異世界デバッグおにいさん〜最強裏技士、異世界に閉じ込められるも無双しちゃうしハーレム生活も満喫しちゃうので魔王が頭を抱えている件!〜
第6話 ガイアが夜明けます!〜チート級の裏技を見つけてしまったので、今後無双する未来しか見えないんだが…〜
第6話 ガイアが夜明けます!〜チート級の裏技を見つけてしまったので、今後無双する未来しか見えないんだが…〜
「すごい熱気です…!」
「あわわわわ…」
炎、イメージ、砕く。
炎、イメージ、砕く。
その工程を何百、何千か?
もう数えられないほどに繰り返す。
調理:炎属性強化+1%
調理:炎属性強化+1%
調理:炎属性強化+1%
調理:炎属性強化+1%
調理:炎属性強化+1%
調理:炎属性強化+1%
………
「よし、これくらいでいいだろう」
やはり思った通りだ。
通常、エンチャントは重複して効果をつけられない。
だが、自分は『調理』を行っただけなので、エンチャントをつけることが出来る。
もっとも、その新たなエンチャントも調理扱いなので、無限に付けられる、というわけだが。
エンチャントを何度も行ったおかげか、エンチャントのスキルレベルも、俺自身のレベルも上昇している。
なるほど、このバグの場合は調理ではなくエンチャントのスキルレベルが上昇するのか。
名付けて『オーバーロード《積み過ぎ》』バグと言ったところか。
スキルレベルに至っては、もうベテランクラスのようだ。
俺はエンチャントのスキルツリーを確認する。
「ほう、ベテランになったらスキルポイントをつぎ込んで弱いエンチャントなら魔石が不要になるのか」
俺はその能力を獲得する。
このエンチャント方法の弱点としては、通常のエンチャントでは半永久的に付くのに対し、調理効果は時間経過で解けてしまう事だった。
なので莫大な魔石の消費だけはどうにかしたい所だが、この方法なら弱いエンチャントでも無限に行えば無尽蔵に強化が叶う。
この能力を取らないわけにはいかないだろう。
そうこうしているうちに、時間経過で効果が解ける。
「ふう、こんなものか」
「す、凄まじいと言いますか、まるで魔王を想起させるほどの魔力量でしたね」
「きっと魔王よりもすごかったわよ、今の…」
「それは間違いない」
みんなして俺を褒めてくる。
「そんなものなのか。グリッチとしてはまだ可愛いものなんだがな」
「それで可愛いって…」
「大体、最初に大量に魔石を消費している時点で再現性が低かったんだ。富豪サキュ子がいなければ成立しないグリッチだしな」
「それはまあ、確かに?」
サキュ子ももの分かりがよくてよろしい。
「でもデバッグおにいさん、グリッチを使ったらBANされてしまうんじゃ?」
アリ子が不安げに話しかける。
「いやいや、それはそれで良いだろう。現実に帰れるんだからな」
「それはそうですけど…」
そうだ。
この世界ではグリッチは使えば使うほど俺の得にしかならないのだ。
なぜこれほどに悲しい顔をするのだろうか。
問題があるとすれば、グリッチのし過ぎは飽きを早めてしまうことくらいだろうか。
強さの対価は飽きなのだ。
飽きというのは何よりも恐ろしい。
好きだったものが好きでなくなっていくあの感覚は決して忘れはしない。
まるでゲームが好きだった自分が自分で無くなっていくかのような…
「見つけたぞ。私の美少女をな!」
突如、めちゃくちゃでかくて野太い声が部屋に響く。
「誰だ!」
すかさず問いかける。
「私は魔王四天王が一人。悪魔っ娘を愛でる者、ヴァンパイア加藤!」
そう声が聞こえると、目の前にコウモリが集まり、1人の男の形になる。
それは牙を持ち、青白い肌にうさんくさい帽子を被った黒マントの男だった。
「おのれヴァンパイア加藤! 何をしにやってきた!」
「なんとなく察してくれてると思うが、私は悪魔っ娘を貰いにやってきたのだ! 主にサキュ子、貴様だ!」
ヴァンパイア加藤はサキュ子を指さす。
「えぇ…シンプルに無理…」
サキュ子がこれまで見たことも無い冷たい視線を送る。
「なっ…」
青いおじさんは固まる。
そして続ける。
「いいもんね〜! ヴァンパイアは美しい女をこうマントでバサッと覆って攫うのが定石! では失礼します」
青いおじさんはバサッと布を広げる。
「えいっ」
サキュ子は布を尻尾でぺしっと跳ね除ける。
「な、馬鹿な〜! 何気にインドぞうも身動き出来ないほどの麻痺魔法が込められたマントなのに!?」
「可哀想なおっさんだな…」
あまりの哀れさに、つい同情してしまう。
「デバッグおにいさん、こいつで試し撃ちしてみる?」
「ああ」
サキュ子の提案に、俺は二つ返事で答える。
さて、四天王との初バトル、気合い入れていくか!
「エンチャントファイア・オーバーロードッ!」
俺は先ほどの手順で調理を使って上着を無限にエンチャントする。
「な、なんだそれは! ただのエンチャント魔法で心なしか体格や骨格まで変化しているような!」
それもそうか。
エンチャントスキルを持つエンチャンターは、パッシブで僅かに魔力に比例して力に補正が入るんだったな。
つまり多少身体が属性によって変化するわけだ。
そう、炎の魔力を大幅に纏った状態で殴れば!
「行くぜ必殺! 火パンチ!!」
俺の放った必殺の一撃は、ぐにゃりと相手の身体をへし曲げ、さらに火だるまにする。
「ぎゃああああ!アツゥゥゥ!いた、アツゥゥゥ!」
男はひたすらに悶える。
が、なかなかどうして倒れない。
「ほう、しぶといな」
「私の能力は不死身あつあつあつ! スキルによって一撃で倒れないんだアッツ!」
なるほど、つまり二撃目を食らわせればいいわけだな。
「来るな、来るな来るな来るなぁぁあアツゥゥゥ!」
俺はジリジリと距離を詰める。
あと3メートル、
2メートル。
1メートル。
「食らえぃ! 火パンチ!」
「ひぃぃい!」
瞬間、力を入れすぎて上着が弾け飛んだ。
「あっ」
しまった。
パンイチになってしまっては、上着に付けたエンチャントの効果がない。
これからはエンチャントするならパンツにだな。
「今だあああ!」
コウモリおじさんはコウモリになって逃げる。
「あ、待てぃ!エンチャントファイア・オーバーロード、パンツエディション!」
俺は燃え盛るパンツで男を追い回す。
「来るな来るな来るな来るな来るなァ!」
「まてまてまてまてまてまてまてィ!」
逃げると捕まらないたろうが!
「鬼ごっこですね…鬼の吸血鬼が追われる側ですけど」
「うんうん」
サキュバス姉妹はこくこくとアリ子にうなづいていた。
*
くそう!
しぶとい男だ。
ようやく撒けた。
いつまで中年男性を追い回せば気が済むのだろうか。
しかも身体を触らせろ! とか言ってくるし。
おかげでもう真夜中だよ、ホント。
仕方がない、プラン変更だ。
適当な女の子をこの屋敷で見つけて、持ち帰る。
サキュ子はどストライクだったが、今はそれで良い。
私はやたら長い廊下を警戒しながら歩く。
しかし本当に部屋がないな。
なんか廊下も心なしかどんどん豪華になって広くなってってるし。
進んでいくと、ついに突き当たりに到着した。
「なんだ、何も無いな」
1人つぶやく。
当たりを見渡す。
とりあえず壁に背中をつけ、リラックスして座り込む。
するとどうだろう、背後の壁がどんどん沈んでいく。
「おおぉ……!」
しまいには、どてっと背中から倒れてしまった。
仰向けになって壁を見ると、それは壁ではなく、とてつもなく大きな扉だったのだ。
行き止まりではなかったのか、そう安堵して進もうとした瞬間、背中に悪寒が走った。
「お前、よくも僕の娘に手を出そうと…」
扉の先の部屋から、せせり泣くような声が聞こえる。
そこには大き過ぎる椅子があり、二つの赤い光が灯っている。
「誰かいるのか〜?」
思わず呼びかける。
返事は無い。
しばらく固まっていると、二つの赤い光がぐらりと動き出す。
周囲の空気が凍てつく。
凍りついたかと思いきや、血が煮えたぎるような熱い何かがせりあげてくる。
何かは分からないが、身体が燃えて、凍る。
やがてその二つの赤い光は、何かの眼光だと気がつく。
「な、なんだ…」
身体が動かない。
凍っているから?
燃え尽きたから?
全身の感覚が無いのだ。
周囲にはノイズのようなものがかかり、何もかもが直視できない。
赤い双眼はゆらりゆらりと、こちらに近づいていく。
いや、まだ椅子に座っているような。
違う近づいている。
「死に晒せ」
後ろから声が聞こえる。聞こえていない?
何
も
分からな
い。
感覚が
バラ
バラに な
って───
男は死の間際に思い出す。
旧魔王と呼ばれた男には相棒がいたことを。
男は思い出す。
旧魔王亡きあと、たった一人で魔界の財政を建て直した男のことを。
男は思い出す。
裏の魔王、その人を。
*
「色々あったが、魔界旅行は楽しかったな!」
朝食もうまいうまい。
マヨネーズがなくとも、サキュ子の料理はとても美味い。
「ちょっと、旅行じゃないから! 遊びじゃないのよ」
「でもおねえ、楽しそうだった」
ナイスフォローだサキュ美。
「ですねえ。楽しい一日でした!」
アリ子も満足そうだ。
「サキュ子パパ。娘は大事にするからな!」
「ひゃ、ひゃい!?」
またキョドキョドと。
裏の魔王と呼ばれる片鱗を微塵も感じさせてくれないな、この男は。
なんというか、ワクワクしてた俺の中の少年の心が可哀想だ。
「言い方考えなさいよホント。まあパパ、そういうわけでしばらく留守にするからね」
「つまりそれって…」
アリ子がピュアな目でサキュ子を見つめる。
「なんていうのかしら。彼女たちなら大丈夫な気がするのよ」
「そーですか!? 嬉しいです!」
「おねえちゃん…ワタシも…」
サキュ美がもじもじと呟く。
「ん?どうしたのジゼル」
「ワタシも行きます」
「え? え?」
誰よりも妹を知っているであろう姉であるデゼルが1番困惑している。
「おねえちゃんが行くなら…家でのワタシの作業量が増えてしまうじゃないですか」
「そういう理由かよ…」
思わず突っ込んでしまった。
「えぇ!? ジゼルも行っちゃうのかい? パパちょっと生きていけないかも…」
サキュ子パパがおろおろと泣き出す。
大の大人が何やってるんだ。
「パパにはガーゴイルのメイドさん達がいるでしょ」
サキュ子が切り返す。
「だって彼女たち、僕には冷たいんだよぉ。洗濯物は別にしてくださいとか、加齢臭がするとか、暇な時に声かけても『おやじギャグは聞き飽きたので』とかいって相手にしてくれないし!」
中年の心からの泣き言に思わず同情してしまった。
「じゃあそんな感じでうまくやってちょうだい。ジゼルも連れていくからね」
「そんな〜」
サキュ子パパはあまりにもショックだったのか、とぼとぼと泣きながら部屋をあとにする。
「さ、あとで準備しましょうね〜」
「了解です、おねえちゃん」
サキュ姉妹は仲睦まじいな。
「旅の仲間が2人も増えるだなんて…」
アリ子は終始嬉しそうでなによりだ。
俺は、サキュ子パパがあまりにも可哀想だったので様子を見に行くか。
屋敷の屋根に、中年のぼさぼさヒョロガリおやじはいた。
「サキュ子パパ、同情するぜ…」
「ん?…ああ君か。デバッグおにいさん、だっけ」
風に吹かれ、ボサボサの頭がなびく。
哀愁漂うな。
サキュ子パパは続ける。
「ちょっと大事な話があるんだ、聞いてくれないかな」
「ああ」
俺はサキュ子パパの隣に座る。
「実はね、僕の大事な娘たちが旅に出ることは嬉しいんだ。それと同じくらい悲しいけど。いや、かなしさの方が上かもしれないけど。でもね、デゼルのあんな楽しそうな顔は初めて見たんだよ」
パパの珍しい真剣な眼差しに、黙って聞く。
「彼女は元々僕が甘やかして育てたのもあるし、僕の家が大きいから友達からも対等に扱って貰えたことがなくてね。友達は多くても、心はいつも1人だったんじゃないかな。父親がこんなこというの気持ち悪いけどね」
身近な誰かが困っているのに助けてやれないのは、どれだけ苦しいだろう。
きっとその立ち回りは、父親では無理なのだ。
自分はそんな体験をしたことがない。
ないからこそ、未曾有の絶大な苦しみを想像してしまう。
「あだ名を付けてもらったのはきっと君が初めてだ。だからあだ名で呼んであげてほしい。きっと彼女もそれで喜んでくれてるだろうからさ」
そんな経緯があったのか。
孤独ではない孤独。
そんなものに心を蝕まれ続けていては、きっと心を壊す。
俺にできることは、せいぜい彼女をあだ名で呼んでやることぐらいだ。
なら、その仕事くらい完遂してみせよう。
「ああ」
「娘を、よろしく頼むよ」
「ああ、任された」
俺とサキュ子パパはガッチリと握手する。
「おおっと」
あれ、思ったよりサキュ子パパ、力強いな。
思わず重心を崩して倒れそうになってしまった。
「さて、風が強いし、僕もくよくよしちゃいられない! さ、娘を見送りに行こうかな!」
「ああ、がんばろうな!」
「お互いに!」
それと、なんとなく彼女がマゾな理由が分かってしまった気がした。
すまんなサキュ子。
「あ、デバッグおにいさんどこいってたんですか?」
アリ子の元気な声に呼ばれる。
「ちょっと屋敷のメッシュのデバッグにな」
なんとなくサキュ子パパとの会話を隠しておきたくて、咄嗟に嘘をついてしまう。
「もう、アンタがいないと旅が始まんないんだから。しっかりしなさいよね」
つんつんした態度でサキュ子が吠える。
「遅刻厳禁…」
ボサボサ頭で慌てて荷物を詰めてタッチの差で俺より早く来たサキュ美にマウントを取られてしまった。
「あー、待って待って…まだ行かないで…お見送り間に合った〜…」
サキュ子パパ…最後までなんか情けないな…
「パパ…。行ってくるね!」
「行ってきますです」
「ああ…もちろん、僕の娘なんだから心配はしてないけど…その、うん」
もごもごと、サキュ子パパは口ごもってしまう。
「こういう時くらいビシッと決めて欲しかったな…」
「うん…それはそうだけど。仕方ないだろ〜、これが僕なんだからさ。さあ、行ってきな!」
「…うん!」
「…いってきます」
彼女たちは振り返る。
決して忘れない、過ごした日々を。
それは俺もアリ子も、誰でも同じこと。
過去も思いも背負って、人の身体には重すぎるそれを背負って、それでも誰もが同じようにして歩き出す。
平凡でも困難な日々を、歩き出す。
これはなんてことない、そんな日常の物語の1ページに過ぎない。
今日も、明日も、これからも、ありふれた日常を過ごす。
こうして俺たちは、階段を昇る。
まあ、魔界の長い一日は、こうして幕を閉じたのだ。
これから俺の旅は始まる。
「さあ、行こうか!」
新たなバグを探す冒険が今、始まる───。
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