第57話 奴隷だった私は四天王の嫁になる2

今、イーラ達は村の外れにある、小さな小屋のような家に住んでいる。

助けて貰った時は村長の家に運び込まれたが、大分回復したと言うことで移動したのだ。

その家は、本当に小さな家だ。丁度、この村で空いている家がここしかなかったのだ。

小屋の裏には森があり、横には川も流れていのでおかげで水には困らない。

しかし、同時に冷たい空気も運んでくるのでかなり冷える。

しかも、小屋も小さく古いので隙間風もあり、風が吹くと外と変わらない寒さになる。

とは言え屋根があって寝る場所があるだけ、ありがたい。

イーラが家の近くまで行くと、物陰に小さな人影があることに気が付いた。その人影は物陰からイーラ達の家を見ている。

その人影は小さな子供だった。どうやらこの村の子供達のようだ。

その目線の先にはピアーズがいた。

丁度ピアーズが家を出てきたところのようだ。

それを、子供達は好奇心一杯っといった顔で見ている。


「何してるの?」


イーラは背後から近づきそう聞いてみた。


「わ!!」


子供達はびっくりしたのか。蜘蛛の子散らすように逃げてしまった。


「あれ?行っちゃった」


ここの村で暮らす子供達は、この村で産まれた子供がほとんどだ。

だから魔族が恐ろしいものだと聞いてはいるが、あまり見ないものだから物珍しいようだ。

その時、ピアーズが何かにつまずいたのかよろけた。


「ピアーズさ……ピアーズ!大丈夫?」


イーラは慌ててピアーズに駆け寄る。

二人は夫婦という設定になったので、イーラは様付けは止め、呼び捨てで呼んでいる。しかし、長い間敬称で呼んでいたのでまだ少し馴れなかった。


「すまない、大丈夫だ……」


イーラはピアーズの体を支え、近くに置いてあるベンチ替わりにしていた丸太に誘導する。

ピアーズは大丈夫と言ったが、表情はどう見ても辛そうだ。

ピアーズが目を覚まして、数日が経った。

なんとか起き上がれるようになったものの、そこからピアーズの体調はなかなか良くならなかった。

原因はユキも言った通りこの寒さと、それから粗末な食事と満足に医者にもかかれない事だ。

この村は本当に辺境にあり、周りには自然しかない。

当然、医者もいないし専門知識もないから、ピアーズの腕の切断傷も焼きごてを当てて傷口を焼き血を止めることしか出来なかった。

魔族の国に戻れば医者に見せ、栄養のある食事をさせることも出来るが、まずそこまで行く体力がない。

とはいえ腕を切られ、半死半生だったことを考えればまだましな方ではある。

だから村人たちには本当に感謝していた。

こんな真冬にただでさえ少ないであろう服や食料を分けてくれたし、雨風をしのげる家も提供してくれた。

ピアーズを座らせると、隣にイーラも座った。

体を支えた時、服の上からでも痩せたのがわかって辛くなる。体も冷えていた。


「寒くない?なにかいるものある?」


心配するイーラに、ピアーズは苦笑しながら答える。


「ありがとう。ちょっと外の空気を吸いたかっただけだから大丈夫だ」


少し微笑んだ表情を見て、イーラは少しホッとする。数日前まではこんな表情を見ることも出来なかったのだ。

イーラは思い出す。

なんとか意識を取り戻したピアーズだったが、その後も大変だった。

何日も高熱が続いたり、痛みのせいか眠ることも出来ず、眠ったら眠ったで苦しそうにうなされていた。

食欲も無く、水すら受け付けない日もあった。

それはそうだ、イーラを庇い腕は切られ体も兵器の攻撃のせいか傷だらけだった。

なんとかイーラの風の魔法で直撃は避けられたものの、その影響は避けられなかった。

だから、こんな風に外に出て歩けるようになったのは奇跡的でもある。

軍人でもあるし体力もあるから、これだけで済んだのだろう。


「無理はしないでね」


イーラはそう言って、せめて風よけになるようにとピアーズに寄り添う。


「そういえば、村の方が騒がしかったが何かあったのか?」


ふと、ピアーズが言った。


「ああ、商人が来てたんです」


この村は大陸の辺境にあり、人間や魔族から隠れるようにある村だ。しかし、まったく人の行き来がないわけではない。ハーフの味方になってくれている商人もいて、ここに度々物を売りに来るのだ。


「なにか新しい情報は分かったか?」


ピアーズがそう聞いた。商人は唯一の外の情報を持っている人物だ。

なので、その度イーラは色々あの戦いの後、どうなったのか噂を集めていたのだ。

イーラは今日、聞いた話を伝える。

今日は色々と分かったことがあった。

人間との戦いは、勇者が死んだことで人間側が撤退し、魔族側の勝利に終わったようだ。人間側に奪われた領地も取り戻した。

人間側は勇者を失ったことでしばらく何も出来くなり、この戦いは一旦終結という形にな落ち着いた。

戦いの跡地は兵器の攻撃の所為で、一部地形が変わるほどだったそうだ。


「まあ、そうなるように作ったからな。しかし、まさか自分がくらうとは想定してなかったがな……」


ピアーズは自嘲するように言った。そうしてまた聞いた。


「魔族国内の事は何かわかったか?」

「詳しい事は分かりませんでしたが……」


イーラはそう言った。情報はあくまで噂レベルの物だ具体的な事までわからなかった。

兵器の攻撃にピアーズが巻き込まれた事は、国ではすぐに問題になった。

当然だ、ピアーズは曲がりなりにも国の王族で王子なのだ。

すぐに何が原因なのか調べられた。そうしてすぐにカリスト・ミュリエルが関係していることが分かった。

もしかしたら、カイ達が生き残って、国に訴えて早く発覚したのかもしれない。

容疑者として捕まったのは、カリスト・デニセだ。

娘のミュリエルも関わったが、当然彼女一人の一人では屋敷を襲ったり作戦を妨害できるわけもない。父親のデニセも共犯だった。

デニセは私兵を集め、屋敷を襲うように命令し、勇者を攻撃するための兵器でピアーズもろとも撃つように計画を立て実行した。


「いくら、ピアーズ様に恨みがあったとしても、なんでばれないと思ったんでしょうか……」


イーラは呆れながら言った。そして、さらに続ける。

デニセは捕まってすぐに処刑され、財産も国に没収されたそうだ。

そうして、ミュリエルはというと。こちらも悲惨なことになっていた。

彼女は、運がいいのか悪いのか、戻る途中森で人間の兵士に見つかり襲われ攫われて行方不明になっている。


「生きている可能性は少ないですけどね」


たまにだが、こんな風に魔族が攫われる事は事例がいくつかあった。

いくら魔族の方が魔力が強くても、集団で襲われたら殺されることもあるし、ミュリエルのようなお嬢様だったら抵抗も出来ないだろう。

そして、攫ってどうするのかと言うと、ハーフの奴隷を産む道具にさせられるのだ。ハーフは格好の労働力だ。死ぬまで子供を産ませて、娼婦のような事もさせられるそうだ。ミュリエルがどうなったか、今生きているのか死んでいるのか分からないが、生きていれば死んでいた方がマシな状況なのは確実だ。

イーラは出来れば自分の手で仕返しをしてやりたかったが、こうなってくるとちょっと気の毒になった。


「ルカスや屋敷のその後はわかったか?」

「それは……」


イーラはそう言って言葉につまらせた。流石にそこまでは分からなかったのだ。

みんなの顔を思い出す。

エミリーやアーロン、フィンやジャックみんな無事に逃げられたのだろうか。

それに、透真のことも心配だ。沙知は大丈夫だと言っていたが、そもそも聞いた状況も夢みたいな状況だったから確信は持てない。

カイやルカス達もあの後、無事に逃げられたのかも分かっていない。

兵器の攻撃はすさまじいものだった。位置的に直撃は受けていないだろうが、衝撃波で負傷している可能性もある。

無事でいて欲しいが、今はそれを願うことしか出来ない。


「わからないか……まあ、仕方がないか」


黙ったイーラを見て察したのか、ピアーズはそう言った。


「すいません……」

「俺の事は、どういう扱いになってる?」

「……死んだと思われているようです。近く大規模な葬儀が行われるそうです」


決め手はピアーズの切られた腕だ。あれが奇跡的に残っていて発見されたのだ。

あんな攻撃に合い、そこに残っているのが腕だけとわかったら、誰でも無事だとは思わないだろう。

事実、吹き飛ばされ酷い怪我を負った。ここに辿り着かなかったら、いつ死んでもおかしくなかった。


「そうか……」


ピアーズはそう言って暗い顔をして黙り込んだ。


「あの、ピアーズ……」

「やっぱり、そういうことか……」


暗い顔のままピアーズがそう言った。


「……そういうことって……なんですか?」


よく分からなくてイーラは聞き返す。


「俺を殺そうとしたのはデニセで間違いはない。でも、他にも関わっている奴がいる」

「え?誰ですか?」


ピアーズは暗い顔で言った。


「……兄だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る