第22話 奴隷だった私と勇者のハーレム

イーラはその後、同じハーフで年齢も近いということで、ユキと同じテントで寝ることになった。さっき着替えたテントだ。


「部屋が少し狭いけど、ごめんね」


ユキはそう言って簡易のベッドを二つ準備してくれた。ベッドは組み立て式のもので一人がやっと眠れるくらいのものだ。とは言え、森の中で寝るのならこれでも贅沢なくらいだろう。


「ううん、こちらこそ。突然来たのに……ありがとう」


イーラは引き続き、勇者の話に合わせてそう言った。

ふとピアーズのことを思い出す。

本当なら今頃はピアーズの部屋で今日のことを報告しているはずだ。

暁斗はイーラが仲間になると勝手に決めつけていた。困ったことになってしまった。イーラとしてはピアーズの元に帰りたい。

暁斗は善意でしてくれたようだが、イーラにとっては迷惑でしかない。

もし、逃げるなら今夜じゅうに出て行った方がいいだろう。あまり長引くと余計出て行きにくくなる。

みんなが寝静まってから静かに出て行くしかないだろう。


「じゃあ、イーラはここで寝てね」


ユキはそう言って簡易ベッドを指差す。


「ありがとう」


そう言って、イーラはたベッドに座った。

シーツは綺麗だし、ユキは優しい。親切でやってくれているのがわかるので、出て行く計画を立てていることが申し訳なくなってくる。

それでも、帰らないという選択肢はなかった。

問題は無事に帰れるかどうかだ。

イーラはシーツを整えながら考える。

暗闇の中でなら、このテントから抜け出すのは簡単だろう。

しかし、夜の森は危険なモンスターが昼より活動が活発になる。昼ならともかく夜にモンスターと出会うのはかなり危険だ。

イーラは魔法を覚えたので多少は戦える。しかし、魔法使いというのは戦いにおいて後衛やサポートに回る事が多い。それは魔法は強力ではあるのだが、発動するのに呪文を唱える時間がかかるのだ。

逆に言えば、咄嗟の攻撃には向いていない。昼はカイがいたから戦えたが今は一人だ、経験も浅いイーラがモンスターに勝てるかどうかは運しだいだ。


「一か八か、空を飛んで帰るしかないかも……」


ほうきが無くても、空は飛べる。

テントから出てすぐに木よりも高く飛べば魔物の危険は少なくなる。空を飛ぶ魔物はいなくは無いが、視界が広ければ逃げる事は出来るだろう。

問題は、ここが森のどこにいるか分からないということだ。

混乱している時に連れて来られたから、どこか分からなくなってしまった。

要塞からそこまで遠くはないはずだが、空を飛んでもどの方向に向かえばいいか分からないのでは意味がない。

魔力は一度に使いすぎると魔力切れが起こってしまう。イーラは魔力は高い方だが反対の方向に飛んで、時間がかかり過ぎてしまえば、魔力切れの危険もある。

万が一魔力が切れて、森に落ちてしまったら最悪の事態になる。


「イーラ、暗い顔して大丈夫?」


ユキが心配そうに覗き込んできた。イーラは慌てて顔を上げる。ブツブツ言っていた独り言は、聞かれていないみたいだ。しかし、気を付けないと。


「大丈夫だよ。まだ、少し混乱してて」


イーラは慌ててそう言うと、ユキはホッとしたように笑う。


「そうだよね。急に環境が変わったんだもん、戸惑うよね。何か聞きたい事とかない?」

「えっと……ユキはここで何の仕事をしてるの?魔族と戦うなんて大変なことだと思うんだけど……」


とりあえず聞いてみる。あまり、怪しまれたくない。


「私は戦ったり出来ないから、みんなの身の回りの世話をしてるよ。食事を作ったり洗濯したり……あとは、暁斗様のベッドのお相手だね」

「……え?ベッドの相手?」


思わずイーラは目を丸くしてそう言った。

今のイーラは本も読めるようになったので、ベッドの相手をするというということがどういう事なのか、具体的に何をするのかも知識としては知っている。

驚いたイーラの様子を見て、慌ててユキは安心させるように言った。


「大丈夫だよ、暁斗様はお優しいかただから。みんなに、日替わりで順番にお相手してくれるんだ」

「みんなって、他の人も相手をするの?」

「そう、暁斗様はみんなを平等に扱いたいからって言って、順番にしてるんだって。今日はウェンディさんだよ」


ユキは普通の事のように言っている。ふと、イーラは気が付いた。


「あ……もしかして、私が使ってるベッドってウェンディさんの?」


いきなり、来たのにベッドが余ってるのは変だと思ったが、二人で一つのベッドを使っているなら余るのは当然だ。

それにしても、仲間になるとそんな事しないといけないのだろうか。

そう言えば関係ないかもしれないが、ここにいる女性はみんなスカートが短かったり肩を出した服を着ていてやけに肌の露出が多かった。みんな美人だから似合ってはいたが、こんな森の中でその恰好はたとえモンスターがいなくても危険だ。

イーラが借りた服もやたらひらひらしていて布が薄い。


「最初はすこし痛いけど慣れたらなにも感じなくなるし、終わるのは早いから大丈夫だよ」

「そ、そうなんだ……」


イーラは大体なにをするのかは知っているが、具体的な経験はないから、ユキがなんの事を言っているのかよくわからなかった。しかし、聞く気にもなれずにとりあえず頷く。


「まあ、私も最初は戸惑ったよ。何回も気持ちいい?って聞かれたり、終わるのが早いのに何回もするから疲れちゃったりしたんだけど、ファンニさんに相談したら、嘘でも気持ちいいって言ったり、演技してイッたふりしたらいいって教えてくれたんだ」


ユキは普通のことのように言った。しかし、イーラには意味がよくわからなかった。

イクってどこかに行くのだろうか?


「そっか……えっと……大変だね」


とりあえずイーラは話を合わせる。

ユキがあまりにも普通のことのように言うので、戸惑っているイーラが変なのかもと思い始めた。まあ、地位が高い人が妻を複数持つのはよくある事だ。とは言え、こんな危険な場所にまで連れてくることはないが。


「そんな事ないよ。暁斗様には大変な使命があるし、素晴らしい人だから、私達が努力するのは当然のことだよ。私は助けてもらった恩もあるしね」

「……ユキは偉いね」


イーラはとてもじゃないが出来そうになくてそう言った。そう言うとユキは恥ずかしそうな表情になった。


「そ、そんなことないよ。私もたまにしんどくなったりもするし」

「そうなの?」

「そう、暁斗様が言うには私はいつも笑顔でいなきゃダメなんだって。女の子だからって言ってた。あと、マイナスな事も言っちゃっダメなんだ、それが例え正しくても気分が悪くなるからダメなんだって……でも、ずっと笑っているのは流石に疲れてくるんだよね……」


ユキは少し暗い顔で言った。


「それは疲れるね」

「奴隷の時はそんな事言われたことなかったから、慣れなくて……あ!こんな事言ったって知られたら怒られちゃう。イーラ、この事は誰にも言わないで」


ユキは慌てて言った。イーラは頷く。


「誰にも言わないよ」

「ありがとう……でも、暁斗様には感謝してるのは本当だよ。死にそうになってるところを、助けてくれて。しかも毎日食事もできて、服も新しいのを買ってもらえたんだもん。こんなことで文句言っちゃだめだよね」

「そっか……」


本当にユキとイーラは境遇が似ているようだ。


「えへへ」


そう言ってユキは突然、照れたように笑った。


「どうしたの?」

「嬉しくって」

「嬉しい?」

「だって、同じハーフの女の子が仲間になってくれるんだもん……」


ユキが少し恥ずかしそうに言った。イーラはそれを聞いて胸が痛む。朝起きてイーラがいなかったら、ユキはどう思うだろう。

イーラは何とも言えなくて頷くだけにとどめた。


「じゃあ、そろそろ寝ようか」


そう言ってユキが灯りを消した。

ベッドに入り、イーラは横になった。出ていくにしてもみんなが眠るまで時間があるから、それまでに具体的な作戦を考えないと。

イーラはそっと、自分のバックを引き寄せる。出て行く時は忘れないようにしないと。

バックは少し濡れたが中は無事だった。服はまだ乾いてないから諦めるしかない。

バックの中には今日の狩りの資料や地図、それからヘンリーが持たせてくれたお菓子が入っている。

砦まで帰るまでに何があるかわからないが、これはどこかで役に立つかもしれない。

バックの確認が終わると、バックをお腹に抱えてユキが眠るまで、寝たふりをする。

テントの外ではざわざわと木々が揺れる音が聞こえた。どうやら雨は小雨になっているようだ。それ以外には何も聞こえない。

辺りが静かになると、段々不安になってきた。

真っ暗な森の中、本当に帰れるだろうか。

落ち着かなくちゃともう一度ギュッとバックを抱きしめる。

その時、遠くから馬の蹄の音がして、それと同時にピアーズの声が聞こえた。


「イーラ!イーラどこだ!」


イーラは飛び起きる。


「何?」


ユキもその声に起きたようだ。他のテントの人達も起き上がる気配がする。

イーラは慌ててテントから出た。


「ピアーズ様!」


イーラは一目散にピアーズの元に走ろうとした。

しかし、すぐに手を捕まれた。

見ると暁斗だった。


「イーラちゃん。大丈夫だよ、心配しないで君は僕が守るから」

「え?」


そう言ってイーラを守るように前に立ちふさがった。

その後ろからウェンディやファンニ、それからカーリーがテントから出てきた。


「なんだ?何があった?」

「もしかして、敵?」


その後からドナートも出て来た。そして、ピアーズの姿を見て驚く。


「ま、まさかあいつはピアーズ?」

「知ってるのか?」

「あいつは魔族軍の四天王の一人です。なんでこんな有名な奴がこんなところに?」


そう言ってドナートは眉をひそめた。

しかし、暁斗は自信ありげにニヤリと笑って言った。


「なるほど、中盤に出てくる中ボスって感じかな。よくあるイベントだな」


イーラには意味がよく分からなかったが、不安になる。相変わらず暁斗は何かを勘違いをしているようだ。

暁斗はまたイーラの方を向いてキリっとした表情で言った。


「イーラちゃん安心して。もう、あいつのところに戻らなくていいから。安全なところで隠れてて」

「暁斗……あの……」


イーラは戸惑う。何だかややこしいことになってしまった。その間に暁斗は剣を刷いてピアーズの方に走る。


「なんだ?お前?」


ピアーズが暁斗に気が付き、怪訝な顔になる。


「魔族め!イーラちゃんは渡さない!」


そう言って暁斗は魔法の攻撃を仕掛けた。ピアーズは驚いた顔をして咄嗟に剣でそれを弾く。

こういった剣で戦う場合、魔法を使っている暇はない。だから、直接剣に魔力をまとわせて威力を高めて使うのだ。


「っく!!」


暁斗の放った攻撃は重かったようで、ピアーズは顔を歪め怯んだ。


「よし!」

「よくわからなんが、戦うしかないようだな」


ピアーズは表情を変え、戦闘態勢に入る。すぐに激しい戦いが始まった。

目にも止まらぬ早業で攻撃が繰り出される。双方とも繰り出す攻撃は大きく周りの木や地面がえぐれていった。

二人とも攻撃力は同じくらいだが、戦いに慣れているピアーズの方が一枚上手のようだ。

ピアーズはたくみに攻撃をかわし、体力を温存して効率良く攻撃を繰り返す。

だんだんと暁斗は追い詰められていく。

イーラは今がチャンスだと思い、こっそりバックを肩にかけ、みんなが戦いに注目しているのをいいことにそこから離れようとした。


「イーラ?どこ行くの?危ないよ」

「っユキ」


ユキが気が付いてイーラの手を掴んだ。イーラは少し困った顔でユキと向き合う。そして、迷いなく言った。


「ユキ……ゴメン。私、帰るね」

「イーラ……」


その時、暁斗がピアーズの攻撃に耐えきれず膝をついた。

イーラは今がチャンスと、ユキの手を振りほどき、ピアーズに向かって走る。


「ピアーズ様!」

「イーラ!」


ピアーズがイーラに気がつき手を伸ばす。イーラはピアーズの手を掴むとひらりと馬に乗った。


「イーラ、良かった無事で」


そういってピアーズはイーラを抱きしめた。


「ピアーズ様……」


時間的にはそこまで離れていたわけではないが、イーラはピアーズの温もりにホッとする。


「イーラちゃん……もしかして俺のために自分を犠牲に?」

「?あいつは、何を言ってるんだ?」


ピアーズが暁斗との言葉に眉をひそめた。


「そんなことより、早くここを離れましょう」

「そうだな」


ピアーズはそう言うと、二人の姿を隠すようにし砂埃を立て、すぐにその場から離れた。


「くそ!イーラちゃん!騙されるな、そんな奴に着いて行ったらダメだ」


後ろの方で暁斗の叫ぶ声が聞こえたが、すぐに聞こえなくなった。

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