第57話

 俺たちは冒険者ギルドへと向かう。

 同行者は俺にセルリス、ルッチラとミルカだ。それにガルヴとゲルベルガである。

 ゲルベルガはガルヴの背に乗っている。


「コッ」「がう」


 背に乗ったまま、ゲルベルガはガルヴに指示を出しているかのようだ。

 どうやら、ガルヴの中では、ゲルベルガの方が自分より序列が上らしい。


 しばらく歩いて、冒険者ギルドに到着した。早速中へと入る。

 ギルド建物内部には簡単な食事をとるスペースが設けられている。

 シアは、そのスペースに座ってお菓子を食べながら、お茶を飲んでいた。

 シアの前にはアリオとジョッシュもいる。談笑していたようだ。


 俺の姿を見つけた途端、シアの尻尾がぶんぶんと揺れた。


「あれ? ロックさん、どうしたでありますか? 今日はギルドには来ないとばかり」

「ロックさん、引っ越したんだって? おめでとう」

「お引っ越しおめでとうございます」


 シアは少し驚いたような顔をする。

 Fランク魔導士のアリオは、嬉しそうに笑う。

 Fランクの弓スカウトのジョッシュは丁寧に頭を下げた。


 アリオとジョッシュはともにゴブリン退治をした仲である。


「おお、ありがとう。早速で悪いが、今暇かな?」

「ああ、ちょうどいいクエストもなかったからな。今日はお休みの予定だったんだ」

「人手が足りてないのなら、喜んでお手伝いしますよ」

「私も暇をしていたでありますよ!」


 アリオとジョッシュもシアも運よくクエストを受けていないようだ。

 早速、俺は切り出した。


「それはいい。一つ、頼みたいことあってな……」

「お、引越しの手伝いかい?」

「そうではないぞ。すこし危ない任務だ。断ってくれてもいい」

「ん。引き受けるぞ」

「お任せください」

「私も引き受けるでありますよ」


 アリオとジョッシュ、それにシアは快諾してくれた。


「詳しい話を聞いてから決めなくていいのか?」

「大丈夫だ。ロックの頼みなら断らないさ」

「そうですよ」

「私も、ロックさんの頼みなら何でも引き受けるでありますよ!」

「なんでもとか、軽々しく言わないほうがいいぞ」


 それから俺は仲間の紹介をする。

 セルリスやルッチラ、ミルカとガルヴやゲルベルガのことも紹介しておいた。

 ゲルベルガに関しては可愛いニワトリと紹介する。

 一応秘密にしておいた方がよいだろう。


 そして、対カビーノの作戦を説明した。

 アリオとジョッシュ、シアには裏口を固めてもらう予定だ。

 逃げ出した奴を捕まえてもらうためだ。


「正直、危険はあるぞ。断ってもいい」

「問題ないぞ。任せろ」

「腕がなります」

「そんな悪い奴が王都にいたなんて、許せないであります!」


 俺とセルリスは正面突破組だ。


「問題はゲルベルガさまなんだが……」

「コケッ」

「ルッチラとゲルベルガさま、そしてガルヴは正面入り口の外で俺たちの後ろを固めてくれ」

「了解です」

「がう!」


 ガルヴも張り切っているようだった。

 ガルヴは戦闘力は高い。だが、まだ子供なので、一頭にするのは不安だ。

 ルッチラと一緒の方が安心である。


 その後、俺たちはカビーノの邸宅へと走った。

 官憲の地区長との申し合わせた時刻に間に合わせるためだ。


 余裕をもって到着し、シアとアリオたちに配置についてもらう。

 その後、作戦開始の時刻になり地区長とその部下も配置についた。


 地区長は部下の中から、半数の十人連れてきている。

 全員連れてきて、日常の業務をおろそかにするわけにはいかないので半数だ。


「俺とセルリス、ミルカで行く。ルッチラたちはこのまま待機だ」

「武者震いがするぞ」


 ミルカは少し緊張しているようだ。怯えているのか少し震えている。

 あくまでも、表向きはミルカの保護者として、ミルカから手を引けと伝えに行くのだ。

 ミルカを連れて行った方が、話を進めやすい。筋も通しやすい。


 とはいえ、怖がっているのなら、ここで同行させることもない。

 話は面倒になるが、誤魔化すことは無理ではない。


「ミルカ。ルッチラたちと、ここで待っていてもいいぞ?」

「いや、おれはいくぜ! おれの問題でもあるからな」

「そうか。安心しろ。俺が守っているからな」

「お、おう。ありがとうよ」


 それから、おれはルッチラたちに言う。


「逃げて来た奴は任せる」

「お任せください。ロックさんこそ、お気をつけて」

「がうがう」「ココッ」


 みな気合が入っている。ガルヴは特に張り切っているように見える。

 昨日、音がしたのに起きれなかった失態を取り戻そうとしているのかもしれない。


「ガルヴ。無茶はするなよ」

「がう」

「ルッチラの言うことをよく聞くんだぞ」

「がう」


 俺はガルヴの頭をわしわしと撫でる。ガルヴは嬉しそうに尻尾を振った。


 それから、俺は玄関のベルを鳴らすために、カビーノ邸の玄関へ近づく。

 ベルを鳴らそうとした、まさにその時、小さな悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああ、誰か助けて!」

「逃げられるわけねーだろ!」

「お願い、許して!」


 悲鳴も怒鳴り声も建物の中から聞こえてくる。

 カビーノ邸は防音がしっかりしているらしい。

 玄関のすぐ近くまで寄っていたから、ぎりぎり悲鳴が聞こえたのだろう。


「緊急事態っぽいな。ミルカ、ルッチラのところで待機だ」

「うん。わかった!」


 ミルカがルッチラのところまで戻ったことを確認すると、俺は玄関の扉を切り裂いた。

 さすがは魔神王の剣だ。バターのように扉が切れる。

 その扉を蹴り飛ばして、俺は建物の中に突撃した。

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