第49話

 秘密通路の続きは、がれきによって隠されていただけだ。

 隠そうという意図は感じない。


「たまたま、うまいこと隠れただけみたいですね」

「そうだな」


 俺たちはがれきをどかして先に進む。


「どこに続いているんでしょうか」

 ルッチラは少し興奮気味だ。探検みたいで楽しいのだろう。


「ココゥ」


 俺の腕の中でゲルベルガは小さく鳴いた。怖かったからか、ずっと離れない。

 ミルカがゲルベルガを見て言う。


「さっきからずっと気になっていたんだけど、そのゲルベルガさまとかいうニワトリはなんだい?」

「あ、あなたねぇ」


 ルッチラが怒りだすのを俺は止めた。

 そして小声でルッチラの耳元でささやく。


「まだゲルベルガさまを狙うやつはいる。ただのニワトリだと思ってもらった方がいい。秘密は知るものが少ないほど漏れにくい」

「なるほど……そういうことでしたら……」


 ルッチラは納得してくれた。

 秘密を知るものが少ない方がいいのは確かだ。

 どんどん正体をばらしている俺は反省すべきだろう。


「ゲルベルガさまもそれでいいか?」

「コゥ」


 どうやら同意してくれたようだ。そんな目をしている。

 俺はミルカに笑顔で言う。


「この子はとても可愛らしいニワトリだぞ」

「お、おう? 明日のご飯ってわけでもないのか?」

「当然だ」

「ゲルベルガさまは大切な家族ですから! ご飯にするなんてとんでもない」


 ルッチラの剣幕にミルカは少し引いていた。


「金持ちのすることはよくわからないな!」

 そんなことを言う。


 その後、秘密通路をしばらく歩いた。


「思ったより長いな」

「そうですね」

「……厚かましいお願いなんだけどさ」

「どうした?」

「この通路で寝かせてもらえないかな」


 ミルカのお願いは意外なものだった。


「ここで寝るのか?」

「使わないんだろう? ここなら雨風もしのげるし……。下水の臭いもましだし。ぶっそうな大人も来なさそうだし」


 女の子っぽい口調ではなく、態度もがさつだが、ミルカは女の子だ。

 色々な面倒ごとがあるのだろう。


「それを決めるのは、どこに繋がってるか調べてからだな」

「そうかい。前向きに検討してくれよな!」


 そういって、ミルカはタタタと歩いていく。


「おい、先頭を歩くな」

「お、おう?」

「罠があったら、困るだろ」

「お、おう」

「先頭は俺で、ミルカ、ルッチラの順で進むぞ」

「了解です」

「ココッ」


 その隊形で進んでいくと、ミルカがつぶやくように言う。


「おれを先頭で歩かせれば、罠に引っかかるのはおれなのに……」

「そりゃそうだろ。だからどうした」

「おれがひっかかっている間に逃げたりするもんだとばかり……」

「ミルカには俺がそんな外道に見えていたのか」 

「ち、ちがうけど……金持ちってそういうもんだろ?」

「ミルカの知ってる金持ちは外道しかいなかったのか」


 ミルカの知っている金持ちと言えば、家を取り上げた金貸しぐらいだろうか。

 悪いイメージをもっても仕方ない。


「俺は子供を犠牲にするのは好きじゃない」

「そうなのか。いい金持ちなんだな」

「それに俺はスカウトでもあるんだ。単純な罠ぐらいすぐ見つけられる」

「すごいんだなー」


 その後は罠もなく、順調に進む。

 そしてついに行き止まりに到着した。


「これは硬そうな壁ですね」

 壁を調べながらルッチラが言う。


「通路だけ作るなんて、金持ちのやることはわからねーな」

「もしかしたら作る途中だったのかも?」

「なるほどな!」


 そんなことを話すルッチラとミルカをよそに、俺は壁を調べる。


「いや、この通路はもっと奥に続いているぞ」

「ただの頑丈そうな壁にしか見えないですけど……」

「ふさいだ形跡がある。しかも魔法まで使って厳重なことだ」

「そうなんですか?」


 魔導士でもあるルッチラが意外そうな顔をする。


「ほら、この辺りをよく見てみろ。触ってもいいぞ」

「あ、ほんとだ。ほんの少しだけ魔力を感じますね」

「おれは魔法はよくわかんないけど、ほんの少しだけってことは壁にかかっているのは弱い魔法なのか?」

「いや、かなり強力な魔法だ」


 俺は壁を改めてじっくり調べる。


「そうだな……王宮の宝物庫の壁クラスか」

「そんなにですか?」


 ルッチラが驚き、少し気落ちした様子を見せる。


「そんな強力な魔法なのに気づけないとは……恥ずかしいです」

「恥じる必要はないぞ。痕跡が見事に隠されている。気づくのも容易ではない」

「すごいもんだなー。ただの壁にしかみえねーのになー」


 ミルカがそんなことを言いながら、壁を撫でていた。

 強力な魔法をかけて、さらにそれを高等な魔法で隠ぺいしたのだ。


 素人には、いや、普通の魔導士でも気づけまい。

 一流の魔導士でもしっかり観察しなければ見逃してもおかしくない。

 そういうレベルだ。


「宝物庫にかけるレベルってことは、この奥にはすげー宝があるんじゃないか?」

「かもしれませんね!」

「コゥコゥ!」


 ミルカとルッチラはワクワクしている。

 ゲルベルガも興奮気味だ。


「解除して向こう側を覗いてみるか」

「はい!」

「楽しみだな!」

「ココゥ」


 俺は壁に手を触れる。使うのはただの解錠アンロックの魔法だ。

 だが、これだけの技巧を凝らされているのだ。

 ただの解錠とはいえ、成功させるのは難しい。


 俺は一応慎重に、魔力の流れを読んで、かけられた魔法を解読した。

 そして解錠の魔法を発動する。同時に、岩壁が音もなく崩れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る