第6話

 俺がゴブリン討伐クエを選んだ理由はいくつかある。


 第一に、依頼元の村が貧しいためだろう。とても報酬が安い。


 第二に、ゴブリンは人間の小児ぐらいの強さしかない弱い魔物だ。

 だが、群れになると厄介だ。舐めたら新人冒険者など簡単に死ぬ。

 数はそれだけで脅威となる。

 実際、ゴブリン討伐で命を落とす新人は珍しくはない。


 第三に、そしてこれが一番重要なのだが、村への被害は無視できない。

 ゴブリンは家畜を盗み、畑を荒らす。そして最後には人までさらうようになる。

 農村にとっては大きな脅威だ。


 そこまで考えて、特に厄介そうなゴブリン退治クエを受注することを決める。

 俺が受付で引き受ける旨を伝えると、受付嬢が心配そうに言う。


「ソロですか?」

「はい。その予定です」

「新人さんがソロでゴブリン退治というのは危険ですよ?」

「それは知っていますが、大丈夫です」

「ゴブリンを舐めて死ぬ新人さんは少なくないんです」


 引き留められた。

 俺の真のランクはSだ。魔法を使わなくてもゴブリン程度には充分勝てる。

 だが、表向きは新人の戦士ソロによるゴブリン退治だ。

 自殺行為に見えるのだろう。


 受付嬢が引き留めるのは純粋なる良心からだろう。

 リスクをきちんと説明できる受付は貴重である。ゴランの指導の成果だろうか。


 受付嬢と話し合っていると、後ろから声をかけられた。


「俺たちと一緒に行くかい?」

「君たちは?」

「俺たちもFランク冒険者なんだ。魔法使いと弓スカウト。前衛が足りてないんだよ」

「あなたは戦士なのでしょう? 一緒に行きましょう」


 声をかけてきたのは若い男の冒険者二人組だ。


 それを聞いていた受付嬢も、

「それがいいですよ! 絶対それがいいです!」

 強く勧めてくる。


 ソロでなければ生還率は跳ね上がるのだ。

 本当はソロがよかった。だが、受付嬢を説得する自信がない。


 それにFランク冒険者ということは、彼らも新人だ。

 新人育成も先達の役目。断るべきではないだろう。


「じゃあ、一緒に行こうか。よろしく頼む」

「俺はアリオ。ファイアーボールが使える」

「俺はジョッシュです。弓なら任せてください」

「俺はロックだ。剣を使う」


 実際に剣を使うので嘘ではない。

 俺の冒険者カードも、第二職業の方の戦士だけ表示されるようになっている。


 アリオとジョッシュの二人と一緒に王都を出た。

 門のところで衛兵にお礼を言う。

 衛兵たちは半裸の俺に服をくれた。


「この前はありがとうございました」

「いやいや。かまわんさ。それより知り合いには会えたようだな」


 俺の服装を見て、衛兵たちは笑顔になった。


「はい。おかげさまで」

「冒険に出かけるのか?」

「はい、ゴブリン退治です」

「そうか、気をつけろよ」


 再度お礼を言ってから、門を出た。

 そしてゴブリン被害の出た村へと向かう。

 道中、俺は二人に尋ねた。


「二人とも随分と若いんだな」

「そうか? 俺たちは、もう18だぞ。ロックもそう変わらないだろ?」

「いや……」


 そんなわけはない。

 30歳で次元の狭間に行った。それから10年戦った。

 だから40歳ということになる。


 だが、正直に言うと40歳のFランク冒険者ということになって怪しまれる。


「いや、アリオたちよりも、もう少し……いや、だいぶ上だ」

「そうか。若く見えるんだな」

「はい、若く見えます」


 アリオたちはお世辞がうまいらしい。

 いや、ゴランたちが俺が若返ったと言っていた。

 ドレインタッチの効果だろうか。

 やはり、ドレインタッチ美容法で金儲けできるかもしれない。


 そんなことを考えながら歩いていく。


 アリオたちとの会話の中で、出身地の話になった。

 アリオとジョッシュは田舎から出て来たばかりなのだという。


 田舎では魔獣退治やゴブリン退治などをしていたらしい。


「ゴブリン退治は得意なんだ。だからロックも大船に乗ったつもりでいいぞ」

「それは頼もしい」

「ゴブリン退治は面倒だが、農村にとっては脅威だからな」

「ロックさんも農村が心配で、ひきうけたのでしょう?」

「まあ、そうだ」


 俺がそう答えると、アリオたちは笑顔になる。


「そうだと思ったんだ。ゴブリン退治なんて新人でもやりたがらないからな」


 農村を心配している者同士ということで、意気投合することができた。

 アリオは明るいお調子者。ジョッシュは真面目で無口な青年の様だ。



 1日以上歩いて依頼元の村につく。到着時刻はちょうど昼頃。

 途中の野宿も久しぶりで楽しいぐらいだった。

 村人から被害の状態や、ゴブリンがやってくる方向などを聞く。


「牛が盗まれまして……」

「大体、西の方の柵が壊されていることが多いです」

「先日は、羊を……」


 かなり被害が大きいようだ。だからこそ、冒険者ギルドに依頼を出したのだろう。


「となると、巣穴は向こうの方だな」

「ああ」

「規模的にはゴブリン十匹ってところですね」

「そうだな」


 アリオとジョッシュの判断はそう間違ってないと思う。

 だから何も言わない。


 だが、少しゴブリンの規模を読み間違っている気もする。


 牛や羊を頻繁に盗むような群れはかなり大きいはずだ。

 十匹どころではないと考えるのが自然だ。


 それでも俺がいれば危険はない。アリオたちは危なくなれば助けてやればいいだろう。


 俺たち三人パーティーは、ゴブリンの巣穴があるらしい方向へと歩いて行った。

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