第9話 どれだけ悪いことしても、ちょっとロマンチックなシーン入ると良い奴風のバイアスがかかる回

「む、ユニコーンの姿が見えませんね。そう遠くには行ってないはずなのですが」

 


「そうね、あの様子じゃ長距離の移動は無理そうだし」

 


 サキュ子が冷静に分析をします。

 


「おねえちゃん、あそこ」

 


 サキュ美が指を指した先には、石造りの建造物がちょこっと覗いています。

 


 きっと棄てられた砦かなにかでしょう。

 


「へえ、あそこが怪しいわね。行ってみましょ」

 


 わたしたちは草木を掻き分け、ずんずんと進みます。

 


 するとそこにはやはりというか、砦がありました。

 


 ただ、苔むしてボロボロという印象はありますが、定期的に掃除が行われている痕跡があり、使い古された感じはしませんでした。

 


「うわあ、いかにも山賊が住んでそうな砦ですね」

 


「それは正解ですわね。監視塔をご覧くださいませ」

 


 エル子は声を殺して塔を指します。

 


 するとそこには、弓を持った女性の方がいました。

 


 


「お取り込み中のところ悪いのだけど、土を見なさい。蹄の跡があるわ。確かに馬か何かがここに入っていったのよ」

 


 サキュ子さんは頼りになります。

 


「どうしましょう。確かにここが怪しいのですが…」

 


「おねえちゃんなら、山賊なんて相手じゃない」

 


「そうね、強行突破と行こうかしら」

 


 サキュ美さんの提案に、サキュ子さんは乗ります。

 


「じゃあ、あんたたちは隙を見計らって入ってきて頂戴。先鋒は任されたわ」

 


 サキュ子さんは一瞬にして姿が消えます。

 


 瞬間、塔の上の弓兵の背後に現れ、うなじの辺りに膨大な魔力を流し込み、気絶させます。

 


「ま、日中だとこんなものね…姿隠しも不完全だし…」

 


 鮮やかな手口ですが、不満足げな表情を浮かべているようです。

 


「おい! なんでいあれは?」

 


「あっしにも分からねえが、敵ってことは分かるな!」

 


「敵襲! 敵襲でい!」

 


 山賊たちには即座に情報が共有され、戦闘体制になります。

 


「(速攻で片付けるから、もう少し待ってなさい)」

 


 魔力を使った念話で、サキュ子さんはわたしたちに声をかけます。

 


 


「さあさみんな〜! 月にちゅうも〜く!」

 


 サキュ子さんは空を指さします。

 


「日中なのに月だぁ〜?」

 


「月ィ? 月なんて…あ、あった!」

 


「どこだい?」

 


「ほら、あそこあそこ」

 


 山賊たちは、虚ろに空を見上げます。

 


「そんなまさか…日中に月なんて───」

 


 思わず空を見上げます。

 


「シッ。見ちゃダメよ」

 


「おわーっ! と」

 


 ですが、エル子さんがわたしの頭をねじ伏せます。

 


「ど、どうしたんですかエル子さん」

 


「あれは高等幻術魔法、虚ろの|鳥籠(ホロウケージ)。通常幻術は何か特殊な動きをする物体などの視覚情報と高度な魔力操作の両方があって初めて成立するのですが、あれは見なくても有ると知覚するだけで発動するもの。そんなものを月レベルの大きさで発動できるなんて…サキュ子さんが敵でなくて心底良かったと思いましたわ」

 


 …難しくてよく分かりせんでしたが、強いのは分かりました。

 


 


「さあ、何人かかかってないのがいるようだけど、片っ端から潰していこうかしら。あ、もう突入していいわよ!」

 


 そう言うと、上空から魔弾をいくつか放ち、何人かに命中させます。

 


「むう、威力低いわね。1人逃げちゃったわ」

 


 いやいや、十分おかしい威力でしたよ。

 


 床めっちゃ凹んでるし。

 


 人に撃つ威力ではない。

 


 


 


 


 


 


      *

 


 


 


 


 


 砦内にて

 


 


 


「へっへっへ。このユニコーンを売り捌けば、一体いくらになるのかねぇ。っと。後はこの傷を治せば…」

 


「く…うああ!」

 


「どうしたんだい? 傷は完璧に塞いでやったよ。 …まさか…! やっぱり。 こいつぁ強力過ぎる遅効性の毒! もうこいつは…いや、何か様子がおかしいねぇ。どんどん姿形が変わって…こいつぁ…とびきり美しい人間の男じゃないか! トゥンク…」

 


「ンつくしい人よ…時期に追っ手がやってくる。それも貴方では到底太刀打ちできるようなレベルではない…くっ…今のうちに…逃げるのです」

 


「追っ手だってぇ? まるであんたが殺されるみたいな…バカ言うんじゃないよ!…? なんであたいが熱くなってんだ? あんた、何か持ってるね。…これは、エリクサー! エリクサーじゃないか!? こんな値打ち品隠し持ってたのかい! こりゃあんたより価値があるだろうさね」

 


「フッ…貴方は物のンつくしさが分かるようですね…そんなンつくしい貴方には、それがお似合いだ。さあ、お逃げなさい」

 


「敵襲〜! お頭! とんでもない悪魔が攻めにきてまっせ! 地上は全滅で! もうダメです! ここはずらかりましょうや!」

 


「ノックもなしに入ってくるんじゃないよ! …ふん、本当に追っ手が来たのかい。でもそれじゃあんたは…」

 


「俺様はもういいのです。白馬の王子は、ンつくしくも儚くここで散りましょう」

 


「あんた…こんな身体であたいの身を案じて。馬鹿じゃないのかい…」

 


「ンつくしい人。どうか泣かないで…」

 


「…あたいの頭に手を回して…どうしたんだい、あたいのバンダナになんかついてるかい?」

 


「いいえ、こうしてバンダナを解いてみて分かりましたが、やはり綺麗な髪だ。貴方はンつくしい…」

 


「こ、こんな時にそんなこと言うな…言わないでよ…」

 


「おお頭! もう時間がありません! こんなやつほっといて行きましょうや! そのエリクサーさえあればどれだけの被害が出ようと十分儲けもんでっせ!  あっしらの組織は今よりももっと大きくなりまっせ!」

 


「あたいは…いや、あたしはこいつを…」

 


「お頭…? な! お頭! エリクサーを口に含んで…そんな…口移しだなんて!」

 


「んっ…」

 


「ぷはっ…」

 


「お頭! 頭どうにかなっちまったんですかい!?」

 


「すまないねぇ…あたしは白馬の王子様に、恋をしちまったみたいだ…女盗賊団失格だねぇ…もう、引退時なのかもしれないねぇ」

 


「そんなの…そんなの勝手すぎってもんですよ、お頭…うぅっ…」

 


「いいえ、まだ終わりではありません…」

 


「あんた、それはどういう…」

 


「貴方方のおかげで十分身体も癒えました。俺様はこれから、この恩義に報いるべきでしょう」

 


「そんな、あんたまさか!」

 


「…ふ。このユニコーン大久保が一世一代のンつくしき大勝負、しかと御照覧あれ!」

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