「いえ、近くの食肉販売店で売ってますね」

「なるほど」


 ただのハムだったようだ。

 だが、ガルヴはほめて欲しそうに、どや顔でお座りして、尻尾をぶんぶん振っている。


「……えらいぞ!」

「がう!」


 少し迷ったが、ガルヴも頑張っているのだ。ほめてやることにする。

 一杯撫でてやった。

 撫でてやっていると、シアがこちらを見ながらいう。


「ロックさん、こっちから怪しい臭いがするであります!」

「そうか。さっそく調べよう」

「はいっ!」


 なぜかシアの尻尾もぶんぶん揺れていた。

 シアが指摘した場所は、一見なにもないように見える。

 だが、魔法で探査すると、隠し扉を見つけることができた。


「厳重だな。怪しいな」

「はい! そうであります」


 隠し扉を魔法で解錠して開くと、その中には武器が大量に入っていた。


「武器庫か……」

「尋常じゃない量であります。クーデターでも起こすつもりだったでありますかね」

「もしくはクーデターを起こすつもりの奴に売るつもりだったのかもしれないな」

「なるほどであります」


 そういって、シアは目を輝かせて、耳をパタパタ、尻尾をぶんぶんさせている。

 俺は空気を読んで、シアの頭を撫でてやった。


「えへへ」

 シアは嬉しそうに笑った。

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