第4話 姉属性ツンデレロリツインテピンク髪箱入り令嬢系ドエムむっつりサキュバスガールとマジで全然話してくれない水色サキュバス(妹)

 人通りの多かった中央から離れ、のどかな雰囲気の木造住宅街で彼女を待つ。

 


「しかし、このゲームが夢ではなかったとはな」

 


 俺がこの世界に昨日飛ばされてから色々あった。

 


 チュートリアルを終え、魔王とエンカウント。そしてヒロイン美少女と出会ったのだった。

 


「うぅ…デバッグおにいさん…」

 


「どうしたアリ子。そんな悲しそうな顔をして」

 


「それがですね、私、おかあさんから旅は男一人とじゃダメだって言われちゃいました」

 


「確かに、それは言えてるな…」

 


 彼女をパーティに入れるには、男二人でも難しそうだな。

 


 つまり、他の女の子をパーティに入れる必要があるわけだ。

 


「わざわざ来ていただいたのにすみません。ほら、デバッグおにいさんは他の仲間を探してくださいよ」

 


「ああ、そうだな。行くか」

 


「ええ、いつかまた会えたら、その時はよろしくお願いしますね! うぅ…また会えたら…」

 


「いやアリ子も来るんだよ」

 


「へ?」

 


「だから要するに、他の女の子を捕まえればいいわけだろ。そしたらいきなり3人パーティじゃないか」

 


「デ…デバッグおにいさぁん!」

 


 彼女は無垢なまま俺に抱きつく。

 


 素晴らしい胸の物理演算だ。

 


「ああ、いい胸だ…」

 


「ふえぇ…!? ああいえ、ま、街に行きましょうか! しゅっぱーつ!」

 


 しまったな。

 


 このゲームは作り込みが素晴らしい。

 


 素晴らしすぎて、迂闊な発言にも反応してしまうようだ。

 


 次からは発言に気をつけよう。

 


「それではデバッグおにいさん、ジャンプしてください」

 


「お、グリッチか?」

 


「いいからいいから」

 


 アリ子に急かされ、俺は跳ねる。

 


「あ、ああ。こうか?」

 


「そう!

 


 


 


 


 …という事でやって来ました街です!」

 


「色々あったな…まさかアリ子が優しい野菜売りの老人から違法賭博中のならず者、果ては犬にきびだんごを与えてスカウトしようとするとはな…ちなみに今のジャンプは?」

 


「|編集点(ファストトラベル)って言うらしいですよ。よくわかんないですけど」

 


 


 …それはそうと、先程から思っていたが、アリ子のツボや布団を押し売るような勧誘手口ではきっと仲間はいつまで経っても増えない。

 


「なあアリ子、ここは二手に別れて勧誘しないか? ほら、作業効率も2倍だろ?」

 


「むー、仕方ないですねえ。確かにデバッグおにいさんがいてはこう、なんか怖いですし、パーティに加入するまではデバッグおにいさんの存在は明かさない方向で行きますか」

 


 


 そうではないんだ、アリ子。

 


 そしてその詐欺スタイルが多分原因だぞ。

 


「あーそう、その通り! じゃあ俺は酒場でも行ってみるから、アリ子は適当に時間でも潰しておいてくれ! 噴水広場に夕暮れ待ち合わせな!」

 


「了解です! ん? 時間を潰しておいてくれ…? まいっか」

 


 


 


 よし、俺一人にはなってしまったが、パーティメンバーを集めようか。

 


 


 こういう時は酒場が定石なんだよな。

 


 まずは酒場に向かおうか。

 


 そう考えながら人気のない裏路地を進んでいく。

 


 この方が近いからな。

 


「やーっと見つけたわ! デバッグおにいさん! ここで会ったが百年目!」

 


 キンキンと頭に響く甲高い声とともに、フードで顔を隠した人物が立ちふさがる。

 


「お前は誰だ!」

 


「私は高潔なるサキュバスにして王立魔族院首席のデゼル様よ!」

 


 彼女はフードを脱ぎ捨てる。

 


 そこに立っていたのは、以前俺の前に立ちふさがった強敵、サキュ子だった。

 


「ああ、誰かと思えばサキュ子か」

 


「この際サキュ子でもなんでもいいわ。今日はアンタに伝えたいことが…」

 


「そんなことは知ったことではない。サキュ子、仲間になれ!」

 


「はい?????」

 


 サキュ子はぽかーんと口を開け、フリーズした。

 


「おいサキュ子、おーい」

 


 反応がない、ただの屍のようだ。

 


 仕方がない。

 


「どらぁ!」

 


 とりあえず腹部目掛けて回し蹴りをかます。

 


「ぐぇっ!げほ…こほっ…痛気持ちいい…じゃなかった。ちょっとアンタ、何すんのよ!」

 


「急にフリーズされたらバグか回線の問題か疑うだろ?」

 


「おえっ…ふぅ…何よそれ。とにかく、アンタの事情は知らないけど、あたしにだって色んな事情があるのよ。大体、あたしは魔族よ?人間のアンタとは仲良くなれそうにはないと思うんですケド」

 


「そんなことは関係ない! 仲間になれ!」

 


「はあ!? 種族が関係ないっていうの? あたしサキュバスよ? それでアンタは獲物。捕食対象でしか無いわ。それでもいいって言えるかし…」

 


「仲間になれ!」

 


「…あの、アタシの話」

 


「仲間!」

 


「アンタなんなのよ。一体なんなの!?」

 


「…何度も言ってるじゃないか。仲間だよ」

 


「トゥンク…」

 


「…よし! 今だ!」

 


 隙をつき、彼女めがけあるアイテムを放り投げる。

 


「きゃあ! 一体何よこれは」

 


 それはサキュ子の身体を縛り、拘束する。

 


「簀巻きだ。よし、サキュ子ゲットだぜ!」

 


「放しなさいよ! こんな全身に食い込むほどきゅうきゅうと締め付けて気持ちいい…じゃなかった! 気持ち悪いのよ! やめなさい!」

 


「…もしかしてサキュ子お前、マゾなのか?」

 


「そんなわけなあぁん♡ 急に締め付けなひゃん!?」

 


 表情が一瞬になって惚けたり、キリッとしたりで忙しそうだ。

 


 


「…まあそこはひとまず置いといて、広場に戻るか。きっとアリ子も首を長くして待っているだろうし」

 


「もう、なんなのよ〜! あっあっおっおっおっ♡」

 


 


 


「おーい! アリ子〜!」

 


「あ、デバッグおにいさん! …って、なんですかそれは」

 


「何って簀巻きサキュ子だが。よっこらせっと」

 


 俺はサキュ子を解放する。

 


「えっ、もう終わり? じゃなかった、よくもやってくれたわね!」

 


 サキュ子の顔が恥ずかしがっているのか、怒りからか、またはその両方なのか分からない表情で俺を見つめる。

 


「そうカッカするなよサキュ子。改めて紹介するよ、新メンバーのサキュ子だ」

 


「え…あ、はい! よろしくお願いしますね!」

 


 アリ子はペコリと頭を下げる。

 


「はあ…あたしは仲間になった覚えはないわ。…そうね。デバッグおにいさんと、アリ子ちゃん?って言うのかしら。そんなにあたしを仲間にしたいのならアンタたち、一度あたしの実家に来なさい」

 


 サキュ子は呆れたような表情で俺たちを見つめる。

 


「ほう、それはなぜだ?」

 


「魔族との文化の違いをイヤというほど教えて、諦めさせるために決まってるでしょ? それとも魔界に来るのが怖いのかしら」

 


「言うじゃないかサキュ子よ。では行ってやろうじゃないか」

 


「ええ、行きましょう! 魔界大冒険なんて、そうそう出来ることではありませんからね!」

 


 ああ、アリ子はノリがいいな。

 


 


「そう。アンタたちが初めてよ、そんなノリで魔界に来る人は。エロイムエッサイムエロイムエッサイム…」

 


 そうサキュ子が呟くと、目の前の空間が歪む。

 


「古くないか? その呪文」

 


「いいのよそんなこと! 今度新しいの考えておくわよ…」

 


 


「サキュ子さんすごいです! 転移門を開けるのは上級魔族にしか出来ないんですよね!」

 アリ子は目をキラキラさせている。

 


「ふふん、すごいでしょ。魔族でもあたしとパパ、あとは魔王様とその使い魔くらいしか使えなかったはずよ」

 


「パパはどんな人物なんだ? 転移門を開けるってことは相当強いんだろうなあ」

 


「そうね、パパは最強よ。何せまぞく財閥の会長だし、財界の魔王、裏の魔王と呼ばれているわ。パパに出来ないことは何も無いって噂されてるけど、噂じゃなくて正真正銘の事実よ」

 


 


 裏の魔王、どんな凶悪な面構えをしているのだろうか。

 


 これは少し警戒レベルを高める必要がありそうだ。

 


 


「そんなに強そうなのがいるのか。もしかしてお父さんに会うことになるのかな」

 


「それはないでしょうね。パパは多忙だし。さ、雑談はこれくらいにして行きましょ」

 


「おう、そうだな」

 


「では、しゅっぱーーつ!」

 


 


 転移門をくぐる。

 


 空を見上げると、暗く紫色。

 


 芝生も紫。

 


 花も紫。時折彩度キツめ明度高めの花。

 


 


「すごいセンスだな、魔界」

 


「おお、ここが魔界。禍々しいですね…」

 


「そう? あたしからするとアンタたちの世界が地味すぎなだけだと思うけどね。さ、ウチはこっちよ」

 


 


 俺たち一行はサキュ子に案内されるがままに魔界を突き進む。

 


「おいおい、俺たちの生徒会長、デゼル様が人間を連れ帰ってきたぞ!」

 


「きっと餌にされてしまうんだろうか、うらやまけしからん! いやおそろしい!」

 


 周囲の魔族たちがザワザワとざわめきだす。

 


「何か言われてるぞサキュ子よ…今なにか変な視線が」

 


 何か一瞬、攻撃的な視線を感じた。

 


 魔王の手下だろうか。

 


「…気にしないで頂戴」

 


 しばらく黙ってなすがままについていくと、大きな城のようなものが見えてくる。

 


「すごいな、ここは魔王城なのかな。だとしたら幹部に見つかると厄介そうだが」

 


「いや、ここは魔王城じゃないわ。ただの家よ。あたしのね」

 


「へ?」「え?」

 


 俺とアリ子はきょとんと見つめ合う。

 


「さ、入って。魔王に見つかると厄介なのよ」

 


「お、おう」「はい…」

 


 東京ドーム一個分はあるぞ、一般住宅…。

 


「遅かったですね…おねえちゃん」

 


 そうポツリと呟く水色の少女が、門を通った先に立っていた。

 


「ジゼル〜!」

 


 サキュ子はそう呟くと、その水色少女に飛びついた。

 


「もう、仕方ないおねえちゃんですね。ついでに今晩のご飯係の権利も差し上げます」

 


「やった! 今日は好きなものなんでも作ってあげるからね」

 


 多分それ、騙されてるぞ、サキュ子よ。

 


「あの、サキュ子さん。そこの方は?」

 


 アリ子が問う。

「この世界一可愛い美少女はジゼル。あたしの妹よ。あと生きがいね」

 


「左様ですか…」

 


 アリ子も勢いに飲まれ、たじろいでいるようだ。

 


「どうも初めまして、ジゼルと申します」

 


「サキュ子2号…いや、サキュ美と言ったところか」

 


 俺は爽やかに挨拶を返す。

 


「おねえちゃん、そこの無神経なバカはなんですか? というか彼らはなんですか?」

 


「ああそれは…かくかくしかじかで…」

 


 サキュ子が状況をサキュ美に伝える。

 


「なるほど、事情は理解しました。ですがそれはそれ。あたしのおねえちゃんをそうやすやすと渡すわけにはいきませんので。そうですね、では、まぞく式恐怖の衣食住生活を1泊体験していただきましょう。おねえちゃん、それで良いですね?」

 


「初めからそのつもりよ。さあ、あがりなさい」

 


「おねえちゃん、今日はパパが帰ってきてますので、まずパパに話をつけておいた方がいいと思いますよ」

 


「げ、今日パパいるのかあ。仕方ないわね、ちゃちゃっと顔だけ合わせてくるわよ」

 


 


 まさかこんなにも早く財界の魔王と称されるサキュ子の父と会う事になるとは。

 


「そうだな。行こうか」

 


「うう、私ちょっと緊張で震えてきました…」

 


 さあ、裏の魔王様との対峙と行こうか。

 


 


「ここが居間よ。パパがいるわ。あ、お勤めご苦労さま」

 


「お嬢様、おかえりなさいませ。ご無事でなによりです。お父様はこちらで怠惰をむさぼっておられます。どうかキツいのをお見舞いしてあげてくださいませ」

 


 石像? のようなメイド服の女性と話している。

 


 俺が分からなそうにしていると、サキュ子が解説をする。

 


「彼女はガーゴイル。ここでメイドをやってるわ」

 


「へえ、そうなのか。さしずめお嬢様って感じだな」

 


「そんなことはどうでもいいわ。さ、入りましょ」

 


「ああ、いざご対面───」

 


 とても大きな城の外見には見合わない六畳半ほどの質素な居間が広がっている。

 


 ───えーそれでは、魔界ニュースです。今日の井戸地下では、スイーツ商戦が繰り広げられており───

 


 魔ュースが魔界テレビから垂れ流しになっている。

 


 魔スルメに魔ィネガーを机に置き、魔コタツの中で男は横たわっていて───

 


 ───そしてボリボリと尻を掻く。

 


「パパ、ただいま」

 


「おー、おかえり…って誰なんだい君ら!?」

 


 男は振り返る。

 


 男はボサボサ頭で縁の大きいダサめの眼鏡をかけ、ヒョロヒョロな姿をしていた。

 


 


「お前がサキュ子パパなのか!?」

 


 もっと強そうな人物を想像していたから、あまりの驚きについ詰め寄ってしまう。

 


「ひゃ、ひゃい!?」

 


 男から情けない声が漏れる。

 


「お父さん。娘を俺にくれ!」

 


 俺が続ける。

 


「「「「はい!?!?!?」」」」

 


 満場一致のはい!?!?!?が響く。

 


 なにかおかしなこと言ったかな。

 


 いやいや、至極当然な流れだろうに。

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